カニ日記

息子の成長と日々の記録

猫もきっとぶどうが好き

5月22日(月)晴れ
朝。今日もまたサイが房からぶどうを外してくれた。皮も全部飲み込んでいるようで、お腹に悪いかなと思ったので皮を剥いたら所々きれいに剥ききれていないところがあり、それは嫌がるだろうなと思って私のお皿に入れた。すると自分のぶどうを食べ終えたサイが「ここ、くろいからサイくんたべてあげるね」と私の分も食べたがった。私がパンが焦げた時にサイに言う台詞とそっくりで真似しているのが面白かった。しかも実はぶどうを食べたいがためにそう言っているのがまた面白かった。

昼。高校生が線路に飛び込んで跳ねられたニュースを見た。亡くなった高校生の親の立場になって考えた。もしもこれがサイだったら。自分が高校生の親だったら。もしこの子が人でも音楽でも何でもいい、最後に飛び込むのを引き止められる存在に出会えていたらと思うと胸が苦しくなった。サイには将来、生きがいとなるような何かを持っていてほしい。

夜。大学時代のゼミの恩師と数年ぶりに会った。サイの写真を見せたら「旦那さん似だね」と言われた。私は「相変わらず君はおかしいね」と言われた。長年の付き合いだしそういう人なので特に嫌な気はしなかったが何度も繰り返し言われたので私は本当におかしいのかなと思った。最近、サイといる時や話している時が一番心地いい。意味のない言葉を突然発したり、何も面白いことがないのに突然笑い出す遊びが好きでサイと二人でよくやる。そういうのばかり毎日やっているから傍目から見たらおかしいのかもしれない。
途中、「サイがおしりを掻きすぎておしりから血が出た」とKからLINEと電話があった。

5月23日(火)晴れ
朝。暑くて目が覚めた。夜中は涼しいので窓を閉めているが朝になると暑い。でも窓を開けて外の音でまだ寝ているサイが起きたらそれも大変なので開けたいのを我慢した。寝ている時のサイはセイウチの赤ちゃんみたいだなと最近よく思う。よく食べるのでどっしりしていて、おまけに毎日外で遊んでいるからか日焼けして肌が黒い。
暑い暑いと思っていたらサイが起き、寝起きでいきなり「おとうさん、ぶたにくかいにいったね」と言った。そういえば数日前に晩御飯前にKに頼んで豚肉を買って来てもらった。その時のことかもしれない。過去の記憶が唐突に言語化したり、サイの頭の中は一体どうなっているのだろう。サイといると本当に飽きない。
スイカを食べた。今年もスイカの季節がやってきた。サイの大好物スイカ。サイの分は種を取って小さく切って、自分は皮ごと持って食べていたら「ついてるよ、とってね」と私のスイカの種を指さして心配した。
おしりの傷を確認するのをすっかり忘れていた。

夜。K不在。赤ちゃんの頃は一人だととにかく大変だったけど、2歳すぎたあたりからサイと二人に慣れてきて、夜は二人の方が楽だなと思ってきた。Kは大食漢で普通に作ると足りないと言われるのでいつもかなりの量を作らないといけないし、翌日分や弁当分が余らない。サイと二人だと私もサイとほとんど同じ量(ビール飲むとちょうどいい)しか食べないので作るのも楽。二人の時は洗い物を減らしたくてチャーハンというか、焼き飯が多い。冷蔵庫の中から適当に選んだ具をごはんと一緒に薄味で炒めるワンプレート飯。サイの分を取った後に自分の分にだけ塩胡椒やごま油、茗荷など薬味を追加する。今日はほうれん草と卵とマッシュルーム。肉がなかったのでチーズを入れた。後片付けも簡単でサイとの時間が増えるから機嫌もいい。三人の時の方がぐずるかもと最近気づき始めた。

5月24日(水)曇り
朝。目が覚めた時、サイはまだ寝ていたので一人でこっそりお気に入りのパン屋で買ったピスタチオのクロワッサンを食べようと企んでいたら、サイもすぐ起きた。がーん。私が先に起きると空気で感じ取るのか何なのかわりとすぐにばれる。サイに朝ごはんを食べさせるのは時間が早い(早く食べさせすぎると後でお腹が空く)と思ったので、いつもの時間までしばらく一緒にままごとをした。玩具の箱をテーブルにして、水を入れたコップだけ本物であとは偽物。お皿に果物や野菜を入れてくれた。「にんじんもたべてよ」とまた私の口調を真似て言われた。美味しい美味しいと言って二人で食べた(ふりをした)。その後、本当の朝食を食べた。スイカを切っていたら一切れ皮つきのまま盗んで去って行ったので椅子に座らせたら上手に種を取って食べていた。サイは予想通りピスタチオのクロワッサンを欲しがったが、子どもにはやや高カロリーだったので「これピーマンのってるよ、苦いよ」と嘘をついた。ごめんね。それでも「しろいところをたべるよ」と言ってきたのでスイカの種取りに夢中になっている間に急いで食べた。

今日であの子が殺されてからちょうど20年が経ったことをニュースで知った。一生忘れられないあの恐ろしい事件。記事で読んだ「『生きていれば何歳』とか、そういう考えは浮かばない」という遺族の言葉が忘れられない。ある子どもが殺された事件から今日で何年が経ちましたというニュースを見る度に「生きていれば成人か」などと考えてしまうけれど、遺族にとって「生きていれば」なんてなく、ただ、ある日突然我が子の命が奪われて目の前からいなくなったという事実だけが永久に残り続けるのだなと考えて心苦しくなった。当時中学生だった元犯人は我々と同じように年齢を重ねどこかで暮らしている。美味しい物を食べてテレビを見て笑っているかもしれない。サイが生まれてから、サイがもし誰かに殺されたら、逆に誰かを殺めたら、とよく考える。その時、親である私は何をするのだろうか。生き続けられるだろうか。

夜。みんなまあまあ機嫌がよかった。朝のままごとが楽しかったのか、夜も箱を小さなテーブルに見立てて遊んだ。前から思っていたが、サイは食べる真似が本当に上手い。ままごとの野菜や卵を美味しそうな表情でもぐもぐと咀嚼する(ふりをする)。もしそれだけが求められる仕事があれば即採用されるであろう。口の中に食べ物が入っている感じとかリアリティがあり、本当に食べているように見える。これだけは親の過大評価ではない。あまりにも面白いのでビデオカメラで撮影したらちょっと照れて演技力が落ちた。
寝る前の歌が定番となりつつある。最近はサイが作ったオリジナルの歌を即興で歌ってくれる。毎日の記憶や感情が歌になっているのだろうけど、「おとうさん、スーパーへいったよー」など突拍子もない歌詞だったりするので面白い。でも本来歌ってこういう、日常の延長で生まれたのかもしれないと思った。


5月25日(木)曇り
朝。スイカの種を器用に自分で取って食べていた。2切れも食べた。私が探し物をしていたら時間がなくなりバタバタした。
昼。嫌なことが色々あった。サイは迎えに行くといつも保育園に迎えに行くといつも楽しそうにしているがもう帰りたいと思うぐらい嫌な日もあるのだろうか。

夜。こういう日は肉を食べるに限ると思ってKに提案すると三人で近所の焼肉屋に行くことになった。サイは人生三度目の焼肉だが、二回目までほとんど食べられるものはなかったし忘れているだろうから実質初めてである。肉が運ばれて来る前、サイは燃える炭を見て喜んでいた。網の上で焼かれていく肉をみて「おさかなたべたいーおさかなたべたいー」とずっと言っていた。焼けた肉を冷まし小さくしてお皿に入れると手品みたいにあっという間に食べてしまい、きりなく欲しがった。いつもの外食よりやや高くついたけど肉をお腹いっぱい食べたら満足した。心持ちか心身ともに元気になった気がする。


5月26日(金)雨
朝。寝起き直後、サイはベッドの上で電車ごっこをして遊んでいた。ぬいぐるみを乗客に、布団を車体に見立て「ドアがしまりまーす、ごちゅういくださいー」と言っていた。この台詞は多分、駅でよくエレベーターに乗る時に聞いて覚えたのだろう。朝ごはんの用意をしていたら、時間がないのにパンにアンパンマンを描いてと要求され、「今日はできない、ごめんね。でも明日可愛いの描くからね」と言った。泣いてぐずるかと思いきや納得したようだった。少しずつこちらの気持ちを汲み取れるようになってきたのかもしれない。雨だったので二人ともフル装備で家を出た。送迎タイムの雨は本当に勘弁してほしい。

夜。K不在。サイは適当につくったごはんでも「おいしいね」と言って食べてくれた。救われる。

サイは最近、毎日保育園の校庭に落ちている謎の実(サイはぶどうと呼んでいる)をせっせと拾い集め、近所の「にゃーにゃー」と呼んでいるネコ(おそらく放し飼い)にあげるために手に握りしめたまま持って帰る。もちろんネコは食べないが翌日通ると(多分風で飛ばされて置いた実がなくなっているので)ネコが食べてくれたと思っている。いつも同じ草陰で丸くなっているネコに「にゃーにゃー、ごはんたべたの?」「だいじょうぶ?」などと話しかけているがネコは煩い子どもだなぁという顔で無言でこちらを見ている。一時期犬を見て怖いと逃げていたので、動物に愛着を持つのはいいことだと思う。鳩は好きらしくよく追いかけている。虫を異様に怖がって体に止まろうものなら全身に力を入れて棒立ちになり悲鳴を上げる。正に都会っ子。

5月27日(土)晴れ
朝ごはん食べてサイが録画のアンパンマンを観ている間に洗濯物を畳んだり干したりして、終わったら耳鼻科へ連れて行ってといういつもの土曜日の過ごし方。本当は八丈島へ行きたかったが予算の問題で断念した。とても悔しかったけれど、サイも私も連休からずっと出かけっぱなしの週末だったので体を休ませるという意味ではよかったのかもしれない。耳鼻科に行っていたらお昼の時間が近づいてどうしようかな冷蔵庫に何があったかな、と帰りながら考えていたらサイが「こうえんでたべたい」と言ったので、パン屋とカフェをはしごして美味しそうなパンやサンドイッチを買って帰り道にある公園のベンチで食べた。嬉しそうにしていたが、寄ってきた鳩に怖がって「わるいぴっぴ!」「サイくんのぎゅうにゅうとられるー」と言っていた。牛乳はとらないと思うが確かに寄ってきた鳩は太っていて邪悪な目をしていた。遠くにいてこちらに寄ってこない鳩は痩せていて可愛らしかった。だから私もこの貪欲な鳩にはあげたくないと思って急いで食べた。
美味しかったけど落ち着かないピクニックだった。サイはパン屋で買いたいと言ったミニアンドーナツを嬉しそうに何個も食べ、食べ過ぎるといけないから「あとはお父さんのお土産にする?」と聞くとそうすると大人しく従った。食べた後に公園で走り回って帰宅。

帰宅後、昼寝。外の工事がうるさくていつもより短い昼寝だった。昼寝後、おやつを食べスーパーへ行き帰りに公園へ寄った。サイが生まれる前は公園なんて見向きもしなかったが、何も予定がなく晴れた休みの日は有り余る体力を消耗させるために一日中公園ばかり行っている。なので最近はどこへ行っても公園が気になり、「ここはいい滑り台があるが車道が近くて危ない40点」などと無意識に評価している。公園では最近サイが好きなシャボン玉をした。飽きずにずっとやっていて、上手にできると満足そうだった。シャボン玉の液がなくなると二人で走り回ったり全力でアンパンマンたいそうを踊った(踊らされた)。
晩御飯は春巻きリベンジ。前よりまあまあ美味しくできた。

5月28日(日)晴れ
家族写真を撮りに横浜に出かけた。写真を撮った時、サイはお腹が空いていたのかあまり機嫌がよくなかった。食後の方がよかったかもしれない。
お昼を食べてからアンパンマンミュージアムへ行った。あまり時間がなかったが約束してしまったためチケットは買わず屋外の無料エリアでショーを観覧した。それでも「あんぱんまーん!」と他の子どもと一緒に叫んだり、歌ったり踊ったりして満足したようだった。前も思ったがアンパンマンショーは子どもにとって大人が好きなアーティストのライブに行くようなものなのかもしれない。歓声やどよめき、盛り上がりがライブと変わらない。サイはショーの間ずっと機嫌よくステージを見つめていた。アンパンマンのお店(=物販)で前より欲しがらなくなったのでグッズよりライブ派なのかもしれない。

Kが仕事に行ったので帰りはサイと二人だったがお向かいに座ったマダムと笑い合ったりして機嫌がよかった。最寄駅から家までの道のりも歩いてくれて助かった。「にゃーにゃー」に挨拶して帰宅した。日光に当たり過ぎたからか、家に着くとどっと疲れが押し寄せたのでしばらくサイと一緒に「Mr. BEAN」を観た。サイは「Mr. BEAN」が気に入ったようでものすごい集中して観ていた。台詞がないので子どもにも面白いらしい。色んなものが置いてある部屋が魅力的だったのか「おじさんのおへやにいきたい!」と騒いでいた。ごめん、それは叶えられない。
晩御飯はスーパーで買ってきた焼き鳥と冷蔵庫の野菜で済ませた。アスパラに載せた温泉卵だけ欲しがって目を離した隙に素手で掴んで食べていた。ふざけてフォークとスプーンでビーンの真似をし始めたので悪影響だったかもしれない。