カニ日記

息子の成長と日々の記録

何でも分かってるような顔しないでよ

6月5日(月)
お迎えに行くと空は暗く今にも雨が降り出しそうだったので、どの親御さん達も蜘蛛の子を散らすように大慌てで帰って行き、私も世界が破滅するぞという気持ちで自転車を全力で漕いで帰宅した。「雷さん来ちゃうとおへそ取られるからね、急いで帰るよ」と帰りながら話していたからか、家に着いてから空がゴロゴロ鳴り始めるとサイは雷をものすごく怖がって怯えた表情で私にぴったりくっついて離れなかった。私が夕食を作るためにサイから離れると同じ表情でネコの巨大ぬいぐるみをずっと抱きしめていた。まもなく雷は落ち着いた。

夕食後、妹におめでとうを伝えるために実家にテレビ電話をした。妹が帰宅する前は練習で母相手にハッピバースデーの歌を自信あり気に歌っていたのだが、妹本人が帰宅していざ歌うとなると恥ずかしがって声は小さいし私の膝に顔を埋めて最後まで歌いきらなかった。人見知りとも違う、「恥ずかしい、照れ臭い」という感情が芽生えたようで微笑ましい。
保育園で誕生日の子がいる日は偽のケーキ(知り合いの子が通っている資金がある園ではちゃんと本物が出てくるらしい)を囲んで歌を歌い、偽のろうそくを吹き消して毎回お祝いしているものだから、誕生日=ケーキという図式が頭の中にあるらしく、「サイくんもケーキたべたいー!」と騒いでいた。「サイくんの誕生日はまだだよ」と言っても誕生日が生まれた日であることすら知らない彼に誕生日が一年に一回しかないのを理解させるのは難しく、不服そうだった。いっそのこと『不思議の国のアリス』に出てくる「何でもない日おめでとう」の歌でも歌おうか。英国BBCミュージカル版のアリスが大好きで小さい頃VHSが擦り切れるほど観た。DVDに変換したくて実家から持って来てはいる。最高に面白いのでサイに観せてみよう。

6月6日(火)
朝。少し肌寒い。アンパンマンのTシャツを着たいと騒いだが半袖だったので、長袖を着るよう説得するのが大変だった。キャラものの洋服には手を出さないと決めていたが、やなせ先生の絵ならいいかと思って買ったらサイは予想以上に気に入っている。あとは父がめちゃくちゃ趣味の悪いアンパンマンの派手なTシャツを送ってきて「げっ」と思ったがサイは相当気に入っている。そうやって着せるものはだんだんどうでもよくなる。

夜。町田康さんの新著サイン会。サイと同じくらいの子どもを連れた人もいた。優しさとこちらの内面を見通すような力強さを併せ持つ眼差しにいつも卒倒しそうになる。男の人に対して「この人カッコいい!きゃー」などと思うことはあまりないのだが、この方だけは例外で兎に角格好良い。ベテランになってもずっと変わらない態度。町田さんの書く字が好きなので見惚れるように筆の運びを眺めていた。新刊の『ホサナ』は分厚くてまだ読み始めたところなので感想が言えなかった。(子育てと関係ない話をつい長々書いてしまった)

帰宅するとサイはちょうどお風呂から上がったところで、機嫌がよかった。髪を乾かしていつものようにベッドで一緒に歌いながら寝た。「さくらんぼパイ」の歌が最近お気に入りらしい。

6月7日(水)
朝。久々に休みのKがいたので助かった。サイを任せていつもより10分ぐらい長く寝てから起きて台所へ行くとKは私のお弁当を作ってくれていた。家が汚なすぎると言われた。蕎麦屋の出前のように「今日片付けるからさ」と言い訳した。私が昨日買った可愛い兵隊の形をしたパンを箱から出すとサイは大喜びだった。口がなかったので「おくちがないねぇ」と覗き込んで言っていた。私が目を離した隙に人形の頭は鮫に喰いちぎられたようになっていた。サイはそれからお土産の鮎焼きもKと半分ずつ食べた。「お魚だよ~」と言っても形に興味を示さず食らいついていた。中に入った求肥餅を勘違いして、「チーズがはいっているねぇ」と嬉しそうにしていた。Kがいるとサイは出かける前もぐずることなく機嫌がいい。アンパンマンを歌いながら踊っていた。最近はお気に入りのメロンパンナのぬいぐるみを必ず連れて登園する。いつもクラスの入り口で別れ際に私とハイタッチをするが、今日は(私が動かした)メロンパンナともしていた。
夜。帰ったら余りの汚さを見兼ねてKが掃除してくれたらしく部屋がきれいになっていた。サイはいつも以上の食欲であっという間に自分の分を食べ終えるとKの皿から素手で鷲掴みにしていた。私の皿からはしなかった。炒め物にサイの大好物のソーセージが入っていて、それをもっと欲しがるのを分かっていたので私は危機を感じ、自分の皿のソーセージだけ先に急いで食べたから私の皿はサイの関心対象から外れていたのだと思う。サイはソーセージをなぜか「ポッテト」と呼ぶ。「ポテットほしいーー!」と絶叫していた。ポテトのことも「ポテット」と呼ぶ。

6月8日(木)
午後から保育園の懇談会だったが半休では開始時間に間に合あわないので一日休みを取った。朝いつもの時間にサイを保育園に送ってから急いで電車に飛び乗り映画館に向かった。数時間一人になる時間ができたら映画や美術館に行くことが多い。そんな時しか行けないから。BABEL展と迷って、BEAMSでチラシをもらって気になっていたマイク・ミルズの「20センチュリー・ウーマン」という映画を観た。マイク・ミルズだし(偏見)、BEAMSが映画とコラボしてTシャツやバッグを販売していたので絵になるおしゃれ系映画かなと最初は感じていたのだが、チラシを読んだら俄然興味が湧き、調べたら朝の上映があるのを知ってこれは行くしかないと思った。
平日朝イチの映画館はほとんど人がおらず貸切状態だった。14歳の少年と母親含む彼を取り巻く三人の女性を中心としたひと夏の物語。確かに映像は綺麗で光の取り入れ方とかうっとりするぐらい美しかったが、何より出てくる俳優が全員魅力的で素晴らしかった。特に主人公ドロシアが息子に「何でも分かってるような顔しないでよ」と言われた時の顔が好きだ。母子が互いに距離感を計ろうとする姿に無意識のうちにサイと自分を重ね合せて観ていた。アメリカの時代背景もきちんと描かれていて音楽の使われ方もよかった。はっきりとした結論や分かり易い主張があるわけではないのに観終わった後、自分の中に蟠っていたどろどろした感情がすぅーと溶けていき、胸がストンとした。今何かに対してモヤモヤしている人は何も考えずこの映画を観てほしい、そんな映画だった。後から見たレビューで「ドラマ性に乏しい、退屈」と低く評価している人がいたがドラマ性がないのがいいところなのになと思った。あと、エル・ファニングが何から何まで可愛すぎて惚れた。好きなシーンや台詞がいっぱいあったのでDVDが出たら何度も観てみたい。「この世界の片隅に」と全然話は違うのに、あの映画を観た時と似たような感情が湧いた。自分が今まで生きてきたことについて、これから死ぬまでの人生について考えてしまった。
映画の世界にひきずられながらラーメンを食べて保育園に向かった。

懇談会では、冒頭に子ども不在の中、親だけで「きゃべつのなかから青虫でったよ~」を振りつけ付で繰り返し歌わされた(最初はうっと思ったけど途中からどうでもよくなり同調した)後、園での普段の様子をスライドショーで見せてもらった。数々の遊びや運動に勤しむサイの姿を観て、家にいる時よりも充実している感じがした。サイくんは男子用トイレで立ったままトイレができると先生から褒められ、知らなかったので驚いた。保育園ってすごい。自己紹介を経てそれぞれ自分の子の悩みを発表し先生や他のお母さんがそれにコメントした。トイレトレーニングとイヤイヤ期の話が多かった。他のお母さんの話を聞いているとサイはまだ大人しい方なのかもしれないと思った。終了後、サイが仲の良い男の子Uくんと一緒に近所の公園に行き、ビスコを食べたり(その前に保育園でもおやつを食べていた)鳩を追いかけて走り回ったり落ち葉でお店屋さんごっこをした。二人は生後半年頃から同じクラスで玩具を奪い合ったりしていたのでそれを思い出すとしみじみした。保育園のお母さん達は皆忙しそうなので今まで遊びやお出かけに誘ったことがなく、Uくんとも初めて遊んだけどサイが本当に楽しそうだったのでまた遊んでくれたらいいなと思った。帰りにスーパーに行くと二人が試食を勝手に食べたり走り回ったりして大変だった。
Uくんに会って触発されたのか、夜は久々にあまのじゃく先生登場。

6月9日(金)
朝。サイはヨーグルトを容器のまま食べたがるが1個だと多いので、半分私のお皿に移してから渡すと減らされたことに怒って「もうたべない!」と言い始めた。あー、またかと思って「じゃ、お母さん先に食べるね」と一人で食べていたら「ちょっとだけたべるよ」とやって来て、座らせると普通に食べ始めた。前にもこんなことがあったけど可笑しい。

夜。K不在。支払があったのでコンビニに寄ったらいつも買うアンパンマングミが売っておらず、ゼリーを欲しがって、でもやっぱりプリンにするとゴタゴタして帰りが遅くなった。冷凍していたパスタがあったので助かった。実家にテレビ電話。サイが実家の家族と話している間に洗い物・お風呂の準備など。いつものように歌を歌いながら入眠。数日前から「あんまり冷たくしないでね、サイダ~」という謎の歌を振りつけ歌をよく歌っている。親バカだがそれを歌う時のサイはめちゃくちゃ可愛い。

6月10日(土)
朝。すてきな人と一緒に出掛けた。私の周りには子どものいない知り合いしかほとんどいないので、気が付くと子ども連れでも嫌な顔をしない人とばかり遊んでいる。この人、あまり子ども好きそうじゃないなと思うと悪いような気がして疎遠になってしまう。かくいう私も自分や友人の子はもちろん可愛いと思うが元々子ども自体あまり好きではなかった。
友人がいて興奮状態だったらしく、レストランで椅子を蹴ったり大声を出して落ち着きがなかった。こういう時の叱り方がまだ分からない。怒ると余計に泣いて絶叫する。サイの大好物である海老が入ったメニューを頼んだら案の定海老ばかり欲しがった。いつもこのレストランでは出際に籠を持ったお姉さんが来て籠から好きな玩具を一つくれるのでサイはそれを覚えていて出口に向かいながら大声で「おもちゃもらえる」などと言って恥ずかしかった。声を聴いたのかお姉さんが出口で籠を持って待っていた。サイはいつも欲しい玩具を即決するのに欲しいものがなかったのか迷いに迷っておもちゃのカメラを選んだ。それを予想以上に気に入り、その後行ったデパートの屋上で「はいちーず!かしゃ!」とカメラの音声まで自分で言いながらずっと私と友人を撮影していた。どこかでカメラをなくしてから眠気も伴い機嫌が悪くなった。サイが昼寝している間にアイスを食べようと思ったら店に着いた途端タイミングよく起きたのでサイと争うようにアイスを食べた。サイはアイスが大好きで見ると目の色が変わる。私もサイと同じくらいの頃、アイスが大好物だったと母親から聞いた。帰宅後、カメラは私のカバンから見つかった。一緒に探してくれた友人に申し訳ないことをしたと思っている。
夜はバジルが大量にあったのでガパオライス。サイはバジル抜き薄味。まあまあ美味しくできた。


6月11日(日)
朝。Kにサイを外に連れて行ってもらい、その間に私は掃除洗濯等済ませて後から公園で合流して皆でピクニックする予定だった。ピクニックに持って行く弁当が暑さで傷むと困るからと途中で一回Kとサイが帰宅した。サイは新しいホームセンターに連れて行ってもらったらしく、風船をもらって機嫌がよかった。再び二人は公園へ出かけて行った。Kから「公園に◎◎ちゃんとお母さんがいたよ」とLINEが来た。◎◎ちゃんは同じクラスの女の子ですごくしっかりして可愛らしい。保育園で会う度に「あ、サイくんのおかあさんだ!」と言ってくれる。お母さんも美人で服装もきっちりした方で◎◎ちゃんに教育や躾がきちんと行き届いている感じがする。優しくて感じの良い方なのに私はいつも無意識のうちにこの親子と距離を置こうとしてしまう。この親子がいると聞いただけでろくに化粧もせずに外出しようとしていた私は会うのが億劫になり出かける準備ができなくなってしまった。ピクニック辞めて家で食べないかと提案するとサイがこんなに楽しみにしているのに、とKに怒られたので最低限の化粧をして弁当とシートを持って出かけた。Kは私に気を遣ったのか人がいつもと違うほとんどいない場所にシートを敷いた。周りに人が少なかったので鳩が集まってきた。私はKが買ってきた弁当を食べる気がせず公園の売店で買ったたこ焼きをつまんだら後でお腹を壊した。◎◎ちゃん親子には会わなかった。帰宅後昼寝。Kは仕事。

昼寝後、サイと二人でスーパーに行った。アンパンマングミが欲しいというので持たせたら「いらない(別のお菓子がいい)」と泣き喚いた。別のお菓子はサイにはまだ早いお菓子だったのでこれはダメと言うとわんわん泣いた。冷凍コーナーのアンパンマンポテトの前を素通りしたら更に火がついたように泣き喚いた。店内の人が皆こちらを見ていたが、こういう時はどうしようもないので何もせずとにかくレジを済ませて出ようと思っていたらおばあさんが寄ってきてサイに向かって「どうしたの?なんで泣いてるの?お店の中では泣いちゃダメなんだよ」とやや怒りながら言った。サイは一瞬静かになり怯えた顔でおばあさんを見て更に泣いた。おばあさんは煩い子を親が放置している、私が何とかせねばと思ったのだろう。私の方は一切見ていなかった。それが私はすごい嫌だった。悪いのは分かっているし申し訳ないと思っている、でもこちらにも理由があるから直接サイに言うのは辞めて欲しい。これ以上騒がれては困るとすがるような思いで陳列棚を見るとアンパンマンのチーズがあり、買いたくなかったがこれで泣き止むならと咄嗟に掴んで持たせたらあんなに何をしても泣き続けていたサイは嘘のようにぴたっと泣き止んだ。笑ってさえいた。子どもの感情は単純で複雑だ。おばあさんの一言で自分の子育てが全否定された気がして減った鬱がまた一気に元に戻った。
帰りに暗くなるまでサイと走り回って遊んだ後帰宅して夕飯を作り始めたら、Kに最近夕食が遅いと文句を言われた。お腹の調子はまだ悪い。