カニ日記

息子の成長と日々の記録

春に翻弄されるのも悪くない

3月25日(日)快晴 8分咲き
好きな人に一月ぶりに会うことに緊張し明け方3時に目が覚めそのまま眠れないで起きていたら朝になった。朝になって眠くなったがサイが起きて寝ることもできない。朝食洗濯掃除のち近所の公園にサイと出かける。桜の木の下でコンビニや売店で買ったたこ焼きや焼きそばを食べた後、二人でシャボン玉をした。サイは飽きもせず手元と洋服をシャボン玉液でべとべとにしながら3本分くらいシャボン玉を吹き続けた。私が吹くとシャボン玉ができる前に邪魔をして壊そうとしてくる。サイは自分の小さなシャボン玉に不服そうだったので、私がゆっくり息を吐くとこんな風に大きくなるよと見せるとサイも真似をしてふぅーっとゆっくり吹く。大きなシャボン玉ができると嬉しそうだった。それにしても吹くのが随分うまくなった。最初は吹くか吸うのかさえ分からなかったのに。それから噴水が抜かれている岩場で探検隊ごっこをした。その後滑り台。私は日光に当たり続けてだんだんバテてきたがサイは遊びを辞める気配が全くなかったので「ねぇ、アイス食べない?」とサイの大好物で釣る作戦に出た。それまで何を言っても聞かなかったサイは「アイス」というキーワードで目を輝かせ滑り台を即離れた。大成功。セブンティーンアイスの機械には行列ができていた。ほとんどのアイスが売り切れで前にいた兄弟と思わしき子ども達が「あれこれもない」「あれ?」と×印がついていることにも気付かず押し続けていた。幸運にもサイの好きなバニラは残っていた。日陰に二人で並んで腰掛け二人でひとつのアイスを食べた。あっと言う間になくなった。アイスで満足したサイはすんなり帰宅に応じてくれた。
 
くたくただったので少しだけ昼寝しようと思いサイと一緒に布団に入ったら、次に起きた時には出発時間だった。外で流れる帰りましょうの音楽で起きた。あーやってしまった。サイはまだ気持ちよさそうに寝ている。慌てて準備していたらKが帰宅したので交代で出発。出際に「おかあちゃん、出かけて来るね」と言うとサイは家着から着替えた私をじっと見つめて悟り、怒った顔をして黙り込んでしまった。置いていかれると思って拗ねたようだった。こんな寂しそうな顔は初めてなので戸惑った。「ごめんね、帰ってくるからね」と抱き締めて後ろ髪引かれる思いで家を出た。本当は休みの日の夜は出かけたくない。もうサイのこんな顔は見たくない。
 
大森靖子さんのファンクラブイベント続・実験室へ。大森さんがとにかく可愛かった。チェキ会でうまく話せなかった。いつものことだけど今日は特に酷かった。言うことを考えて何度も頭の中で繰り返していたのにいざ対面すると真っ白になって。帰りの電車で嬉しい幸せな気持ちと自己嫌悪がぶつかり合っていた。好きな人と話すのになぜみんなあんなに冷静でいられるのだろう。好きな人に会えるってそれだけで一大事件だ。今日も可愛かった。遠くから目が合うとにーっと笑ってくれた。帰宅してぼんやりした後お風呂に入って寝た。
 
 
3月26日(月)
サイは私が食べようとした桃のヨーグルトを「ダメ!サイくんの!」と奪って食べる。物は何でも好きに手に入るわけではないと教えたいが、兄弟がおらずこういう時に競り合う相手もいないのでどう教育すべきか悩ましいところではある。私が競り合ってもなんだか違う気がするし。そこは保育園や学校で気づいてもらうしかないのか。月曜日なのでバタバタ登園。新年度に備え、新しい部屋に移動し今度は出入り口に近いので廊下を歩く手間が減る。それだけで時間短縮になっている気がする。
昼、同じ年頃の子どもを持つお母さん社員さん達とランチ。もうすぐみんな違う支店に行ってしまう。誰も同じ境遇の人がいなくのは少しだけ不安だ。明日休むのでお迎えを代わってもらい少し残業して帰宅。サイは先にごはんを食べていた。夕食後、サイとお互いのお尻を先にタッチした方が勝ちという謎の遊びをゲラゲラ笑いながらやった。お尻とおっぱいがサイの最近の一番の興味対象らしく毎日触ってくる。私が逃げるとひーひー笑って追いかけて来る。サイが逃げて私が仰々しく追いかける。ドタバタとトムとジェリーみたいだった。入浴後、就寝。
 
 
3月27日(火)快晴 9分咲き
朝。やや寝坊。みかん味のヨーグルトがイマイチだったのか半分食べたところで「よるにおいとく」と言う。私が残った食べ物を次に回す時にサイに言うのをよく聞いて覚えていたようだ。一日有休を取っていたのでまあいいかという意識でいたら出発がいつもより1時間遅れる。サイが「こっしーやってない」と言ってたが時間がずれているので終わっていた。「おかあさんといっしょ」を観ていた。9時すぎに保育園に着くとほとんどの子が既に登園していて教室内は動物園状態だった。え、こんなに煩かったけと驚くほどぎゃーぎゃーしていた。まあ一人でも相当煩いので納得したが先生はすごいなとしみじみ思った。「おうちが~」「あれが~」と次々に子ども達が話しかけていてもちゃんと優しく対応していた。今年のクラスの先生は皆とてもいい先生だが、来年は先生一人当たりの園児数も増大する上に新しい先生になるから少し不安もある。
 
サイと別れて午前中、某所で某相談。このために休みを取った。具体的なアドバイスをもらえて前向きになれた。これを頑張ろうという強い意思も芽生えた。何にもやらないことには何にも始まらない。相談を終え外に出るとほぼ満開に咲き誇る桜が美しかった。外国人が写真を撮っていた。私も撮ろうと背後に接近して撮っていたら気付かなかったらしく振り返って驚かれる。桜を撮るのは難しい。カメラに収めると何か色褪せてしまい、眼で見たような光景が撮れたためしがない。
 
午後、さいあくななちゃんの展示を見に新宿から小田急に乗り岡本太郎美術館へ。感想や気持ちを綴っていたら長くなったので別途。
夜、お迎え。野菜の甘辛卵とじ、しらすごはんという質素な夕食。サイは私が見ていない一瞬にシラスをパックごとひっくり返し中身を全部自分のお茶碗に山盛り入れていて、「わぁ!かけすぎだよ」と驚くと怒れらていると感じ取ってわんわん泣いた。別に怒っているわけではないのになぁ。難しい。入浴後、就寝。布団に入って『おおかみと七ひきのこやぎ』を読んだ。おかあさんヤギはおおかみが寝ている間にお腹を切り裂いて食べられた子ども達を救出し代わりに重い石を詰め、そのせいでおおかみは井戸に落ちて死ぬ。知っているはずだったけど改めて読むとおおかみが可哀相に思えてきた。サイも「なんでおおかみさんいしいれられちゃったの?」とおおかみに同情していた。私はその気持ちが大切だと思ったので「おおかみは子ヤギを食べちゃったけどおかあさんヤギがおおかみのお腹に石を入れたのはよくないね」と思ったことを返したら納得していたようだった。
 
 
3月28日(水)快晴 満開
これぞ春という陽気。サイは起きる直前、突然「あははははー」と起きている時と変わらず大きな声で笑った後またすーっと眠った。寝言だったらしい。何の夢を見ていたのだろう。パンとバナナと牛乳。バタバタと出発。新しい教室になりサイがコップやタオルを自分で設置してくれるようになったのでとても助かる。保育園ではほとんど漏らすことがなくなったのでオムツも持っていかなくなって楽になった。それは赤ちゃんの時から思っていたけれど成長するにつれて荷物が減る。もちろん嬉しいのだけど私が数年前と変わらずぼんやりしている間に着実にサイは大きくなっていて驚かされるし僅かに寂しい。
 
出社して午前中外出。気持ちが良い天気。打ち合わせなのに眠くなってしまった。退社後、会社の近くを歩いて満開の桜を見る。夜空に浮かぶ白い桜はこの世のものでなく、いつか見た夢のような光景だった。地面から自ら根を引き抜いて今にもずずずずと歩き出しそうだった。怖くて美しい。当たり前だが生き物なのだなと思った。遠くに月が見えた。写真に撮ったが眼で見たようには撮れず後で見たら夜空にポップコーンがはじけているようだった。この光景を切り取ろうとすること自体間違っているのかもしれない。駅の雑貨屋で一目惚れしたクジラのぬいぐるみを買った。眼が半開きでなぜかもしゃもしゃのヒゲがあり絶対におじいちゃんだと思ったら「赤ちゃんクジラ」とタグに書いてあった。でもどう見てもおじいちゃんだ。
 
 
3月29日(木)快晴 満開 
春だ。サイが気持ち良さそうに寝てなかなか起きないので「新しく来たクジラちゃんいるよ!見てみる?」と言うと飛び起きた。ちょっと奇妙な顔つきだったので気に入るか不安だったがとても気に入ったようでひゃーと言って抱き締めた後一緒に朝ごはんを食べていた。「クジラちゃんパン食べるのかな」と聞くと「くじらちゃんパンきらいなんだって。バナナとぎゅうにゅうがすきなんだって」と自分のコップに入った牛乳を飲ませてあげていた。それから机の上に置いていたキャラメルコーンの小袋を勝手に開けて食べ、「くじらちゃんこれもすきなんだって」と言う。「え、キャラメルコーンも好きなんだ!というかそれ全部食べたらダメだよ」「うん、ばななとぎゅうにゅうときゃあめるこーん」それって本当はサイが好きな物じゃないだろうか。バナナと牛乳とキャラメルコーンが好きなクジラ。サイはメロンパンナとクジラちゃんを両手に抱いて登園。自転車に乗っているとクジラちゃんはヒゲが風でなびくのを嫌がっているとサイは教えてくれた。
 
夜、お迎え。サイの入園以来ずっといた園長先生が3月末をもって退職される。園長先生はとても優しく可愛らしくサイにも他の生徒にもいつも名前を覚えて話しかけてくれた。入口には季節折々の綺麗なお花や飾りがいつも飾ってあった。そういうのが好きな人なんだろうなと思っていた。サイは美しく飾られた花を見る度に「おかあちゃんのすきなおはなだね」と教えてくれた。保育園の雰囲気はこの園長先生によるものが大きいと思っているからいなくなるのはとても寂しい。別の保育園に変わってしまうくらいの動揺と不安がある。お母さん達からの信頼も厚いので、皆次々に挨拶していた。私も話したいと思ったが人がたくさんいたので遠目から見ていた。こういう時に気後れしてしまいいつもうまく入れない。昔からずっとそうだった。サイと自転車に乗って帰宅。コンビニでサイはお菓子を我慢できた。偉い。
 
帰宅即ビール。飲みながら料理するのが好きだ。夕食はしらすとチーズのオムレツ(サイが卵を割ってかき混ぜてフライパンに入れた、しらすとチーズめちゃくちゃ美味しい!)、トマト、ミートボール。夕食後、サイは「くだものやさんごっこ」をしたいと言い、いつか私がしたようにダイニング椅子を一つ運んできて空洞になっている背もたれに自分でハンカチをかけた。それからもう一枚ハンカチを持ってきて頭に巻いてくれと言われた。果たしてそれが果物屋さんの正しい姿なのか分からないが赤ずきんというか真知子巻にしたら喜んでいた。それでハンカチの奥からいらっしゃいませーと声をかけてくれたので「桃下さい~」と言うと私が以前作った紙でできた桃をくれた。顔がついているのとないものがあったので、ないものには描くように言われる。入浴後、就寝。シャーリー・モーガン作/エドワード・アーディゾーニ絵『あめあめ ふれふれ もっとふれ』を読む。読む本はいつもサイが選んで保育園から借りて帰る。わりと絵本には詳しいと思っているがまだまだ知らない絵本がある。『あめあめ ふれふれ もっとふれ』も初めて知ったが挿絵も言葉もとても好きな感じだった。なかがわちひろさんの訳がよかったのかもしれない。手前味噌だが、読み聞かせが随分上手くなってきた気がする。登場人物ごとに声色や抑揚を変えると楽しい。あと台詞には感情を込めること。とにかく役になりきりその場面に身を投じる。雨で外に出られない子ども達が窓の外を眺めながら色々と妄想する話だった。やや話が長かったので私の方が先に眠くなり読みながら全然関係ない言葉を口走ったりして何度もサイに「ちゃんとよんで!」と注意される。サイも眠そう。なんとか最後まで読み終えて絵本を閉じたらサイは即寝。とうに終わったのに未だ観れていない三回分の『anone』を観たかったが私も眠気に負ける。
 
 
3月30日(金)快晴 肌寒い
昨日までと打って変わって寒い。花冷えというやつだ。朝ごはんのあんぱんを割って「くりーむがよかったなぁ」とつぶやく。え、餡子好きじゃなかったっけと思いつつ子どものブームはすぐ去ることを改めて実感する。昨日コンビニで買ったブルガリアヨーグルトを二つの器に分けて入れてくれる。全然こぼさなくて上手に入れられるようになったなぁと感心。やりたがっているし料理もどんどん手伝ってもらおう。
 
お昼休み、そうだ園長先生に花を贈ろうと急に思い立ち、持参したおむすびを3分くらいで食べて会社から少し歩いた場所にあるお気に入りの花屋さんに行った。今日は予約なしでは難しいと最初言われとても忙しそうだったが諦めきれずお願いすると特別に作っていただけることに。好きな人には好きな花屋で買いたい。サイが好きなピンク色で小さな花束を作ってもらう。自分のものでなくても花屋で色んなお花を見たり花束を持って歩いているだけで嬉しい。ありえないくらい大きな花束をいつか誰かにあげてみたいしもらってみたい。時代が変わり技術が発達してどんどん色んなことが簡素化されても、花を贈る文化だけはずっと残り続けて欲しいなと考えていた。それから、普段あまり行けないミニストップで「完熟あまおう苺ソフト」を買い、公園のベンチに座って食べた。空気は冷たく肌寒いけれど日差しがぽかぽかと気持ち良かった。桜の花びらが空を舞っていた。右隣の男子高校生は塩むすびを食べていた。左隣のおばあちゃんは何もせずただ桜や空を眺めていた。私は綺麗なピンク色をしたアイスを食べながら色々なことを考えていた。静かだった。外に公園で過ごすのは気持ち良いので昼休みにまた来ようと思う。
 
夜、お迎え。園長先生に挨拶する。昨日と同じように園長先生に挨拶している数組の親子がいた。話している親子の後ろで話が終わるのを待ちつつサイに「園長先生に花束渡してね」と言うとサイは使命感に燃え、親子に割って入って渡そうとしたので「まだだよ、順番ね」と制止した。こういうところがいかにも子どもらしくて良い。前の親子が去るとサイは少し恥ずかしそうに花束を渡した。私は園長先生がいてくれたことでサイというより自分がどれほど救われたか安心していられたか、思いの丈を伝えた。クラス最後の日なので、保育園の廊下は挨拶する親や先生でざわついていた。私が数日前に出た貼紙通知をちゃんと見てなかったせいで見落としていたが、担任のK先生(MJ似の一番歳上の先生)が別の園に転勤で今日で最後だと知る。お花も手紙もない。しまった。とにかく挨拶はしようとサイと先生にお礼を言う。サイは照れて話の途中でどこかに消える。状況を呑み込めていないようだったので「K先生と今日でもうお別れなんだよ」と教えると「なんで?」「別の保育園に行くんだよ」「……Kせんせいにえをあげたい」紙がない。仕方なく私の鞄に入っていた画用紙の切れ端と保育園にあったマジックを渡すとサイは廊下の床に座ってアンパンマンのような顔を描いた。それを持ってまた教室に入り奥で書き物をしていたK先生に渡す。K先生は驚いたような顔をして喜んでくれた。涙目だった。本当はもっとちゃんと用意できればよかったのだけど。改めてお礼を言い先生がサイに向き合おうとするとサイは教室の扉まで逃げ背中を向けチラチラこちらを見てスカしたような顔をしていた。完全に照れ隠し。それで先生はまた涙目になった。サイらしいなと私も思った。いつもより遅めに園を出て帰ろうとしたらサイは誰もいない暗い園庭から明かりがついた教室の窓の側まで一人歩いて行き、中にいるK先生をじっと見ていた。私はあえて一緒に行かず離れて見ていた。しばらくして中にいる先生が気づき泣きそうな顔でサイに手を振った。サイは最後の別れが済むと満足そうに私のところに来た。サイなりのやり方。春は出会いと別れだなとしみじみ感じながら自転車を漕ぐ。月が綺麗だった。

帰宅して夕食。豚肉と小松菜の卵炒め、トマト、ごはん。食後、『ぐるんぱのようちえん』。私も好きな絵本なので張り切って読む。入浴後、就寝。


3月31日(土)快晴 散り始め
春の陽気。朝ごはん、掃除洗濯。サイと歩いて公園へ。桜がはらはら舞っていて美しかった。そういえば春らしい写真を撮っていなかったと気付きサイに桜の前に立ってもらいiPhoneを向けるも歯を剥き出して変顔ばかりされる。公園は花見客で大混雑。この同じ場所で人が誰もいない真夏の炎天下、たった二人でピクニックしたなと急に思い出す。売店で適当に買ったものを誰かのシートとシートの間のスペースで食べる。大きなシートを広げて無人で場所取りされている部分がけっこうあり、昼間いないのなら昼間は他の人に譲ればいいのになぁと少し思う。でも見えていないだけで実は透明な人達が今そこで宴会していたらと想像して面白くなった。幽霊のお花見。

それからサイとTSUTAYAに行ってマクドナルドでアイスとポテトを食べた。食べ終わってサイはこんなアイス食べたくなかった、バニラアイス(公園のセブンティーンアイス)がよかったと急に騒ぎ出す。収集つかずそのまま手を引いて歩き始める。サイは歩きながらわんわん泣き叫んでいだ。あー仕方ないなと思っていたらいつも通る川が流れている橋に差し掛かり、二人で「あっ」となった。川がピンク色だった。よく見ると桜の花びらが水面にびっしり浮かんでいた。絵本みたいになんとも不思議な光景でサイと私はしばし無言でその光景に見惚れた。サイは泣き止んだ。「ピンクだね〜」と言い、また歩み出した。春がサイを泣き止ませた。

再び公園で遊んだ後帰宅してサイは昼寝。私はまともに食べなかったので急にお腹が空き、いただいたおやつを食べた。サイはまもなく起きた。夕食は買ったもので手抜き。入浴後、就寝。


4月1日(日)快晴 桜吹雪
お花見シーズンもいよいよ終わりか。朝からサイと電車に乗り、去年も行ったお花見に出かける。もうベビーカーなしでどこにでも行けるようになった。駅で友達と待ち合わせしてスーパーで買い物してバスに乗って向かう。スーパーで食品を触ったり走り回ることもなくなった。成長したなぁ。バス停や着いてからも迷い辿り着くまでに相当時間がかかったので知っている人の顔が見えた時はほっとした。主催のSさんが着いて荷物も置かないうちからビールはここにあるよと教えてくれて、私が今ビールを飲みたくて仕方ないことをよく分かっている人だなと思った。陸に上がると死んでしまう魚のような顔をしていたのかもしれない。

大勢の大人達に圧倒されて最初は靴を脱いでシートに座ることさえしなかったサイだが、サイに優しく接してくれた人達のおかげで次第に打ち解けて笑い声を上げていた。全く去年と同じだ。サイはギターを弾かせてもらったり、食べ過ぎて膨らんだお腹をふざけて見せびらかしたり大人達に混ざって楽しそうにしていた。私の方が多分うまく混ざれておらず、シートの端の方で飲んだり食べたりしていた。それでも好きな人達とゆっくり会話して楽しかった。サイは人見知りが激しいが慣れると愛嬌を振りまくのて世渡り上手というか私よりずっとうまくやっていけそうだ。ギターを弾いて好きな歌を歌う人がいたり辺りを散歩したり眠る子がいたり自由な空気が流れていた。花びらがブルーシートの上の食べ物や人の頭に舞い落ちていた。サイは花びらを「はる」と呼び必死に集めていた。

暗くなり解散してまたバスに乗って帰宅。サイは帰りの電車で寝てしまい抱えたまま家まで歩いた。夕食後、入浴。布団の上でかるたをした後パタンと就寝。楽しかったね。

 

去年のお花見以来一年ぶりに会えた人や久しぶりに会えた人がいて嬉しかった。こうやって季節が巡り春に桜が咲き、花見という大義名分のもと何となく同じ場所に集まって同じ景色を見ながら話したり笑ったりしてそれぞれまた元の生活に戻っていくって何だかいいなと思った。冬が終わり春が来ると植物が芽生え生き物が動き始めて私も毎年少し浮き足立ってそわそわする。外に出かけたくなるしその時にしかない美しい時間を好きな人と共に過ごしたくもなる。訪れる春はあと何回だろうか。また来年。

なぜしずかちゃんはお風呂が好きか将来君とビールを飲みながら語り合いたい

日記がちゃんと書けなかった週。いつも習慣として朝、前日の日記を書くが今週は何となく手がつかなかった。そもそも日記を書くのは義務でないし誰かに求められているわけではない。サイの成長とそれに関わる私の生活があまりにも面白いので記録しておきたいと思って始めただけだ。最初の日記にも書いたが理想は武田百合子さんの『富士日記』。作家である夫・武田泰淳との富士山での暮らしを綴ったものだが、初めて読んだ時、毎日休むことなくこんなに細かく記録された日記があるのかと驚いた。何を食べたとか、どこへ行ってどんな人に会って何を感じたとか生々しいほど仔細に記されていて自分がそこで一緒に生活しているような気さえして、日記の世界に引き込まれるように熱心に読んだ。『犬が星見た』というロシア旅行記や他の随筆も入手できるものはほぼ全て読んだが文体や瑞々しい表現は一貫している。いつだったか、武田百合子の文章が好きだとある本好きな人に話した時、「あの人の文章はちょっと怖いよね、読んでいると怖くなる」と言われたことがある。それも分かるなと思った。感情表現が繊細すぎて時に怖くて震えるが、呼吸するように継続された記録は雪の結晶のように美しい。だからそういう記録をしてみたいと思った。私の日記を読んでくれている(いた)友達に「事細かすぎて滅入る」と言われた時やったーと思った。

あと、町田康さんの日記(http://www.machidakou.com/diary/ )も好きだ。百合子さんのように細かくないが、繰り返し同じ表現方法で毎日休むことなく淡々と記されている。続けて読んでいると暗号のような町田さんの造語が何を指しているか理解できて面白い。小説の時とは違い、続けて読んでいる人にだけ分かる造語や言葉の遊びが町田さんらしくてわくわくする。百合子さんや町田さんのように毎日休みなく、がどうしてもできずに途絶えてしまうこともあるが日記は可能であれば死ぬまで永久に続けたいと思っている。やれと言われると途端に無理になるが、誰にも求められていないことを続けるのが私は好きだ。


前置きが長くなったが、以下、今週したことや考えたことの記録。2月に行った汝、我が民に非ズのライブのMCで町田さんが「印象的だったり良かった思い出はわざわざ記録しなくてもちゃんと頭の中に残り続ける」と言われていてそれもそうだなと思っている。書いていることが全てではないし、逆に記録することがどうでもいいことという訳でもない。

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サイはドラえもんの漫画に興味津々。コンビニで買った週刊誌のようなドラえもんの漫画雑誌(映画の原作を集めたもの)を放置していたら、ドラえもんを最近分かってきたサイが勝手にめくって読んでいた。漫画にはまだ興味を示さないと思っていたので意外だった。藤子・F・不二雄先生の画力ゆえか。台詞を読むよう指示される。漫画の読み聞かせは今がどのコマか指ささないといけないので絵本よりずっと難しい。しずかちゃん(なぜかいつもドラミちゃんと呼ぶ)のシャワーシーンを気にして、「なんではだかなの?」と聞かれた。「お風呂に入っているからだよ」「なんで?」「しずかちゃんはお風呂が好きなんだよ」「なんで?」「え、なんでだろう…気持ちいいからかな」しずかちゃんがなぜ入浴が好きかとは、ドラえもんにおいて極めて重要かつ難しい論題だ。サイは毎日このコマばかり見て、同じ問いを一日十回は繰り返す。気に入りすぎて、白い紙を持って来てこれに模写しろと指示された。描くと切り抜くよう言われハサミで切って渡すと愛おしそうに裸のしずかちゃんを手に持っていた。私が最近、未読の藤子作品を読みたいと思って買った『エスパー麻美』を開いても裸のシーンを探し、冒頭の、麻美のお父さんが裸の麻美をモデルに描いた絵を見つけて大喜びしていた。裸とかおっぱいとか相当好きらしい。しずかちゃんと麻美の胸や裸の違いについて分析までしていたので笑ってしまった。もしお父さんが描いた絵のとおりだとすると、麻美ちゃんは年齢の割に豊満な体つきだ。エロを全面に押し出した漫画は少し苦手(浅野いにお『うみべの女の子』は話が好きなのに性描写が生々しすぎて挫折した)だが、手塚作品や藤子作品のエロ要素は私も好きだ。小学校くらいの時家にあった『クレヨンしんちゃん』や公共図書館で読んだ『火の鳥』で裸を見つけては興奮していた記憶が蘇る。それにしてもサイはまだ3歳なのにすごいなと思う。


サイとまたTSUTAYAに行き『それゆけ!アンパンマン シャボン玉のプルン』(2007年公開)を借りて観た。シャボン玉がモチーフなのとプルン(声は水野真紀)が可愛かった。プルンはとにかく自己評価が低いヒロインで早くアンパンマンを助けてやれよという苛立ちも含め私自身と重ねて観てしまっていたので最後は少し感動した。サイも気に入って、この場面でこれがこの色になるとか細かく記憶して後で教えてくれた。ヒロインに感情移入できなかった『妖精リンリンのひみつ』(2008年)より面白かったが、映画版アンパンマンは脚本が「ヒロイン登場、性格的な理由でヒロイン孤立、バイキンマンアンパンマンを倒すために最強メカを発明、街や自然を破壊、アンパンマン立ち向かうが倒れる、仲間もやられる、メカが故障してバイキンマンの手に負えなくなり暴走(責任ない悪として描かれるのでここはもしかしたら重要、)、意を決したヒロインが力を発揮する、メカで何か(花や玩具など)に変えられたキャラクター達が力を合わせてバレーボールのトスのようにアンパンマンの顔を運ぶ、アンパンマン復活、バイキンマンはメカと共にやられる、再び訪れる平和、ヒロインとの別れ」のパターンばかりで、それから脱却してもいいのではとおせっかいながら思う。『いのちの星のドーリィ』はパターンを踏襲しつつも「生きることとは何か」という投げかけがあり描写もヒロインも異質で面白かった。どうせ子ども向けと高を括らず、制作側は手を抜かずドーリィみたいな新作を本気で作って欲しい。


サイがお風呂のお湯でカプチーノを作ってくれた。アンパンマンに出てきたカッパチーノちゃんの影響。アンパンマンには笹の葉寿司や土瓶蒸しなど古典的な食べ物からマカロンシナモンロールなど新しい(?)スイーツまで幅広いキャラクターが登場する。河童に似たカッパチーノちゃんは「~ノ」を語尾につけた話し方をするので、サイも真似して「ありがとーのー」とたまに言う。保育園でもブロック遊びやままごとが好きらしいし最近料理も手伝いたがる(卵を割るのが特に好き、見ていて冷や冷やするがやりたいと言うのでやらせる)ので、何か創作したり組み立てるのが好きらしい。対して絵はあまり好きでないよう。私が絵を描くのを眺めるのが好きで「◯◯かいて」とよく言われる。私も小さい頃友達のお母さんが絵がとても上手で、線を描く手の動きや絵が出来上がる光景を眺めるのが好きだったなとふと思い出す。


最近服を買ってくれる(買ったあげた)とサイはよく言う。ある時「おかあちゃんにおようふくかってあげたよ」と急に小声で耳打ちしてきて、「え、どんな服?」「ピンクだよ」と買い物完了した妄想までしていた。何もなくてもその気持ちと言葉だけで嬉しい。ピンクの洋服はサイの中で憧れの服なのかもしれない。幼児雑誌にプリキュアのコスチュームが載っていて欲しがっていた。どの色(プリキュア)の衣装がいいのか聞いたらピンクだった。推しは黄色だが身に纏いたいのはピンクらしい。その感覚、何となく分かる気がする。


サイのバナナブームは終焉した模様。食べるか聞いてもあまり食べたがらなくなった。子どもの執着(特に食べ物)は一時のブームだとある時から気が付いたので、そればかり食べたいとせがまれると以前は戸惑っていたが最近はどうせいつか飽きるだろうと予想し、健康に影響ない範囲で自由に好きなだけ食べさせている。友人の子が同じようにレーズンパンにはまっているけどそればかり食べさせていいものか悩むと言っていたが、いいのではないかと私は思う。好き嫌いも同様で、嫌いなものを食べるよう促しはするが泣かせて嗚咽させながら強引に食べさせるのではなく、どうしても嫌なら少し食べたところで残してもいいことにして、そうするといつの間にか食べられるようになっていることもある。私は幼少期、食事を残すのが許されなかったので絶対食べねばという強迫観念から嫌いな物への嫌悪感が増大し、大人になった今も嫌いなままでいる。保育園の保健師さんが、「私なんて小さい時は卵しか食べなかったんです。本当に。それでもこんな風に育ったので好き嫌いなんて矯正しなくていいです」と言っていた。極端だが正論かもしれない。ちなみに今は鮭フレークブームだが、塩分がちょっと心配。


まだ漏らすこともあるがトイレがうまくなってきた。自分からトイレに行きたいと言ってくれるようになった。ゆるいアンパンマンブリーフしか持ってなかったので、ちょっとボクサーパンツ風のかっこいいブリーフを買ってあげたら急に男になった気がした。似合っていたがもう子供でないのだなと少し寂しくもなった。


珍しく人と食事する機会が多い週だった。普段何かするのに一人で平気だし、むしろ映画や買い物は一人で行動したい派なのだが、食事、特に外食に関しては一人だととても寂しい。一人で外食できないこともないが、チェーンの珈琲ショップで一気に食べて店を退出するので味わった気がしない。カウンター席でお酒があるとまだ大丈夫だが、例えば空間にゆとりのあるおしゃれなカフェとか、なんだか落ち着かずすぐに出てしまう。でも一緒に食べる人がいると嬉しいし楽しい。そして飲み込むように食べなくていいので美味しい。会社のランチも普段は席で急いで食べるが、人と食べると話もできて全然違う。業務中は話せない会社に対する違和感や意見交換もできる。でも飲み会はやや苦手。人数の問題かもしれない。多くて四人までがいい。食べログで行きたい店をリスト管理(そんな機能があるとは!)している友人にわぁすごいと驚いたほど最近食や飲食店への興味が薄れていた(空腹を満たせれば何でもOKの意識だった)が、好きな人と食べるごはんって美味しいのだなと改めて実感した。サイと食べるごはんも嬉しい。美味しいねってお互いに笑いながら食べるが調子に乗ってサイに話しかけていると「たべてるときはおはなししちゃいけません!」と保育園の先生を真似て注意される。


観たい映画がたくさんある。が、残念ながら観に行く時間がない。『素敵なダイナマイトスキャンダル』『シェイプ・オブ・ウォーター』『15時17分、パリ行き』『彼の見つめる先に』。良い作品や好きな監督の作品はDVDでなくちゃんと映画館で観るべきだと誰か言っていたが実現できないのがもどかしい。最近『シングストリート』をTSUTAYAで借りた。公開当時観れなくて悲しかった。ネット配信に未だに慣れないので結局TSUTAYAみたいな実店舗でパッケージを見て選ぶ方が私に合っている。映画ならまだいいが、絵画の展覧会などは見逃したら終わりだから悲しい。ルドン展、観たいのに一体いつ行けるだろう。5月までだからと悠長にしていたら終わってしまう。絵は後で図録を見ても生で見た時の感動は得られない。小学校2年生の時、展覧会で本物の「ピアノを弾く二人の少女」を観て衝撃を受けてからずっとルノワールの絵が好きだ。学校の宿題として提出するキャンパスノートにその感動を綴ったのを覚えている。だからサイにも年齢でまだ早いと制限せず色んな絵や芸術を見せてあげたい。生で観るって何よりもすごいことだと思うから。老後は絶対映画館&美術館に通い詰める婆になるぞ、足腰鍛えなくては、の気持ち。


例の事件(土地の名前がついた事件名を書いているだけで気分が悪くなったので辞めた)に対し、「殺人が犯人にとって疑似的な生きがいになっていた」とコメントしていた専門家がいた(犯人はヒモになりたかったと言っていたが全く信じられない)が、もしその通りだとしたら他人の生を繰り返し奪うことで生き伸ばすとはこれ以上ないほど自己中心的で悲しい思考だ。殺人という行為が、自己中心的快楽を満たす日常の延長か何かのように解釈されていたのかもしれない。理解の範囲を超えている。生きがい、とは。


生きがいも負に打ち勝つための何かも、それを求める時、絶対に人への依存であってはいけないと改めて考えた。そうなるのを自分が一番恐れている。例の事件のように殺人まで結びつかなくとも、対象が人である時点で本当の救済は得られない。あるどうしようもない鬱憤や手に負えない感情があったとして、その救済を人(サイも含めて)に求めるのではなく、生産性の有無に関わらず自分が満足いく形で創造や行動に変換するのがベストなのかなと思う。例えば絵を描いたり楽器を演奏して手や身体を動かすとか。例えばどこかに意思を持って出かけるとか。例えば仕事頑張るとか。変換させる何か。それを必死に遂行すること。「あの死にたみを 朝に変えたり 金に変えたり 髪を染めたり」という大森さんの好きな歌詞(『地球最後のふたりfeat. DAOKO』より)を度々思い出す。絶対勝つから待ってろよ、といつも自分自身に言い聞かせている。

つかれちゃったうーぱーちゃんはメキシコの湖に帰りたかっただろうか

3月12日(月)
朝。寝坊。完全に夜更かしのせい。日曜日は明日から仕事か嫌だなという気持ちの反動か最後の自由を楽しもうとつい夜更かししてしまう。自省。遅刻も嫌なので午前休にし、体調も悪かったのでついでに病院へ行った。鼻炎と風邪らしい。この病院は受付も先生も恐ろしく愛想が悪いがほとんど混まないし腕がいい。6種類も薬を出されてすぐに飲んだら次第に楽になってきた。月曜朝の病院は空いていて、前はなかったモニターが至るところに増えていた。そのモニターから海や森林のいわゆる「患者を癒しますよ」という映像が無音でエンドレス再生されていて、それを眺めてこれはどこだろうなと考えていた。こういう映像は何となくぼんやり見てしまうが、必ずどこかの場所でありちゃんと世界に実在すると考えたら不思議な心地になった。また、こんな癒し映像を流しているのに全員愛想が悪いとは実に可笑しいなと一人でにやにやした。

病院が終わると午後の出社まで時間が空いたので新宿に行った。こんな時は伊勢丹に行くしかない。他のデパートに比べ、伊勢丹で洋服や雑貨やお菓子を見た時のアドレナリンの放出量は半端ないので行くだけでエネルギーが満ち溢れる。だからちょっと落ち込んだ時とか今から頑張りたい時とか用事がなくても行く。DJみそしるとごはんさんが以前伊勢丹のイベントの時に作った「This is ISETAN Underground」を脳内で流しつつ。CDも持っているしとても好きな曲。デパ地下はホワイトデーのお返しを求める男性で混雑していた。母がバレンタインにチョコレートを送ってくれたことを思い出し美味しそうなパウンドケーキを実家に発送した。

それから上の階で洋服を見る。春夏シーズンの服がちょうど出揃っている時期ということもあり、アドレナリン絶賛大量放出。あぁーかわいい、あぁーすてきーと胸をときめかせ、そっと触れたり鏡の前で合わせたりした。良いと思った服も自分の顔に合わせるとあれ何か違うなとなる場合もありその瞬間はアドレナリンがやや減る。そんな感じで見ていたら我がオアシス3階解放区で、ある洋服に一目惚れした。ずっと憧れていたが自分には美しすぎると思って一度も買ったことがないブランド。伊勢丹は神接客なので、そわそわしている初期段階ではまだ店員さんは寄って来ない。絶妙な距離から放置して私が洋服と向き合う時間をくれる。万引きする不審者のように何度も触っているとようやく静かに近づいて来て「よろしければ合わせてみて下さいね」と一言だけ優しく放つ。どこかの店員みたいに「ここが可愛いですよねっ」などと価値を決めつけるような発言はしない。いやでもな、私がこのブランド着るとは、と一旦引き下がって他の服を見たりしたが、やはり忘れられず戻って試着させてもらう。

着てみると断裁や縫製にデザイナーさんが隅々までこだわっているのが着る前よりよく分かった。ギャザーの寄せ方や計算された丈、肌に纏わりつく布の感覚そのひとつひとつに感動した。「この服を考えたデザイナーさんはすごいですね、すごい」と思ったことをそのまま口走ってしまうと「そ、そうですね」と少し困ったように笑いながら頷いてくれた。でもやはり自分には美しすぎる気がした。迷っていたら試着室に「色でお悩みの方はパーソナルカラー診断をさせていただきますのでお声かけ下さい」という貼紙を見つけて、聞いてみたら無料でやってもらえることになった。大森さんが前にやったと言っていてちょっと気になっていたので嬉しい。密室で専門の人が顔に色々な布を順にあててくれた。あてる布で顔色が全然違って見えた。診断の結果、私は秋だった。今まで似合わないと思っていた色が似合う色だと知ったり新しい発見があって面白かった。それでさっき試着した服は秋に当てはまる色だったので、いよいよ決心がついた。伊勢丹は商売上手である。それも分かって伊勢丹が好きだ。さすがに大きな紙袋を抱えて会社に行けないので夜まで取り置きしてもらった。

夜。お迎えを代わってもらい、また伊勢丹に行って洋服を引き取った。朝よりは冷静になっていたので果たして本当に私がこの服を買っていいのかなという気持ちで迎えに行った。昼間の店員さんにお礼を言おうと思ったが見当たらずまぁいいかと思って解放区を出たら背後から「○○様」と呼ばれてその店員さんが私を追って来てくれた。こういうところが伊勢丹はすごい。マニュアルにあるのかないのか分からないが接客が人間レベルだ。自分がこの美しい服を買ったこととパーソナルカラー診断で似合うとされた色に今後縛られそうで不安になっていたので、心理相談かというくらいどういう小物が合うかしつこく聞いたら丁寧に教えてくれた。いい店員さんだった。タイミングが合った友達と合流し、一緒に色んなブランドの服をあれこれ話しながら見た。自分がいつも見ないブランドも見ることができ新鮮で楽しかった。それから日記にかかない幸せ。美味しくて穏やかな夜だった。帰宅すると「私はこれを着れるかな、高い服買ってしまったな」とまた不安になりなかなか紙袋から取り出せず、でも皺になるのも嫌だったので寝る前にお気に入りのハンガーにかけてあまり見ないようにして急いでクローゼットの一番奥にしまった。


3月13日(火)
朝。バナナとヨーグルト。サイは最近ハサミで色々なものを刻むのが好きだ。ハサミ遣いがかなり上級になって小さな細かいものも上手に切れるので側で見ていなくてもまあ大丈夫。しかし私が準備している時に今日も何か切ってるなと遠目で思っていたら床にたくさんの黒い髪が落ちていてびっくりした。どうやら自分で切ったらしい。驚いたが叱ってはいけないと思い訳を聞くと「あたまちっさくしたかったの~」と可愛いことを言う。小さくって…。さすがに危ないので髪は自分で切るより美容師さんに切ってもらった方がいいよ今度行こうよと説得してはさみを取り上げると不満そうだった。伸びすぎて野生の子みたいになってきているので、早く美容院を予約しなければ。そんなことがありつつバタバタと出発。

夜。お迎え。玄関に行くとサイは水槽のコーナーに駆け寄って「るーぱーちゃんがいないの」と教えてくれた。その言葉通り、「うーぱーちゃん(サイはるーぱーちゃん、まあどっちでもよい)」と勝手に呼んで愛でていたウーパールーパーの水槽があった場所には何もなくなっていた。毎日帰りに二人で水槽をのぞいて声掛けしていたうーぱーちゃん。私は何となく悟って、側にいたやや高齢の先生に聞いたら「死んじゃったんだって」と教えてくれる。「うーぱーちゃん、しんじゃったんだって」と私がサイに言うと「おじいちゃんになったんだって」と何か知っているようだった。先生が知らせたのかもしれない。お迎えしているお母さんも子どもも先生も、誰もうーぱーちゃんが死んだことを気にしてない様子だった。私はショックで一人茫然としていた。気が付いたら涙を流していた。私があまりに茫然としているから、さっきの先生が「園庭にお墓があるから今度場所教えてあげるね、今は暗くて見えないけど」と言ってくれた。暖かかったので、サイは園から出ると庭園で先生にもう帰りなさいよと言われるまで他の子達と走り回ったり遊んでいた。私は子ども達から離れて立ち話をするお母さん達から更に離れた所に一人で立ってうーぱーちゃんの死について考えていた。少しピンクがかった白い体をした可愛いうーぱーちゃん。ほとんどじっとしていたが時々思いついたようにゆらゆら泳いでいたうーぱーちゃん。トンネルに隠れていたうーぱーちゃん。毎日会うウーパールーパーに特別な思い入れがあったというより、まあそれもあるけれど、最近亡くなった人やいつか死ぬ人や自分について、ばーっと連鎖反応みたいに色々考えて辛くなった。

帰り道でサイに「なんでるーぱーちゃんはしんじゃったの?」と聞かれ「病気かな」と答えると「つかれちゃったのかな」とサイは言った。「そうかもしれないね」と自分に言い聞かせながら答えた。自転車に乗りながら今日保育園で何をしたか聞いた。「ままごとしたよ」「へぇ何作ったの?」「からあげ、おかあちゃんにからあげつくった」「えー唐揚げ大好き!嬉しい!ありがとう!」「でしょーこんどからあげかってあげるよ、サイくんおかねあるから」「えっお金あるの?すごい」「うん、からあげは280えんだよ」「へぇ~」「こんどおはいふ(お財布)かって」「いいよ、どんなのがいいかな~」こんな風に私達はいつも会話している。

夕食後、入浴。サイはお風呂にままごとのコップや使わなくなった御猪口を持ち込んでジュース屋さんごっこをした。「いらっしゃいませ~なんのジュースがいいですかー?」「えーとじゃあビール下さい」「ここはジュースやさんです!ビールはありません!」とか、「えーとじゃあ、みっくしゅじゅーちゅ下さい~」「みっくしゅじゅーちゅはふゆなのでありません、あたたかくなってからです」とか最もなことばかり言われて笑った。いちごジュースを発注したら仕入の苺が高すぎて販売中止になったとのこと。いい経営者になりそうだ。入浴後、就寝。めずらしくテレビを観ない日だった。


3月14日(水)快晴
暖かい。春だ。夜中や明け方に何度も目覚めたが10時からずっと布団で寝ていたので普段に比べてよく眠った気がした。夢を見たはずだが覚えていない。あまりいい夢でなかったと思う。サイは朝起きるなり「もっとこっちにおいでよ~」とにっと笑って私を抱き寄せる。ハーレークインのロマンス文庫か。機嫌が良くてよかったと思ったら朝からウィンナーを食べたい、それもカニさんウィンナーが食べたいと騒ぐ。時間がなかったのでげっと思い「夜に作ってあげるね」と断ったら今食べたいと言って聞かず、機嫌が悪くなったので仕方なく急いでウィンナーに切り込みを入れ(慌てすぎて足が少しちぎれる)果物を切っている間にフライパンで焼く。母親をしていて自分が偉いとあまり思うことはないのだが、今日は思った。こういう臨機応変さは仕事にだって活かせているはずだ。人によって子育て方針は違うと思うが、私は怪我するとか命に係わるとかもう本当に無理なこと以外は何でも一緒にやろう、やってあげようのスタンス。母親というのは売出し中の芸人と同じだ。ゴミ出しして昨日作ったお弁当をかばんに放り込み何とか出発して保育園に行き通勤電車に滑り込む。いつもその瞬間ほっとする。うーぱーちゃんがいなくて寂しい。

夜。退勤してフロアに置いてある共有コート掛けから何も考えず自分のコートを取って纏い、そのまま会社を出て文房具屋に寄り駅まで着いて電車に乗ろうとしたときにいつも定期を入れてる右ポケットに定期がなかった。あれ、と思い左ポケットを探ると手に覚えのない感触。何だったけこれと取り出してみると自分のものではない手袋。その時初めて他人のコートを着て来てしまったことに気付いた。慌てて会社に戻り何食わぬ顔で間違えたコートを戻して自分のコートを捕獲した。家まで帰らなくてよかった。持ち主はサイズ的に男性だと思われるが誰か分からなかった。自分のコートがなくて仕方なく何も着ずに帰ったのかもしれない。そりゃそうか。傘なら残ったものを差して帰るがさすがにコートは着ないか。それにしても他人の服を間違えてある程度の時間を過ごしたのは初めての経験だ。我ながら自分のした失態が面白いなと思って歩きながらにやにやした。

夕食は買った惣菜など。我慢できなくて夕食を並べる前にビールを飲んだ。食後にサイとくっついてアンパンマン映画『いのちの星のドーリィ』(途中から、サイはロボットが暴れるクライマックスのシーンが好き)。入浴後、就寝。


3月15日(木)快晴
いよいよ春だ。嬉しい。が、気温が急に上がったので頭痛がする。保育園に着いて玄関でサイは一瞬何か考えてから「るーぱーちゃんなんでしんじゃったの?」と小さな声で放った。サイはうーぱーちゃんが死んだことを気にしていないようで気にしている。サイの答えを真似て「つかれちゃったのかな」と言うと「なんで?」と聞かれたので「本当は広い海が好きだから、この保育園の狭い水槽の中にいるのが疲れちゃったんじゃないかな」と自分なりに推測した答えを返したら、納得したようなしてないような表情をしていた。ウーパールーパーの生態に詳しくないしそもそも海に生息しているか分からないが、少なくとも水槽よりは広いだろうと思って。(後で調べたらメキシコサラマンダーというサンショウウオの原種を人工的に品種改良したのがウーパールーパーで、原種はメキシコのソチミルコ湖とその周辺に生息していたが湖は現在、土地開発や埋め立てで湖と呼べないほどの状態になっており個体数も減っているとのことだった。うーぱーちゃんは突然変異で生まれた黒目の白個体リューシスティックで日本で最もよく知られたウーパールーパーらしい。)

昼。パン美人と食べる。いつも楽しい。コートを取り違えた話をすると笑ってくれた。「間違えられた人が私のコート着て帰るかと思ったんですが、そうでもなかったです」と言うと「そりゃそうでしょ、自分のがないからって他人のコート着て帰らないでしょ」と真っ当なことを言われまた笑う。それからお互いが最近買った洋服(私は月曜に買った服)や欲しい物の話をした。パン美人は何を言っても興味を示してくれるので嬉しくなる。

夜。お迎え。保育園バッグと一緒に大きな黄色い袋が掛けてあった。数日前から教室で並んでいるのを見かけた。その中にはサイが一年間に作った絵や工作作品がたくさん入っていた。布の表にはそれぞれ好きなように描いた絵で彩られている。サイの袋には大きな顔が三つ並んで描かれていて、聞くと三人の担任の先生の顔だと言うこと。人数が多いので担任が三人いる。サイがみうらじゅんを見て似ていると言ったK先生、T先生、A先生。K先生が一番年上ベテランで、T先生は私と同じくらい。A先生はおそらく専門を出たばかりでとても若くて可愛い。私はA先生の顔が好きなので親子会で子どもを撮るふりをしてA先生を盗撮したことがある。T先生は背が高く控え目で優しい。一番仲良くなれそう。K先生はちょっと怖いなと最初思っていたが実はいい先生だと後々分かった。若い先生ばかりだと子ども達にも舐められるのでK先生みたいな先生がいた方がいい。サイが描いた三人の顔はK先生とT先生が大きくてA先生はその1/3程と小さかった。A先生がK先生に意見されている姿をよく見るのでその力関係をよく表していて面白いなと思った。サイはよく見ている。K先生に「これは三人の先生の顔だそうです」と言うと「あらそう?」と大きさの違いにまで気付いていないようだったのでまた一人で可笑しくなった。

帰宅後、とりあえずビールが飲みたかったので三歳児に「ビール飲んでいいですか?」と聞くと「いいよ!」と許可が下りる。交換条件としてコアラのマーチいちご味を食べることを許可した。サイが私にもくれたが全くビールに合わなかった。疲れていたので簡単に夕食を済ます。それからサイが一年間に作った作品を一つずつ眺める。先生が全部に日付を書いてくれているので、だんだん上手くなっていて最初春夏は抽象的だったのが年末頃の作品は何の絵か分かるようになっていて面白いなと思った。褒めたらサイは得意気になり「どこにかざろうかな~」と飾る場所を一人で考え始めていた。疲れていたので週末にしようと思いお風呂に入る。なんだか身体がだるい。就寝。倒れるように横になる。熱っぽくてしんどい。お腹も痛くて変な汗をかくし気持ち悪かった。サイは何ともなさそうだった。


3月16日(金)曇り
明け方起きてから眠れず朝まで起きた。会社を休もうと思って熱を測ってみるも熱はなく有休を無駄遣いしてはいけないと思い行くことにした。朝になっても空がどんより曇っていて嫌な天気。体調不良は自律神経の乱れかもしれない。サイが起きて「曇ってるよ」というとカーテンを開けて外を覗き「これいけそう?」と不安そうに聞く。「うん大丈夫だよ、サイくんは保育園、ママはお仕事、今日一日頑張ったら帰ってアンパンマン観れるよ」と希望を提示すると「ぃやったーー!!」と分かり易く喜んだ。それから再びだらだらと寝転がっている私の側に来てサイも寝そべって「おかあちゃんのことすきだからちかくにきたよ」と状況を教えてくれた。可愛いな。金曜日はアンパンマンの放送日だし一週間の終りなので私もサイも嬉しい日。貧血でクラクラしつつ出社。精神は元気なのに参ったなぁ。

出社しても仕事に集中できず、というより眩暈で視界が悪くなりデスクトップが見辛くなってきたのでこれは無理だと思い午後休みを取って早退した。月曜日は午前休だったし社会人としてダメだなと自省しつつも月曜は午後から金曜は午前までという制度だったらいいのにな、と悪いもう一人の自分が思っていた。帰宅後、薬を飲んで音楽を聴きながら布団で横たわっていたらいつの間にか寝ていた。次に起きた時にはお迎えの時刻だった。このままずっと寝ていたいと思ったが、そういう分けにもいなかいのでとりあえずマスクをしていかにも仕事帰りという顔で慌ててお迎えに行った。雨が降っていて寒い。サイは元気そうだった。

再び帰宅後、一瞬床に倒れて蹲っていたらサイが駆け寄って来て「だいじょうぶ?」と心配そうに背中をトントン叩いてくれた。優しいな君は。倒れているとか、あんまりこういう姿はサイに見せたくないのだがどうしてもしんどい時は仕方がない。子育てにおいては何でも一人でやれると強く自負していたのに自分の体調が悪いとどうしてもうまくいないと実感し情けない気持ちになった。健康第一だとしみじみ実感した。夕食はうどんがあったので適当に焼うどん。私はブロッコリー入ポタージュ(市販のスープに茹でて入れただけ)。サイは夕食前にパンを食べていたこともあり、スープしか食べなかった。なので誰も食べない焼うどんは冷蔵庫へ移管された。
ドラえもんクレヨンしんちゃんでも観よう(観ていてもらおう)と思ったら別の番組が拡大していてやっていたなかった。なのでアンパンマンを観た。他のアニメと違い家族愛をやたら強調することもないので、アンパンマンを観ると心安らぐ。アンパンマンの世界の住人達はそれぞれ孤立している。今日はオクラちゃん。野菜を人に配る度にいちいち野菜たちにドラマチックな別れ言葉を贈るオクラちゃんが面白かったのでサイと笑った。入浴後、就寝。私は身体がしんどくて寝付けず夜中何度も起きては寝るを繰り返した。


3月17日(土)快晴
私は寝過ぎたので早朝起きた。サイも休みの割には早く起きた。二人でゆっくり朝ごはん。時間があるのが一番良い。ゴミ出し。洗濯。サイはアンパンマン。昼前、おにぎりと出し巻卵を作りお弁当箱に詰め出発。ローソンに寄りシールを貯めた台紙とキティちゃん&マイメロの小皿を交換してもらう。こういうポイント貯めてもらえる物は最後まで達成したためしがないのだが、サイがいつだったか「サイくんキティとマイメロのおさらほしいんだ」とローソンのポスターを見て言ったのに対し「あれはシール貯めたらもらえるんだよ、じゃあもらおうよ」と口約束したばかりに初めて必死に頑張った。自分で決めたことや気の進まないことはすぐに諦めがちだが、大事な人との約束は守るタイプなのかもしれない。しかし当分コンビニのパンとスイーツは見たくない、という感じ。それからTSUTAYAで先週借りたDVDを返却し(自分用に借りたものは案の定観る時間がなかったためまた借りた)、違うアンパンマンの映画と『パディントン』を借りた。

公園に行きシートを広げてサイとお弁当を食べた。サイはTSUTAYAでやったガチャガチャで出た玩具(小さながちゃがちゃマシーンの玩具)に夢中で最初全然食べなかったが、私が食べ始めると取られまいと勢いよく食べ始めた。食後、サイはシャボン玉。ひとつしかないので私はシートの上でサイを眺めていた。日光に当たっていると体調が回復してきた気がした。私の服に偶然シャボン玉がくっついたのが面白かったらしく、またつけようと私をめがけて吹いてくる。それからシートを畳んで公園で走り回る。と見せかけてサイはセブンティーンアイスの自販機コーナーに直行した。そういう時だけ早い。サイのお気に入りの「バナナ」(正確にはバニラ)を買い、二人でベンチで食べる。

食べていると溶けかけたソーダアイスを持った男の子が近寄って来た。サイより少し年上な気がした。「きみだれ?」「なにたべてるの?」と接近して一方的に話しかけてきたり顔を寄せたり距離が近く、人見知りのサイは戸惑っているようだった。親の姿は見当たらない。男の子がベンチのテーブルに座って足を乗せていたので「そういうことはしちゃだめだよ」と静かに注意した。私は他人の子にはけっこう厳しいのだなと思った。ほどなくして祖母と思わしき人が現れて何やら男の子に話しかけていた。男の子はまだテーブルに座っていたので「それだめだよ」とおばあちゃんにも聞こえるようちょっと強めに注意した。そうするとおばあちゃんは「○○くんダメよ」と言ったが男の子は聞いていないようだった。おばあちゃんは私に「男ですか?女ですか?」と聞いた。私はキャップを被っていたから自分のことかと思って「母親です」と答えたがサイのことだった。そう言われると髪が伸びて最近一見どっちだか分からなくなっていた。サイは男の子があまり好きでなかったようでアイスを食べ終えるとベンチを離れた。すると男の子も着いて行った。どうやら男の子はサイのことが好きらしかった。男の子はなぜか前歯が全部なかった。おばあちゃんは眉を全剃りして細く描き青いアイシャドウをしてちょっと怖い顔だった。サイがどこに行っても男の子は着いて来てなぜかサイのことを「おにいちゃん」と呼んだ。そのうちにサイもまあいいかと心を許し始めたようで二人で声を上げて走り回ったり遊具で遊んでいた。サイ達が走ると私とおばあちゃんも着いて行かねばいけないのでその時になってようやくおばあちゃんと会話した。聞くと、男の子は4歳で上に二人高校生と大学生のお兄ちゃんがいるということだった。「てめぇ」とか「うっせー」とか普段サイが言わない言葉遣いをしていたのでなるほどなと思った。親の影響ってこともあるけど。両親は今日も仕事でおばあちゃんが相手をしているらしい。両親はどうしても女の子が欲しくて歳の離れた三番目の子に懸けたが結局男の子だった、でも生まれればいいよねと愛おしそうに言った。男の子はおばあちゃんが度々注意しても反発していた。でも心細さから来る反発に見えた。同年代の子や親と遊ぶ機会が少なくて寂しくて寄って来たのかなと思うとこの子なりに色々あるのだろうなと考えてしまった。なぜ前歯がないかそこは聞けなかった。おばあちゃんは体力的に遊具の上までは追いつけず、だから私がずっと二人の相手して、普段こういうことはないのでなかなかに疲れた。

15時すぎに男の子と別れ(また遊びましょうねとおばあちゃんに言われた)、くたくたで帰宅し昼寝。私はまた体調が悪くなってきた。夕方、サイと借りてきた『それゆけ!アンパンマン 妖精リンリンのひみつ』を観た。ヒロインがヤンキーっぽいなと思ったら声優が土屋アンナだった。先週観たのに比べストーリーが陳腐で面白くなかった。夜になりK帰宅。外に食べに行きたいと言われたが私は食欲がなかったし何より着替えたくなかったのでそれを言うと不服そうにされる。じゃあサイと二人で食べてきていいよと言うと本当に二人で出かけていなくなった。私は急に小腹が空いてきたので柿ピーの小袋を食べた。片付けでもしようかと思ったらタイミングよく大森さんのLINEライブが始まったのでそれを観た。終わったタイミングで二人が帰宅した。入浴後、就寝。


3月18日(日)晴れ
朝から家族で美容院へ。切るのは私とサイだけ。サイが切り終わると二人で先に帰ってもらう。今の美容師さんに切ってもらうのが今日で最後なので一人でゆっくり話したかった。上京して東京のことをまだ何も知らない時にネットで見つけた美容院へドキドキしながら初めて行ったのが約10年前。それからずっと同じ人に切ってもらっている。人生で一番長い。あまりこうしたいと具体的に言わなくても感じ取ってくれるのが楽だし何より切る技術が優れている美容師さんだ。とても残念だが、美容師を辞めて新しい道へ行くと言うのでこればかりは仕方がない。最後ということで過去を色々振り返りつつ、つい本音で話してしまったら「ん?ちょっと分からない」と言われて本音を言い過ぎたかなとも後で後悔した。3月末で辞められるので、もう一回挨拶だけでも来れたら来たいですが来れるか確約できませんとお別れかどうか明確にしないまま店を出た。

それから一人で塩ラーメンを食べて(カウンター両脇のお客さんの方が早く食べ始めたのに私の方が早く食べ終わった)、NextやH&Mなど海外ファストファッションをハシゴし、サイの保育園用の服を大量に買って帰宅。前は無印とユニクロばっかり着せていたが、あまりにも地味で可愛そうになってきたので色鮮やかな海外ブランドも取り入れようという試み(?)。サイズアウトしていたが今まで買いに行く時間がなかった。Kは入れ替わりで仕事へ。じっくり選ぶ時間がなかったので変なデザインの服を買わなかったか後で点検してみた。ちょっと変なのもあった。サイは昼寝していた。私は居間の床に横たわっていたらいつの間にか寝てしまっていた。サイが起きて寝室に行くと、サイは私の髪を見て「あれっ?かみのけかわいいね」と新しい発見をしたみたいに言った。その言い方が可愛いなと思ったので、私も知っているけどわざと「あれっ?サイくんも髪可愛いね!」と驚いた風に言ったらサイもまた同じように真似した。二人でおやつにビスケットを食べた後(サイが用意してくれた)、『パディントン』を観る。私はぬいぐるみをコマ撮りした『パディントン』の信者なのでこのCG実写版はどうにも受け入れられなかった。でも妹が面白いと言うので観てみた。冒頭から心の中で「えぇ野生かよ!」と変な突っ込みをしてしまった。パディントンは可愛いぬいぐるみなのに…。とはいえ原作ではクマとしか書かれていないから実際はどうか分からないが。これはパディントンではないと思って観ると楽しめそうだった。が、サイもコマ撮りのぬいぐるみを見慣れているため、「このパディントンなんかちがうね」と拒否反応を示していた。結局冒頭でもう観たくないと言われ、ロンドンが出てくる前に再生中止した。吹き替えだったので字幕で夜中にまた観ようと思う。イギリスが舞台の映画は好きだ。

夕食を作って煮込んでいる間にサイと丸い缶をボールみたいに転がしたりぬいぐるみを動かしてゲラゲラ笑って遊んだ。疲れたのでテレビ。ちょうどEテレで『レイチェルのキッチンノート』という私の大好きなBBCの番組が吹き替えでやっていたのでサイと観る。レイチェルというロンドン在住の女の子が彼女のアパートメントの可愛いキッチンで料理するだけのドキュメンタリー(?)番組なのだが、レイチェルが材料をざくざく包丁で切るところとか、こちらが冷や冷やするほど目分量で鍋に投入するところとか、あと料理するのになぜか色鮮やかな可愛い服を着て真っ赤な口紅してるところとか、失敗してもえへっと笑って驚くほどポジティブなところとか、ロンドンの街に繰り出して友達と陽気に会話するところ(吹き替えなので英語ではない)とか全部好きだ。ロンドンは廃れた街の再開発がどんどん進んでいるらしく、新しくできた屋上ビアガーデンの様子が映っていて「あぁ―!ビールおいしそー!」と思わず声を上げてたらサイは呆れた顔をした。夕食は野菜カレー目玉焼きつき。サイはあまり食べなかった。夕食後、二人で電子ピアノに入っているフュージョン系の音楽をかけてそれぞれ好きな踊りをした。悲しいことにこれしか電子ピアノを使っていない。お互いに世界一流の前衛ダンサーだと思い込んで踊るのがコツ。入浴後、就寝。布団の上でまた「あれっ?かわいいね」という遊びをした。「あれっ」の時に驚いた表情をどれだけできるかで面白さが変わってくる。いつだって新しい発見をした人のような気持ちでいたい。サイが寝た後、私は悪夢を見ては起きるを繰り返した。変な汗をたくさんかいた。


桜が咲いた。サイは桜や梅が咲いているのを観る度に「さいている」ではなく「あ、はるだ!」と言う。その表現がなんかいいなと思った。ソメイヨシノではない、開花宣言もされない種類の桜が私は好きだ。ソメイヨシノも日曜日に咲いているのを見つけた。いよいよ春か、春なのか。桜の色をしたうーぱーちゃんは春が来るのを待たずに去ってしまった。今は土の中に埋まっている。その上には桜が咲いている。去年と同じ光景。さあ春。

海に消えた人々は神話では星になれるけれど

3月5日(月)晴れ
朝。パンとヨーグルト。月曜日なのでシーツなど大荷物。朝は天気がよかったのに昼から次第に下り坂となった。勘に頼って傘を持って家を出なかったため、帰り用にお昼休みにコンビニに傘を買いに行くも既に雨は降っていて買いに行くために雨風に晒されるという本末転倒だった。

夜、日記にかかない幸せ。昼より激しい雨。昼にコンビニで買った70センチの傘はパッケージに「裏返っても丈夫!」とイラスト付で書いてあった通り裏返ってもまた元に戻り丈夫だった。ただ、それを使用者に実証するためにわざとかと思うほど簡単に裏返る作りになっていて風に吹かれる度にギャグ漫画のように裏返った。これを作った人は傘が裏返る様子が狂おしいほど好きでそういう商品を作ったのかもしれない。否、真面目に考えると元に戻り易いということは変形し易いということか。何でもいいけれど裏返る度に滑稽で恥ずかしいので普通の壊れやすい傘の方がいいなと思った。

3月6日(火)晴れ
朝。私はパン、サイはバナナ。慌ただしく出発。化粧をしているとサイくんもしたい~と言われたが時間がなく応じられなかった。

夜、お迎え。サイは着替えが足りなかったらしく、保育園で借りた寒そうなズボンを履いていた。ごめんよ。ソーセージとほうれん草の炒め物を作ったらソーセージだけ食べてほうれん草を全然食べなかったので、「これ食べたらおやつ食べようよ」と苦肉の策で提案すると頑張って食べてくれた。しかしあんなに頑張って食べていたのに食べ終わったらサイはおやつのことを忘れていた。可愛いな。お風呂に入る前に思い出して言われたので、明日にしようと言うと納得してくれた。大人になった。最近「明日」という概念が分かってきたようだ。「来週」はまだ一週間という時間が掴めていないため難しいよう。

お風呂から出た時、二人で歌いながら下着を投げる遊びをした。実家に帰った時に両親が買っていた幼児雑誌の付録DVDのトイレトレーニングのアニメで流れる、ドラえもんと幼い子どもがトイレの王国でフラメンコ風に歌いながらトイレが成功したら「オレィッ!」と手を上げて叫ぶというシュールな歌をサイは気に入っていて、トイレに関係なくてもことあるごとにその歌を歌って「オレィッ!」と叫ぶ。「オレィッ!」のタイミングで下着を投げてはげらげら笑って遊んだ。私は大人なので10回ほどやったところで寒さで正気に戻り止めたがサイは無限に続けたそうだった。寝ようと電気を消したらサイが鼻血を出して本人もびっくりしたが血は止まった。多分鼻のほじり過ぎ。いつも思うが子どもの血の色は綺麗。鮮やか。

3月7日(水)曇り
朝。私はパン、サイはバナナ。昨日約束したおやつ。サイは皮を剥くのが本当に上手になってきた。剥いた皮を食べ終えた後で私が捨てるのをよく見ていたらしく、食べる前にゴミ箱のところへ行きそこで剥いて皮を捨てていた。ゴミ箱に向かって真剣に皮を剥いたりバナナの繊維を取っているサイの後ろ姿の可愛さといったら!剥いたバナナをいつも使っているアンパンマンのお皿ではなく私が普段使っているパン屋でもらった白い皿に載せたがったので渡す。ナイフもくれというので食事用ナイフを渡す。席に着いてバナナを器用に輪切りにしたらそれをフォークでゆっくり食べていた。なんだか貴族のようだったので「バナナ王子~」と呼んだら喜んでいた。「バナナ王子、美味しいですか?」「うん」「バナナ王子、今日は何して遊ぶ予定ですか?」「ブロック」などと優雅な(?)会話を楽しんだ。

昼。一年に一度来社する台湾の人と食事。作ったおにぎりを家に忘れてきたが、私も食事メンバーに入っていると知らなかったのでよかった。仕事以外の共通の話題が、天気・子ども・食べ物くらいしかなかった。あと羽生結弦羽生善治と名字の読み方が混乱する、どちらがどちらかと聞かれる。あと、どちらかがどちらかの熱烈なファンで新聞のテレビ欄に「羽生」という見出しを見つけると喜ぶが放送を観て「羽生」が自分のことだったと知るとがっかりするらしい、という面白い話を教えてもらった。私よりずっと詳しい。

夜。スーパーに寄って帰る。期待したが、愛しのNクリスピーフライドポテトは売ってなかった。これまで別れてきたお気に入り商品達のように、もう二度と私の元に現れなかったらどうしようと不安になった。サイはお惣菜のアジフライを紫蘇が入っているからと嫌がった。私が朝作って持って行くのを忘れたおにぎりを食べたがったので二人で食べた。食べかけのおにぎりを再び小さくまるめて喜んでいたので、甲高い声で「おにぎりの赤ちゃんだよ~」と動かして話したら喜んでいた。いつもこんなことばかりしている。食後、アンパンマンメロンパンナ(サイの一番のお気に入りのぬいぐるみ)がアニメに出て来たらサイは持っているぬいぐるみを動かして高い声で喜び絶叫する。完全に私の影響。「メロンパンナちゃん、よかったねぇ」となでると「ひゃあぁぁ~」(サイの声)とまた喜ぶ。この別人格の声は保育園でもやっているらしい。入浴。お風呂で泣いた。就寝。

3月8日(木)雨
深夜に起きてから朝まで寝られなかった。ちょっとしたきっかけでトラウマが押し寄せてきて苦しく、でもどうすることもできずただ涙を流した。泣くなんてダサいなぁと思いながらそれしかできずずっと腹の奥に石の塊が詰まったような感覚が消えないまま泣いた。もっと他の形に変換できればいいのに。この腹にある黒いものを出産するように外に出してしまいたい。

朝が来てサイが目覚めてほっとした。サイといる時だけ余計なことを考えなくて済む。純粋に愛おしくて楽しい。サイは今日もバナナ王子となり、輪切りにして食べた。渡した食事用ナイフが昨日使ったものと違っていると「ちがうね」と気が付いた。あとはパンとヨーグルトを食べた。咳をしている。私は深夜からずっと起きていたくせにいつものように出発がぎりぎりになり、慌ててサイを自転車に乗せて傘やらなんやら大荷物で雨カバーもして出ようとすると、サイが吐いた。「げぼしちゃった」と泣きそうな声で教えてくれた。吐いた原因は咳によるものだと安心したが、朝ごはんのバナナやヨーグルトが洋服や自転車についてしまったため一旦家の中に戻る。サイは怒られると思ったのか申し訳なさそうな泣きそうな顔になっていたので「大丈夫だよ」と何度も宥める。サイを拭いて着替えさせ上司に遅刻の旨連絡し、再出発。遅れると決まったら変に穏やかな気持ちになった。保育園に着いて教室で着替えやコップなど配置しサイと別れる時、一端教室の奥に入ったサイは出入り口まで来て手を合わせてくれた。最近してくれなかったので嬉しかった。

電車の中でよろめいたら一見いい人そうに見えたおじいさんがイラついたように二度も怖い顔で小突いてきて悲しくなった。保育園に傘を置き忘れたので仕方なく自転車用の超絶変なデザインのポンチョ(300円)を被って駅から会社まで歩いた。サイとも満員の通勤電車とも別れて一人になった途端また涙が出てきて、何で朝から歩きながら泣いているのか自分でもよく分からなかった。

昼。パン美人にすずめやのどら焼きをもらう。美味しい嬉しい。パン美人と話すと心が晴れる。保育園から電話。サイが熱を出したとのこと。食欲もあまりなくおやつさえあまり進んでいたなかったとのこと。サイがおやつを食べないのは異常事態なので、熱より食欲がないことが心配だ。Kが仕事がもう終わるということで迎えに行ってもらう。
午後、サイが気になりつつ、昨日提出した報告書をイチから書き直すよう上司に言われる。自分が思っていたのと上司が想定していたのが全く違って、それなら最初からそう書くよう言って欲しかったというように遠回しに伝えたら謝られたが書き直しにうんざりした。仕事で何か理不尽だと思ったらすぐ態度に出してしまうため、周囲に怖い奴だと思われている(らしい)。別にいいけど。

書き直しが進まず少し遅くなり退社。久しぶりに夜一人で自転車に乗った。雨が降る中ださいポンチョを被り爆音(って言っても大したことないが)で大森靖子さんの『洗脳』を聴きながら自転車を漕ぐ。サイは元気そうだったが、食欲はあまりなさそうでバナナ2本食べた。それからまた二人でアンパンマンを観た。入浴後、サイは大森さんのCDの歌詞カードを広げて観ながらそこに載っていない大森さんの歌を歌っていて面白かった。

サイが寝たらまた不安が押し寄せてきて、布団に入ったものの悪夢を見てはすぐ目覚めるを繰り返した。吐き出すようにワードに打ち込んだ文章を読み返してみても余計苦しく何か手を動かしたいと思ったが何もせずネットでスイーツの画像を眺めていた。私は画像検索結果が好きだ。時々全く関係ない画像が混ざっていたりすると気になって開いてしまったり。魚とゴミが漂う海のようだ。それにも飽きたが音楽を聴く気になれず、外で激しく降る雨音をぼーっと聴いていた。

ふと、以前ナナちゃんを鉛筆で描いたものを放置していたことを思い出しそれに色を塗ってみようと思った。絵は上手くないが、筆で何か描いたり塗ったりする作業が小さい頃から好きだ。鉛筆や色鉛筆も好きだが筆の方がより好きだ。いそいそポスターカラー(水彩絵の具が家にない)を準備し暗い部屋で最低限の明かりをつけて描き始める。相変わらず雨音がする。ナナちゃんを落書き程度に描いたことはあるが真剣に描いたのは今回が初めてだった(正確には大森さんへのプレゼントを入れる袋に一度だけ描いたから二回目か、しかしあれは布だったので描きにくかったしナナちゃんへの理解がまだ浅い頃だった)。描くというのは対象に究極まで向き合うということだなと小学校の図工の時間にクラスメイトを描いた時初めて気付いたのだが、対象に愛情を持ちすぎていると私はなかなか納得いくように描けない。特に仲良くないクラスメイトだと我ながらけっこう上手く描けて賞をいただいたりした。想いが強いと自分の中にある愛情と等しいものがちゃんと描けるか、いつも不安になる。だから大森靖子さんの絵は未だに納得いくように描けない。ナナちゃんだったら大森さんより自分の想いを客観的に捉えられるかなと思い描いてみた。でもやはり難しく、ナナちゃんの愛らしさがあまり出ていない寂しそうな絵になった。私がナナちゃんのそういう陰の部分で見ているからかもしれないし、自分の描く絵の画風によるものかとも思った。

画風というか色遣いは完全に小学校の時に通っていた絵画教室のおっさん先生の影響で、先生の絵のトーンが暗かったので、それを何となくかっこいいと思い私も暗い色を好んで使うようになった。大人になった今でも同じような色遣いだからおっさんの画風どうこうというより自分自身の性格によるのかもしれないし、幼稚園から6年まで7年か8年間通っていたからそもそも性格がおっさんに似てしまったのかもしれない。別のブログにも書いたが不思議な先生だった。寡黙で何を考えているか分からず部屋の隅に先生が描いた雲のある空の絵が無数に飾られていた。全部同じに見えたが微妙に違うようだった。赤の他人に性格が似るなんてすごい影響力だ。元気にしているだろうか、生きているだろうか。などと考えていたら朝になっていた。雨も止んでいた。絵を描いたら不思議と落ち着き、トラウマは消えはしないが洞窟にまた帰って行った。トラウマとは一生付き合っていかなきゃいけないし目前の問題もある。目を伏せないで対峙したい。


3月9日(金) 曇り
ようやく金曜日。はぁ。風は吹いていたが雨は止んでいてほっとした。サイは熱はないが食欲もりもりではなさそうだった。またバナナを食べて、あとパイの実をひとつずつ食べた。「これはなんっていうの?」と聞かれたので「パイの実っていうんだよ」と答えると不思議そうにしていた。出発すると風が吹き荒れていたのでサイは「きもちいいーー!」と言い、「もっとスピードやって!」と早く走るよう急かされる。歩行者がいて危なかったのであまり飛ばせず「スピード足りないねぇ」と弁明した。何もない広い道で二人でびゅーんと走りたいな。三年前自転車に全く乗れなかった(これを言うと誰にでも驚かれ笑われる)私が言う台詞とは思えない。人は何が起こるか分からない。

出社直後、いつもパンをくれる美人社員(パン美人とは別の人、ややこしいので今後名前を「美人のうーさん」としよう)がまたパンをくれる。私がパンが好きだと知ってからずっとくれるが、こちらはなかなかパン屋に行けないので何も返せない。さすがに一方的にいただきすぎなので今度可愛いお菓子でも買って渡そう。こういう見返りを求めないというか、打算なく気の利いたことをする人ってそれだけで美人だなって思う。仕事もできるし。うーさんに私が反発した挙句に上司から脅迫まがいを受けて最後は屈した制度の話(先週の日記参照)をすると、うーさんもよく思っていないようで未だ応じてないとのこと。脅迫されて結局やったんですよと言うとパワハラ案件だと一緒に怒ってくれた。自分は間違っていなかったと抱き締められた気持ちになって泣きそうになった。ありがとう、うーさん。かっこいいし美人だ。しかも私がその制度で悩んでいると聞きつけて飲みに行こうと誘ってくれた。ラインも教えてくれた。好きすぎて自分から誘えなかったから嬉しくてドキドキしている。パン美人も一緒に飲みに行くことになった。嬉し。二人とも顔は綺麗で中身は男前だ。付き合いたい。男前な女性が私は好きらしい。

夜、お迎え。サイは熱も上がらなかったとのこと、よかった。サイはトイレに行ったりして出るまでに時間がかかっていたので、いつもは会わないサイと仲の良いKくんとお迎えのタイミングが合った。Kくんのお母さんは嫌味な感じが一切なくとても気持ちがいい人だと思っている。豪快な感じというか枠に捉われずのびのび子育てされている感じがする。聞いたエピソードで一番面白かったのが、Kくんが一番最初に食べた食べ物が肉だったということ。離乳食を始める時は通常10倍粥から始めて擦った野菜やたんぱく質に移っていくのだが、お母さんはKくんにいきなり肉を食べさせたらしい。「なんか食べちゃったんですよね」と笑うお母さんが最高だなと思った。サイとKくんは保育園の初期メンバーというのか0歳の時からずっと一緒なので私はKくんが大きくなっているのを見る度に赤ちゃんのKくんを思い出して感慨深い。赤ちゃんの時他の誰よりも大きくて周りを驚かせたKくんは今やすっかりお兄さんとなり赤ちゃん気が抜けていた。「おにいさんだね~」と言うと、Kくんのお母さんが夏に二人目が生まれることを教えてくれてKくんは本当にお兄さんになると知った。サイと同じくらいの年齢の子がいる知り合いや友達から二人目が生まれた、生まれるという話を最近よく聞く。おめでたいと思うどこかで、自分にはもうない話なのでぐっとなる。サイも「サイくんのおうちにあかちゃんきてほしいの~」と最近たまに言う。どうすることもできないのでごめんねと思いながら黙ってしまう。

サイとKくんは保育園の入り口に置いてあるチラシを丸めてチャンバラ的な棒をそれぞれ作り、帰りに自転車に乗りながらお互いを空中で攻撃ごっこをしあったり奇声を発していた。Kくんの「ボタンをおしてください!」にサイが「はいっおしましたよ」と応答するなど二人の世界があって面白かった。
一週間の疲れが溜まっていたのか帰宅後サイはグズり夕食が作れなかったので冷凍パスタで済ます。入浴後、就寝。


3月10日(土)曇り時々晴れ
ゆっくり起きて朝ごはん。洗濯。サイがまだ咳をしていたのでいつも行く「やさしいせんせい」の小児科へ。木曜日に行った別の病院の診断が不安だったので念のため。待合室で数冊トーマスの本を読み聞かせた。テレビ版のトーマスの写真(今のCGでなく模型時代の)が挿絵になっているのだが、トーマス達の苦悶に満ちた表情が奇妙でサイと笑った。いつも思うがトーマスってけっこう彫深くて怖い顔立ちをしている。夜中に見たら絶対怖いやつ。「やさしいせんせい」に診察してもらうと私が安心した。サイはいつものように固まっていた。体重計に乗るだけで注射かと恐れていたサイに先生は「あら、だいじょうぶよ」と優しく言った。別の病院とは全然違う薬を出してもらう。

そのままお昼になったのですきやで私は牛丼小、サイはお子さま鶏そぼろ丼を食べた。隣のテーブルにいた大学の先輩後輩と思わしき男子二人組が「春休み終わっちゃうけど何もしてねぇ…勉強とか」「勉強なんかしなくていいよ、○○ちゃんとすごせば?」「あいつは今頃セブ島っすね」という会話をしていて、突然の「あいつは今頃セブ島っすね」という台詞が何かいいなと思って私は脳内で何度も反芻した。セブ島ってどこだったけ。そらからスーパーに行き、サイがいつも買う「めばえ」がなくプリキュアの付録がついている「おともだち」を欲しがったので買う。680円もした。それからTUTAYAに寄ってサイと私が観たい映画を5枚ほど借りた。帰ったらどっと疲れが押し寄せて一刻も早く昼寝したかったが「おともだち」の付録を作らされる。「めばえ」より台紙から外しにくかったり組立てにくく苦戦した(一誌で決めつけるのも何だが、厚紙のミシン線の入れ方など講談社より小学館の方が付録設計が優れている)。さすがに全部の付録は勘弁と思ったので途中で「布団でその本みようよ」と提案して寝室に行き、私はとりあえず横になった。講談社批判をしているわけでないが「おともだち」は誌面もごちゃごちゃしていて色遣いも派手で情報量が多すぎて頭痛がした。サイもしばらくすると寝た。
昼寝後、サイとたこ焼きをつくる知育菓子(この商品すごい、味も本物に近いたこ焼きができる!)で遊び、映画『それゆけ!アンパンマン いのち星のドーリィ』観る。アンパンマンミュージアム10周年記念作品ということもあり、ここ数年の劇場版アンパンマンに比べ制作側も力が入っている気がした。最近のはどうか知らないが、原作もやなせたかしのものだし。素晴らしい映画だった。感想を別途まとめたい。夕食は二人共あまり食欲がなく野菜煮込みうどんで済ます。入浴後、就寝。私は深夜に起きて書き物をしていたら朝になった。


3月11日(日)曇り時々晴れ
朝ごはん、洗濯。あまり寝なかったために一気に体調を崩した。何か作業を始めると後のことを考えず没頭してしまうのは私の悪い癖だ。昼はマックやコンビニで適当に済ます。サイと室内ピクニックをした。それから
昼寝後、サイと「クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」を観る。面白いと聞いてからずっと気になっていて、サイが最近しんちゃんに興味を示しているので一緒に観ることにした。映画を観てこんなに笑ったのは初めてかもしれない。げらげらずっと笑いっぱなしだった。サイも笑っていた。奇想天外なストーリーや小ネタが最高で最後はしみじみとし、本当に観てよかった。サイは初めて長編映画を最後まで大人しく観た。子どもでも飽きさせないなんてすごい。集中して観すぎたせいで観終わると疲労感を感じた。また布団でいちゃいちゃだらだらした後、夕食。胸肉の漬け焼き、野菜の味噌汁、ごはん。味噌汁に味噌を入れ忘れたまま食卓に出してしまった。入浴後、就寝。体調が悪いのに眠れず夜更かししてしまう。

今日で東日本大震災から7年。被災していなくてもあの震災を通じて人生が変わった人はいるだろう。私もその一人かもしれない。明確ではないがあの日を境にガラガラ崩れていったものがあった。逆にこの震災があったことで何かを見つめ直し人生が良い方向に向かった人もいるかもしれない。何を思おうが、海に消えて亡くなったことすら証明されない方が大勢いて、7年経った今生活を繰り返す自分がいて、そういう事実をずっと忘れないだろう。『それゆけ!アンパンマン いのち星のドーリィ」』を観て改めてそう思った。

対バンに生まれて初めて行ったり実家の押入れの奥でもう外に出ることなく眠る雛人形の顔を思い出したり

2月26日(月)
朝。パン、ヨーグルト。サイを保育園に送った後、午前中会社を休んで整形外科へ。二つ隣駅の病院に行ったら新しいクリニックセンターみたいなところにあり耳鼻科や小児科も同じ敷地内にあった。クリニックセンターの隣に大きなスーパーもあり便利で住みやすそうな街だなと思った。小さな子ども連れのお母さんをたくさん見かけた。整形外科でレントゲンを撮った。自分の外見を見るのはぞっとするがレントゲン写真で身体の中を見るのは好きだ。できることなら全身レントゲンを撮ってじっくり観察してみたい。腫れていると言われたが痛みの原因は不明だった。それから平日昼間しかできないので、銀行と区役所をはしごして所用を済ます。午後の出社まで早足で歩き回っていると脚がまた痛くなった。

夜。お迎え。サイは珍しく帰宅して夕食前におやつを欲しがらなかった。煮込みうどん。サイはよく食べてくれた。褒めたらすごいでしょと自信満々だった。入浴後、就寝。脚が朝よりもずきずきと痛む。診察と痛みの箇所がずれているので何か別の病気ではないかと恐ろしくなる。

2月27日(火)
朝起きると脚はもうほとんど痛くなかった。なんだったのだろう。出張でいつもより早く家を出発しなければならかったがサイは頑張ってくれた。車内で『新潮』3月号のリレー日記を読む。作家の日記は面白い。リレー日記なので一週間ずつ別の人が書いている。それぞれの日記の内容は全然違うのに時間が繋がっていて続けて読んでも面白い。朝吹真理子さんのごはんが美味しそうだった。アボガド醤油漬けとしらすをごはんにのっけて食べるのとか、私も真似してみたい。ずっと下を向いて読んでいたら乗り物酔いをしたため、読むのを辞め着くまで窓の外を眺めていた。出張先は寒くて山の近くで身体が冷えたけど晴れていて空気がよかった。上司がおやつにスニッカーズをくれたので持って行った大福は食べなかった。私はスニッカーズみたいなぬちゃっとした歯に詰まりそうな食べ物が好きだ。

帰りの列車(個人主義者の集まりのため行き帰りも皆席は別。楽で良い。)に乗り込みワゴン販売で買った缶ビールを一口飲んだら安堵した。ふと時間を見て「あれっこれは間に合うんじゃ」とはっとした。どうせ出張で遅くなると言ってある。行くしか。行くと決めるとツイッターで今日の銀杏BOYZ大森靖子の対バンライブのチケットを譲ってくれる方を探して、駅から会場までダッシュして無事受け取った。ツイッターは嫌いだけどこういう時は便利だ。

ZeppTokyoに入るといつもと確実に違う空気だった。ぴりぴりしていた。大森さんより銀杏BOYZのTシャツを着た人が多い気がした。会場へ入ると更にぴりぴりで何だか気が引けたので会場一番後ろの壁の前で観ることにした。数時間前まで山でスニッカーズを食べていた自分がなぜ今ここに立っているのか不思議だった。

ライブは全てが美しすぎた。今回は感情を文字化するのが一番良いとは思えないので未だに感想を書けないでいる。一番印象に残ったのは峯田さんが歌った『ミッドナイト清純異性交遊』。大森さん以外の歌手がミッドナイトを歌うのを聴いたのは初めてだった。好きな人のことを歌った曲をずっと追いかけていた人が歌う、大森さんはこの光景をどんな顔で見ているだろうとずっと考えていた。「モリステ!」で大森さんがカラオケにこの曲が入った時、何度も何度も繰り返し歌っていた姿を思い出した。「2005年から2018年まで遠くはないのさ」と峯田さんは歌詞を変えて歌った時、高校生の大森さんが峯田さんに毎日「件名:大森靖子」のメールを送っていた時と数年後峯田さんが「大森靖子」という四文字を見つけてはっとした時と今この瞬間が全部線で結びついていた。美しかった。峯田さんを初めて見たどころか、峯田さんの歌を初めてちゃんと聴いた。ほとんど知らない曲だったがステージ上で飛び跳ねたりダイブする峯田さんと鳴り響く音と一体化したもはや別の生き物のようにうねる群衆を夢の中で見る光景のようにぼんやり眺めていた。峯田さんが曲の合間に方言混じりで話す一言一言が胸に刺さって愛おしく、大森さんやファンへの優しさが尋常でなく、え、こんな人間が世界に存在したの、峯田さんって一体何者なのとずっと戸惑っていた。これだけで判断すべきでないが、熱狂的なファンがいるというのにも頷ける気がする。サイには峯田さんみたいに育ってほしいなと唐突に思った。「いつか君たちが銀杏BOYZ大森靖子を忘れて聴かなくなっても大森靖子銀杏BOYZは今日の日のことを一生忘れない」と峯田さんは言った。

終演後、会場を出た所でビールを飲んでいたら知っている人に会ったので少し話した。居合わせた方と三人であれこれ話しながら帰った。帰宅してやや潰れた大福を食べてお風呂に入って寝た。後から今日行った出張先と峯田さんの出身県が同じだと知った。ここへ出張へ行くのは初めてだったし当分はないだろうから奇跡のような巡り合わせ。


2月28日(水)
朝。パン。会社の制度に従わず反発していたら叱られた。この歳になって「社会の規定に反するなんて許されない」と言われると思わなかった。夜も夜で嫌なことがあった。夕食は野菜とハムのオムレツ、コーンスープ、ごはん。入浴後、就寝。


3月1日(木)
朝。大雨。ダメな一日だった。ちょっとしたはずみで心がガラガラに崩れてしまって会社を一日休んだ。サイを保育園に送ってからその足でスーパーまで自転車を飛ばした。平日開店直後のスーパーにはほとんど人がいなかった。無の表情で何かをカゴに放り込んでいる老人達が将来の自分に見えた。サイの好きなめかじきと豚肉と新じゃがとしらすとミレービスケットを買った。嵐の後のような空は風が吹き荒れていて清々しかった。ミレービスケット一袋(500kcal)を一気に食べた後アイスを食べ、青空が見えてきたので洗濯をする。が、洗い終えたものを干すまでに3時間ぐらいかかった。それから録画したドラマを観て朝吹真理子さんの真似をしてアボガド醤油漬けしらすごはんをビールと共に食べポテトチップスを食べ、ぼーっとしていたら外が暗くなり慌ててお迎えに行った。時間がいっぱいあるのに食べること以外何もしなかった。部屋は散らかっている。保育園ですれ違ったお母さんに「お疲れ様です」と口々に言われ罪悪感を感じた。

帰りながらサイは私の好きな食べ物をひとつずつ声に出した。「ビールでしょアイスでしょももでしょ、あとなにかなー」「いかも好きだよ」「へぇ~いか~!」サイはこうやってデータ更新していく。夕食はめかじきのソテー、コーンスープ、ブロッコリー、ごはん。「もうサイくんおとなだからビールのみたい!」と泣き、宥めるのが大変だった。入浴後、サイと布団の上でごろごろして遊んだ。「ままのセーターきるー」とまたリボン柄の汚いTシャツを着て寝た。Tシャツのことをセーターだと思っているらしい。就寝。


3月2日(金)
朝。パンとヨーグルトとクロミちゃんのビスケット。スムーズに出発。天気がいい。
もう人間関係とかネットとか全部疲れてしまった。海辺の街で冷蔵庫をアイスとビールでいっぱいにして暮らしたい。時々浜辺を散歩して。


3月3日(土)晴れ
天気が良い。朝ごはん、洗濯のち簡単なお弁当を作り缶ビールを持ってサイと公園へ。100均で買ったクマや星の型でおにぎりを作ったら可愛くできた。こういう型は可愛いけどうまく使えないと思い込んでいたが、最近のは米粒がくっつかないようにされていてなかなかよくできている。お弁当を食べた後、サイと夏場は噴水になっている池が今は水が抜かれているのでそこに入って探検隊ごっこをした。凸凹したちょっと危なそうな岩や石に登るのがサイのマイブームのよう。転ばないかと冷や冷やするがサイは得意気に進んでいく。サイ隊長に着いて行く私。それから二人で滑り台をした。一度私の不注意で顔面をぶつけてからトラウマになってしまいやろうとしなかったが、「まえにかおがぶつかっちゃったよね」とまだ思い出しつつ滑る気になったよう。横長の滑り台なので手を繋いで滑ったら楽しかった。それから「サイくんがママのせなかおしたげる」と言われ、なぜか私だけ滑らされたりした。砂にサイが絵を描いている時、あまりの陽気で眠気が押し寄せてきて私は座ったまま寝ていた。それから二人でアイスを食べて薬局に寄って帰って昼寝。「ママねてたよね~」と、あとからサイに公園で寝ていたことを指摘された。夕食は肉じゃが。入浴後、就寝。

そうえいばひな祭りらしいことは何一つしなかった。スーパーの食材に「こういう風にパーティーで使えばいいよ」という楽しげなメニュー写真が載っている度にうっとなる。集まってひな祭りパーティーとかやる人もいるだろうが、想像しただけでぞっとする。自分が小さい頃に住んでいたマンションは新築だったので、同じ歳くらいの子どもがいる家族が何組もいて、毎年持ち回りの女の子がいる家庭主催でひな祭りパーティーが開催されていた。今思えば豪華なひな人形や凝った手料理、子どもに着せる着物、その全てが母親同士のマウンティングだった。恐ろしい。笑顔の集合写真の裏にあるぴりぴりした大人の何かを見る度に震えた。私にはそういう付き合いもなければママ友自体いないので心配無用だが、とにかくサイが男でよかったとほっとした。サイにコンビニでおひなさまの砂糖菓子がついたケーキをねだられたがあまり美味しそうでなかったので買わなかった。サイは保育園に飾ってあるひな人形をいつも気にしていて、一番下の段にある牛車や重箱などの小物を「これはおべんとうだね~」と蓋を開けようとしたり、「サイくんこれほしい~かって~」とねだっていた。おだいりさまと「おひめさま」と呼ぶ。実家の雛様達はどうなるのだろう。いつか捨てられるのだろうか。


3月4日(日)夏のような陽気
早起きしてサイと電車に乗り、川崎市市民ミュージアムで開催している「MJ’s FES みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展 SINCE 1958」へ。タイトルからして最高ではないか。移動時間が長かったのでぐずったが途中お菓子を買ったりして何とか到着。駅でMJ部(私が会社で勝手に結成した部。4年前、パルコで開催されていた「国宝みうらじゅん いやげ物展 in TOKYO」に行ったのが部の始まりだったのでMJ部と名付けたが別にMJに関係なく面白いことがあればお出かけする。活動は不定期。)のメンバーと合流。サイは久しぶりなので緊張していたがすぐに思い出し懐いていた。初夏のように気温が高い上にトークショー(観たかったがチケットは完売)があった関係で大混雑だったので激しい頭痛がして展示に集中できなかった。全部見るのは諦めた。特に幼少期や青年期の漫画やポエムなどの自主制作品が面白かったがとにかく展示量・情報量が多かった。観終わった後、みうらじゅんが好きなメンバーも「しばらくMJは見たくない」と感想を述べるほど皆憔悴していた。サイはポスターのMJを見て「○○せんせい!」と言い、確かに○○先生はMJに髪型が似ているので私はげらげら笑った。その後も「へんなおばさん!」と言ったり、まさか男性だとは思っていないようだった。MJは自分のことをおばさんだといつも言っているので本能かもしれない。サイは「てんぐレンジャー」のショーのVTRとスタンプに夢中になっていたが後は興味がなさそうだった。MJの原画に「おっぱいだ~!!」と喜んで手を触れそうになったので冷や冷やした。会場でも「ちんちん!」などと絶叫していたのでくすくす笑われていた。ミュージアムを出てからも大人達にオリジナルの意味不明なクイズを披露したりしてテンションが高くずっと興奮状態だったサイは帰りの電車では電池切れとなりぱったり眠った。
帰宅後、夕食。入浴後、就寝。「楽しかったね」と言い合って寝た。珍しく夜泣きをしたので昼間刺激を受けすぎたのかもしれない。

ぽかぽか春の陽気が感じられる週末だった。でもまたぐんと寒くなるらしい。冬は終わっていない。人生のようだ。がんばらないと。

いつか消えてしまう駆け落ちやチョコレートなど

2月19日(月)
朝。バナナとコアラのマーチ2個。月曜なのでバタバタ出発。やはり忘れ物をしてしまう。遅刻しかけたが話したことのない別の部署の人が焦っている私に声をかけてくれ打刻してくれた。名字を5回くらい呼ばれてやっと自分が呼ばれていることに気がついた。大森さんと撮ったチェキをデスクトップの下に飾って仕事していたら同い歳の男性社員が持参したクッキーを配りに来たので急いで隠す。私がクッキーを配れるようになるにはあと50年はかかるだろう。

夕方。買い物。マルエツのパンコーナーで、日本に存在するポテトで私が一番好きな「Nクリスピーフライドポテト」に三度目の邂逅をした。やったー。しかし「N」ってなんだろう。好きな商品やお店や人は気持ちを投じ過ぎるとだいたい消えたり離れていくので、この先出会っても毎回は買わない方がいいのではと怯えている。好きなのに好きを手加減するというか。しかし三回とも必ず割引シールが貼られていて私が買わねばラインナップから永久に外される恐れもある。愛情の駆け引きが難しい。

帰宅してポテトをトースターで温めながらサイとつまみ食いしていたら皿に盛る前になくなってしまった。夕食は冷凍餃子、ごはん、味噌汁。入浴後、就寝。アンパンマンの絵本を読んでから寝た。同じ絵本を繰り返し読んでいるから読み聞かせがだいぶうまくなってきたと自負している。最近は書いてない効果音も自分で足す。


2月20日(火)晴れ
朝。パン、ヨーグルト、コアラのマーチ3個。私がトイレにいっている間にサイがトースターに2切パンを入れ、二人分のヨーグルトを冷蔵庫から出してくれた。素晴らしい。天才か。ベタ褒めした。私が薬(鼻水と咳の薬)を飲ませ忘れていると「くすりは?」と聞いた。すごい。もうすっかり大人だな君は。ほっぺにちゅーも毎日してくるし。教えていないのに上手すぎるので自転車漕ぎながら「保育園でもちゅーしてるの?」と聞いたら「してないよ、おうちでママだけだよ」と言って振り返っていたずらそうににーっと笑った。ホストかよ。怪しいなと思いつつ「そっか~そうだよね~嬉しいなぁ~」と返した。

夜。夕食は買ったお惣菜と味噌汁ごはん納豆。サイがほぼ何でも食べられるようになってきたのもあり、最近毎日手抜きしている。夕食後、入浴。

いつものように湯船で「今日保育園で何したの?」と聞くと「○△こうえんにいったよ」「へぇ先生やお友達と?」「ううん、Mちゃんと」「えっ二人だけで?」「うんそうだよ」現実に先生の同伴なしで園児が園外へ出るのはまずあり得ないので、サイの完全な妄想だろうが、好きな子と二人で公園まで行ってしまう妄想力よ。というかMちゃんのことまだ好きだったのか。Mちゃんは1歳半頃サイが一方的に好意を抱き、一時期Mちゃんの両親に嫌がられるくらい執着しストーカー行為に及ぶなどしていた女の子(過去日記参照)。最近はMちゃんの話をしなかったので興味をなくしたかと思っていたがまだ想いは消えていなかった。すごい。確かにかわいい子だが、小学校上がったら絶対女子グループのトップにいそうな子だなとは思っている。私が3歳だったら多分仲良くならない子というか。別にいいけど。「Mちゃんと公園行けてよかったね」「ママもいきたい?」「うん」「Mちゃんいるけどいい?」「う…うんいいよ」「サイくんとMちゃんとママでいこうよ」「…うん」
前まで赤ちゃんだった君はいつの間にそんな風に。当たり前だけど人間は精神も成長して誰かを好きになることもあるのだな。脳内で駆け落ちした記憶もいつか消えてしまうのだろうなと湯に浸かりながらしみじみ考えた。脳内BGMはもちろん『小さな恋のメロディ』。ビージーズーが風呂場に来た。

お風呂から上がった後に「保育園でもちゅーしてるの?」(本日二回目しつこい)と聞いてみたら「…うん、してるよ」「!!…え、だ、だれに?」「Mちゃんだよ」ひえー。やっぱりな。もう一歩踏み込んでみる。「サイくんはなんでMちゃんにちゅーするの?」「…すきだから」おおおおおぉ。オムツも取れていないのに愛情表現手段を知ってしまったのか君は。「他の子ともするの?」と聞いてみたらちょっと困った風に「うーん、Sちゃんがサイくんにするよ」まさかの三角関係だった。Sちゃんもトップグループに確実に入りそう。もうおばさんには分からないので切り上げて就寝。何でもいいけど将来スケコマシにならないでほしい。


2月21日(水)曇り
深夜に起きてしばらくしてまた寝るもお腹が空きすぎて布団を出て日曜日コンビニで買った「カップヌードルナイス クリーミーシーフード」を食べた。「ナイス」って「ナイススティック」みたいに安くてうまい男子高校生のソウルフード!って感じでいいなと思った。だって、ナイスだよナイス。グレイトとかデリシャスとかではなく。美味しかったからまた食べたいな。と思っていたら朝が来たので少しだけ眠った。牛になる。

朝。サイはバナナ苺みかん。私はパン。前日にサイは私が着古したリボン柄のTシャツを着て寝たいと言うのでパジャマの上から着せたらワンピースのようになった。それが気に入ったようで、「サイくんきょうこれきておしごといく!」「えっ」「ほいくえんはだめでしょ、だからおしごといくよ」「う、うん」私がふざけた服ばかり着て出勤したり、ライブに出かける時に「お仕事だよ」と適当に言ったりしているので「機能的でない服」=「しごと」だと思っているらしい。

午後半休を取って某所へ行き相談。初めて光が見えた気がした。その後少しだけ時間があったので新宿に寄り、ネットで一目惚れしたワンピースを予約した。海が描かれたワンピース。それから気に入った手描きの小さなグラスを二つ買って、帰宅。

サイは夕食前にバナナとソーセージを食べた。夕食は焼き魚、出し巻卵、納豆、ほうれん草の味噌汁。夕食後、二人でプラレールの線路を作る。サイは環状ではなく、縦横無尽になるような設計にしたかったらしいが、普通のパーツでは無理だと説明。「今度玩具屋に線路買いに行こうね」と言うと「せんろやさんにうってる?」と聞いてきた。それからなくなったリボンテープが巻いてあった台がプラレールの線路にぴったりはまることがわかったので、そこに紙で作ったナナちゃんアンパンマンのキャラクターをテープで貼り、走るトーマスに押させてくるくるまわりながら進むとキャラクターがぽこぽこ出る、という謎の遊び道具を作った。サイはまあまあ喜んでいた。お風呂でプリキュアについて話す。サイはオレンジ色の前髪が短い子推しらしく、「ぷいきゅあのおれんじのおようふくがほしいのーかってー」と言っていた。プリキュアがまだちゃんと発音できない。入浴後、私が以前怪我したところにプリキュアの絆創膏を貼ってくれる。手の甲にも貼ってくれる。就寝。


2月22日(木)雨雪
明け方起きて6時半にまた眠くなり、30分だけ眠ろうと思ったら案の定寝坊した。急いで出発。雨雪で顔も手も冷たい。サイも嫌がる。傘も忘れたので駅から会社まで濡れる。冷たいし寒い。朝からくたくたに疲れてしまった。

昼。パン美人と食べる。サイの話など。パン美人はサイに何度か会ったことがある。Mちゃんの話をすると将来バスケ部かサッカー部に入ったら嫌だよね、と言われる。運動部でも陸上ならいいかなと二人で話した。そもそも運動なんて別にしなくていいと私は思うが、本人が本当にやりたいならすればよい。ただ○○部のオレかっけ―という理由なら悲しい。囲碁将棋部の方がカッコいいと私は思うけど。

夕方。お迎え。先生に「サイくんがお家でアンパンマンのチョコレートを作った、と言っていたのですが本当ですか?すごいですね」と聞かれる。「えっ、作ってないですよ。最近二人で公園に行ったよとかけっこう妄想で話すことが多いのでその話も妄想だと思います。」「そうなんですね~。あっ、あとママがいつもビール飲んでるって言ってたのですがじゃあそれも…」「えぇと…それは本当ですね…」「ははははは」だいぶ恥ずかしかった。

コンビニで夕食調達。ルパンレンジャーのスナック菓子を買わされる。帰宅して慌てて開封するが、カードなどのおまけがついてないと知るとがっかりするサイ。お風呂で思いついたように突然「ままはおけしょうしたらかわいいね」と言ってきた。入浴後、私が化粧水などつけていたらやって来て、「サイくんもおけしょうしたいの~」と言う。チークブラシを使いたいと言うので残っているチークをはたいて渡すと念入りに顔にぽんぽんしていた。「まゆげもぬりたい」と言われたが、明日お風呂に入る前ならいいよと言った。布団に入る前から猛烈に眠く、サイに絵本を読み聞かせていて質問されれても答えがだんだん適当になり絵本に関係ない言葉を目を閉じながら言ったりしていたので、「えっ?なにっ?」と何度も問い詰められる。サイ自ら絵本を閉じてもう寝ようということになった。どちらが子どもか分からない。


2月23日(金)
朝、パン。また雨が降っていて色々と装着して出発。これがあるかないかで労力がかなり変わるので朝の雨だけは勘弁してほしい。

夕食はコンビニのハンバーグとほうれん草のおみそしると納豆。コンビニばっかりだ。栄養状態が気になるが主食を作るか作らないかでサイとの過ごす時間がだいぶ変わる。いつも夜は本当に時間がない。お風呂完了、歯磨き完了、などゲームのようにひとつずつクリアしていくとほっとする。ゴールはお布団。幼稚園だったら夕方には家に帰ってちゃんと夕食準備してってできるけど毎日帰宅したら7時近いのでサイも私もお腹が空いている。お互い夕食前に無言で好きな菓子や果物を食べたりする時もある。仕方ないよね。できることをやっていきたい。

金曜日はサイが毎週楽しみにしているアンパンマンの新しい放送(朝の録画)が観られる日。前の週の次回予告を見た時から毎日「ホットケーキマンはらいしゅうだよね?らいしゅうってきょう?」と毎日のように聞いてくる。お酒を飲みながらアンパンマンクレヨンしんちゃんをげらげら笑って観るのが好きだ。『クレヨンしんちゃん』は子どもの頃観るより今観た方が断然面白い。実家にあったはずの漫画も今もう一度読みたいなと思う。みさえネタはつい感情移入してしまって笑えない時もあるが、悲壮感がギャグ化されていることで自虐的に笑える気もする。今日の放送は夜中にネイルしようとしたみさえが色んな邪魔が入りうまくいかなくて腹痛に見舞われトイレに籠るも、最後はトイレから下半身を出したまま倒れて壁に激突するという話だった。こう書くと悲惨だが観ていると面白かった。しんちゃんが「小じわ妖怪3段腹リンクル29歳」と呼んでいて初めてみさえが自分より歳下だと知った。みさえ、毎日頑張ってるよ。サイもげらげら笑っていた。しかし「小じわ妖怪3段腹リンクル」ってひどいな。左脚がなんとなく痛い。入浴後、就寝。


2月24日(土)
朝、パン、ヨーグルト。洗濯など。サイと公園へ。前行った無愛想なおばちゃんがやっている食堂でお昼を食べる。サイにいそべ餅、私はオムライスを発注するもオムライスはできないとのこと。多分出せるメニューは実際貼ってあるメニューよりかなり少ない。仕方ないのでカレーを食べる。餅が好きなはずのサイはいそべ餅を嫌がって食べず、いなり寿司も追加で頼む。それも嫌がってほとんど食べなかった。結局私がカレーといそべ餅といなり寿司を食べた。お腹がきつかった。こうして母親は太っていく。そのままスーパーまで歩いて行く。スーパーの近くの花屋さんでサイがお花を買いたいと言うのでチューリップを3本買う。値段を見なかったらけっこう高かった。

それから広場でよく分からない芸人のステージショーが始まりますよとアナウンスがあったので興味本位で見てみる。ネタが驚くほどつまらなくて、サイも全く笑っていなかったが途中で離席することもできず終わりまで観る。つまらないけどこの人にはこの人の生活があるんだろうなと思うと複雑な気持ちになった。途中で芸人さんがスマホを落とし、手帳型のスマホケースがぱかっと開いたがパスケースや何かのカードがが綺麗に入っていて真面目な性格の人なんだろうなと思ったら余計辛くなった。ドタバタしたネタだったのでスマホを踏んでしまわないか冷や冷やした。最前にいて横の女の子数人(親の姿見当たらず)に「可愛いねぇ」としきりに話しかけていた気持ち悪いおっさんに「それくれよ」とネタで使った缶詰を芸人さんにせがんでいた。おっさんは「つまらないな~」とか「もう終わるかな~」とか度々大きい声で言っていた。女の子達はおっさんを気にすることなく芸人さんのつまらないネタを見てげらげら笑っていた。

スーパーで買い物して帰宅。昼寝。夕食は鶏の照り焼き、トマト、ごはん。夕食後、入浴。サイはお昼に見た芸人さんの話を急にした。面白かったらしい。就寝。左脚がいよいよ痛くなってきた。最初一箇所だったのが広がる痛み。検索すると怖い病気ばかり出てくるので見るのを辞める。スタンディングはまず無理そうなので来週行きたいと思っていたライブも断念することにした。あーあ。


2月25日(日)
朝、パン、みかん、ヨーグルト。洗濯。サイと新宿へ。サイと初めてベビーカーなしで遠出できた。ほとんどぐずらずに偉かった。休憩したカフェでショートケーキを満足そうに食べていて、手を汚さなかったことをずっと得意気にしていた。夕方帰宅。デパートでもらった風船に落書きしたりペンを突き刺して遊んでいたら案の定バンッという音と共に割れた。「ふうせん、もうもとにもどらないの?」と悲しそうにしていた。夕食は豚ひき肉と野菜入りハンバーグ、味噌汁、ごはん。脚がまだ痛い。出かけるべきじゃなかったか。でも家にいるのも辛いなと思ったし楽しい休日だった。サイは買ってあげたハンバーガーが後ろについたトミカを大事そうに抱えて寝た。

魚が踊る水面はきれいだった

2月13日(火)
朝。パン。サイは今日もパンツを履いて行く。シーツをつけていたらまた遅刻してしまった。仕事がほとんど手につかないほど気が滅入っていたので、本当にどうにかしなきゃいけない。お昼、パン美人に話を聞いてもらい助言などしてもらう。夕食はきゃべつの味噌汁、出し巻卵、トマト、お惣菜。心臓がずっとドキドキして頭が痛い。入浴後、就寝。

2月14日(水)
朝。サイはバナナとパン。私はパン。二人ともいつもより早く起きたのに出発はぎりぎり。恐竜のリュックを私が持ち、サイはマイメロの手提げに色々詰めて登園。強い曲が聴きたいと思い、満員電車の中で『ドグマ・マグマ』を聴く。出社して、上司に感謝の言葉が予め書かれたチョコレートを渡す。去年おしゃれな感じのチョコを渡したら反応が薄かったので今年はギャグっぽいものにした。でもやはり反応は薄かった。目もくれず鞄に仕舞われた。もう辞めようかなと思ったけど毎日助けてもらっているし御礼という意味で。人に物を買ったり贈るのは嫌いじゃない。

お昼。人と話がしたいと思い、先週ランチをしたお母さん社員さんとまたランチをする。家事の手抜き加減とかけっこう感覚として気の合う方だなと思っている。話すと少しだけ楽になった。複数は苦手だけど一対一の付き合いが私はやっぱり好きらしい。

夕方、お迎え。保育園に向かう電車の中で『東京と今日』という大森靖子さんの新曲のMVを観ながら帰る。きりが悪く電車を降りた後少しだけ立ち止まって観ていたら閉園時間ぎりぎりになる。最後の二人だった。Sくんとサイがぽつんと教室にいた。「動画を観ていました」とはまさか言えず、「電話しようと思いましたよ」と言う先生に何度も謝ってサイを抱き締める。いつもお迎え時は騒がしいが、誰もいない保育園はひっそりしていて別の世界のようだった。『東京と今日』を歌いながら家まで自転車を漕ぐ。サイに何のうた?と言われた。サイと週末コンビニで買い込んだ冷凍食品を食べた。私はビールを飲んだ。その後、二人でMVを観た。サイは唯一分かる「東京」という言葉に反応していた。ここが東京で、東京に住んでいることを少し前からサイはちゃんと自覚している。

入浴、就寝。寝るまでに30分くらいかかるものの、本当にすぅーっと目を閉じて眠るようになって、1時間も2時間も大きな声で泣き止まず暗闇で揺らし続けていた赤ちゃんの頃が嘘みたいだ。友達に少しだけ電話してから寝た。


2月15日(木)晴れ 春のように暖かい
朝。朝食をサイが用意してくれた。びっくり。難しい顔をしてウェイターのように両手にスティックパンが2つずつ載った皿を持ち、慎重にテーブルまで運んでいた。サイの分は洗うのが面倒で誕生日とかイベントごとの時しか出さない新幹線のお子様ランチプレートにのっていた。私のは私がいつも使っているお皿だった。すごい。そしてなぜかパンを二つ積み上げた盛り付けがなされており、「サンドイッチですどうぞ〜」と言われた。あまり美味しくないパンだったけど嬉しくて美味しいね、と言いながら食べたら本当に美味しく感じた。

終業前、ニュースで「さいあくななちゃん」が岡本太郎賞を受賞したと知り嬉しくて席でこっそり泣いた。退社後、お迎え。家に食材がなく夕食をサイゼリヤで済ます。イカとかポテトとかチキンとか食べたいものを食べた。サイゼリヤは安くて美味しい。ワインが100円なので一人暮らしの時もよく行っていた。スーパーで食べてみたかったルマンドアイスを買ってから帰宅。

湯船に浸かりながらサイに「ななちゃん覚えてる?ピンクの絵の?」と聞くと「うん」と返ってきた。去年何度か展示に行ってななちゃんに会ったり絵を見たことをちゃんと覚えているようだった。サイは大抵の大人に人見知りをするが、ななちゃんには異様なほど懐つく。二人で会話もする。私が入れない美しい世界がそこにできていた。ななちゃんは小さい子どもの心を引き寄せる何かを持っているのかもしれない。「ななちゃんね、一番に選ばれたんだって」「いちばん?なんで?」賞の概念を説明するのが難しい。競争でもないし。「ななちゃんの絵が一番いいですねって言われたんだよ、一等賞なんだよ」サイは不思議そうに少し考えた後、「……おいわい?…だよね?」「そう!お祝い!」それから二人でぱちぱち手を叩いたりリーグ優勝した野球チームのようにばしゃばしゃと空容器に汲んだお湯を頭からかけ合った。わーい。入浴後、就寝。芸術は賞が全てでないけど、自分が好きな人が名誉ある賞を獲得するとこんなに嬉しいんだな、とまた泣いた。世の中捨てたもんじゃないなと思った。明日から頑張ろう。ななちゃん、おめでとう、そしてありがとう。絵は一生大事にするね。


2月16日(金)晴れ また冬に逆戻り
深夜に起きて、『anone』の録画を観た。このドラマは俳優がいいと思う。主役の二人はもちろん小林聡美阿部サダヲもいいし、娘さん役の女優さんもいい。観終った後、『ねぽりんぱほりん』で観て気になっていたホストクラブの仕組みを調べたり(「ネオホスト」という新しい言葉を知った)ホスト通いで破産した人のブログを読み、その後明け方まで文字フォントがのっているサイトで美しいフォント(「ぶどう」というフォントが好き)をひとつずつ見ていた。もっとやることはあるのに無駄といえば無駄なことに時間を割いてしまった。結果、寝坊した。

目覚ましを間違って早く設定して二度寝したのも敗因。サイが何度も「おきてよ~!」と起こしてくれたのに起きれなかった。ごめんねと謝って自分の支度をしている間に急いでパンを食べさせる。くるみパンのくるみを嫌がって取り除こうとしたのか数分後戻ると無残な姿になっていた。一瞬もう午前は休んでしまおうかと思ったけど来週休む予定があるので保育園に行った後遅刻しつつも出社した。最近遅刻しすぎでいかんなぁと反省している。タイムカード推し忘れという小細工で乗り切っているが何度もしていては怒られそう。

退社後、高円寺JIROKICHIにて我が民に非ズのライブ。初めて観に行った。想像以上に圧倒された。思うことがたくさんあるので感想を別途書きたい(ここに途中まで書いていたら膨大になった)。町田康さんがやっぱり好きだ。そう確信したライブだった。終演後、数年前の記憶で好きな古着屋を探すが道に迷い辿り着けず。代わりに良さそうな古本屋を見つけて入店。楳図かずおの未読漫画2冊と欲しいが高くて渋っていた『楳図かずお論』を購入。帰り道、うどん屋でかきあげうどん。半熟卵のかきあげが美味しかった。22時半にかきあげを一気に食べたから帰りの電車でお腹が痛くなる。遅い時間帯に調子に乗って飲食してはいけないなと思った。


2月17日(土)
朝。パンとヨーグルト。洗濯。サイがかるたを作って欲しいと言うので画用紙を切ってアンパンマンのキャラクターと頭文字を描いた絵札だけ作る。文字にどんどん興味が出てきたらしい。それから缶ビールを持ってサイと出かける。途中で移動スーパーやコンビニでそれぞれ食べたい物を調達して公園へ。寒いし中の飲食スペースで食べようと思ったらママさんバレーの集団が宴会していてびびって退散。まだ寒いが真冬の頃よりは暖かく外で食べるのも楽しかった。それから公園中を探検家になって走り回るサイに着いて目的もなく走り回った。次第に空が曇って本当に寒くなってきたので帰ろうとすると先ほどのママさんバレー集団が大勢巨大テレビのまわりに集まっていて、スケートっぽい映像が見えた。「あ、フィギア!」と思って全速力で自転車を漕いで帰宅。

テレビをつけたら羽生選手も宇野選手も滑り終わった後でリプレイ映像が流れていた。画面右上に「羽生66年ぶり連覇、宇野銀!」と書かれていたのでそういう結果だと知った。リアルで観たかったなぁ。仕方ない。スポーツが嫌いなのでオリンピックには興味がないがマラソンとフィギアスケートだけは別でいつも楽しみにしている。リプレイ映像で観た羽生選手の表情が忘れられない。羽生選手の精神にいつも驚かされる。全身全霊という言葉がこれほど似合う人はいないのでは。インタビューで「オリンピックに特別な思いはない」と答えた宇野選手もいい選手だなと好感が持てた。サイは最初、両選手の真似をして飛ぶふり等していたが、飽きたのか私が彼らをすごいなぁと褒めるから嫉妬したのか機嫌が悪くなりケーブルテレビにチャンネルを変えられた。どうしようもないので二人で昼寝。

起きたら真っ暗になったので買い物に行く時間がなく、夕食は簡単に済ます。入浴後、就寝。


2月18日(日)
朝。パンとヨーグルト。サイはバナナ。洗濯、掃除。むしゃくしゃした時に何も考えずがーってどんどん要らないものを捨てながら片付けるのが気持ちが良い。部屋も綺麗になるし。完全に綺麗になる一歩手前で疲れて辞めて楳図かずおの短編集『蟲たちの家』を読む。スプラッター的な要素が少ない代わりに人間の感情や欲から生まれる恐怖が描かれていて面白かった。楳図作品は何を読んでも面白い。サイとKは外で食べたので、昼ごはんを食べ損ねる。サイ帰宅後、昼寝。その後、準備してるとあっという間に出発時間になった。サイと駅まで行き、駅でKにサイを預け大森靖子さんのファンクラブイベントへ。

三か月ぶりだったので朝から緊張していた。『裏』や聴いたことのない曲が聴けたのも嬉しかったが、半年ぐらいライブで聴きたいなと思い続けていた『非国民的ヒーロー』を歌ってくれたことが何より嬉しかった。大森さんに小学生というか幼稚園児みたいなプレゼントを渡して言葉を失っていたら「今の髪型似合うね」と褒めてくださり、動揺して狼狽えていたら「いつも可愛いね」って言ってくださって頭が真っ白になった。大森さんこそ可愛い(外ハネの可愛さは異常だった)のに「可愛いですね」って返せなかった自分が嫌になった。返すどころか言いたいことは何も言えなかった。ぼーっとした頭で帰宅しアイスを食べてお風呂に浸かり布団に入った。

小さい頃から不細工と言われて育ったし学校で顔面を揶揄されることもあったから自分のことを「可愛い」と一度も思ったことはないし間違っても思ってはいけないと信じてきた。だから言われるとびっくりするが本当に嬉しい。「きれい」とか「かっこいい」よりずっと特別な言葉。「面白い」も同じぐらい嬉しいけど「可愛い」の絶大さには叶わない。それを好きな人が言ってくれた。サイも言ってくれる。勘違いでも自惚れでも喜びたい。

 

すぐに消えそうにない問題はあるけど水面で魚が跳ねるように嬉しいことがある一週間だった。