カニ日記

日記のような記録

くじらのお化けはお姫さまを食べようとして石にされ空に上がった

1月10日(火)曇り
朝。サイはみかんを2個食べた。バタバタで出発。シーツつけで電車乗り遅れる。やる気ないなぁと思っていたらいつもお菓子やパンをくれる慈悲にあふれた社員さんから可愛い犬のパンをもらった。お昼はパン美人と食べた。正月に買ったパン美人の好きな煎餅をあげたら喜んでくれた。「勝手にふるえてろ」を勧めた。言われて気付いたが、パン美人は松岡茉優に似ている。似てる似てる、と言うとうみさんはメーテルに似ているねと言われた。全く似ていないし全999ファンに袋叩きに合うだろう。

夜。部署の新年会。私の所属している部署が春に今の勤務地から別の場所に移動する噂とのこと。今より家から遠くなる。保育園送迎など時間ぎりぎりの生活をしているので春からのことを考えると不安になった。やっていけるのだろうか、いっそ転職した方がいいのでは。と考えていたらそれがそのまま声に出てしまって不穏な空気を生み出してしまった。嗚呼。まあ甘いものでも食べなよと部長に言われてみんなでアイスを食べて解散した。コーンをなかなか食べないから一緒に食べた方がいいよと部長に何度も言われたが私はアイスが少なくなるまでコーンに手を出さない派だ。新年会が長引いたせいで先週から楽しみにしていた大森さんがゲスト出演するNHKFMラジオを聴き逃した。


1月11日(水)快晴
なかなか布団から出られず寝坊。サイもなかなか起きなかった。サイと犬のパンを食べた。美味しかった。

昨日新年会で転職したいとつい言ったばかりに午前中上司に呼び出される。上層部が信頼できない会社に期待が持てないこと、給与減によりモチベーションが一気に下がったこと、など今思っている気持ちを正直に話した。上司は上司で会社に対して感じる違和感や考えを私に話した。それから人生相談会みたいになった。子どもがいるって羨ましいと言われた。結局何か仕事以外で好きなこと大事なことを一つでも持っていることが前を向くことに繋がるよね、という話になった。だとしたら私はサイと大森さんかなと心の中で考えた。

昼休み、外でうどんでも食べようかとフラフラしてたら別のフロアの、サイと同じくらいの歳の子を持つ女性社員さんに偶然会った。歩きながら何となく話しているうちに一緒に昼食を食べることになった。お互い胃腸の調子が万全でないので新しくできた定食屋さんで生姜挽肉豆乳鍋を食べた。境遇が私に似ていて抱えている問題をよく理解してくれて救われるような思いだった。慰めはいらない。解決策がほしい。とりあえず、サイズアウトした子ども服や使わなくなった玩具をフリマサイトに出品すれば前向きになれるよとアドバイスしてもらった。何だそれと思う人もいるかもしれないがそうなのだ。結局要らないものが多すぎる。少額とはいえ要らないものを売って得たお金は貯金したり好きなことに遣ったりできる。それが問題解決への糸口にもなる。フリマサイトにはあまり良い印象はないので使ったことはないけれど使い方次第だと思うので調べてみたい。

お迎え。朝と同じように歌いながら帰ろうと思ったら「かえりはうたわないで」とサイに制止される。帰りは歌うような気分じゃないらしい。「あさだけね」と言われる。失敬。疲れていたのでコンビニで夕食を調達した。「はちまき!はちまき!」と騒ぐから何かと思ったら「春巻き」のことだった。「春巻きって言うんだよ」と教えると「ちがうよ、はちまきだよ!」と返って来た。まあいいか。サイが胸に抱えて持ち帰った春巻きは思ったのと違ったらしく、また筍が嫌だったらしく解体しただけで結局私が食べた。夕食後、入浴。サイは突然自分で身体と頭を洗いたいと言い出しポンプの押し方を教えると真似をして出して洗い始めた。ちょっと手伝ったが上手にできていた。すごい、偉い、もうお兄ちゃんだねと褒めたら喜んでいた。入浴後も一人でパジャマに着替えてオムツでなくトレパンを履いた。急にどうしたのだろう。いただいた大量のアンパンマンDVDのうち一枚に私が昔好きだった「アンパンマンとバレンタインデー」(あとで調べたら1990年の放送!)が収録されていることが分かり嬉しくなり、それを二人で観てから就寝。

今日一日、自分の性格について考えていた。この酷いほどの自己卑下は幼少期の経験によるものなのかどうか、とか。とにかく小さい頃から何かして両親に褒められた記憶があまりない。だからという訳ではないが、サイにはとにかくなんでも大げさなくらい褒めるようにしている。椅子の上でくねくね踊ったら最高(危ないけど)、変顔したら大笑い、自作の歌を歌ったら天才、絵を描いたら上手、とにかく毎日過剰に褒めて褒めまくっている。嘘じゃないから。本当にすごいと思っている。それで大人になって自分がすごくも何ともなく無能だと気づいて悩んだところで問題あるだろうか、その時はその時だ。


1月12日(木)快晴
珍しく朝まで眠れたのたので頭がすっきりした。また「生きてるパンをつくろう」を二人で熱唱しながら保育園に向かっていると道を歩いていた老夫婦に笑われてちょっと恥ずかしかった。「なんでわらったのかな」とサイは不思議そうにしていた。この歌の「死んでしまう」というフレーズが好きで、最後は三回繰り返される。MVになるとジャムおじさんとバタコさんが「しーんでしまうーー!」と明るい表情で歌い上げる。去年10月に放送された30周年記念回「アンパンマンとどろんこ魔王」にもこの曲が挿入されていたが「死んでしまう」という歌詞は放送倫理上の理由なのか全く別の言葉にすり替えられていた。とても悲しかった。

お昼。訳あってパン美人が作ってくれたサンドイッチを食べた。めちゃくちゃ美味しかった。レンコンにバルサミコと柚子が和えてあったり(あまりに美味しいので何の味か聞いた)、ひと手間が加えられていてまるでお店のサンドイッチのようだった。というかどこかで食べたのより美味しかった。パン美人に仕事を辞めてサンドイッチ屋さんになった方がよいと勧めた。パン美人の話を聞いていると大変なのは自分だけではないなという気持ちになった。

夕方、スーパーで買い物をして帰る。苺味のアルフォートを買った。ピンク色で可愛い。この時期、ピンク色のお菓子が並び始めるから嬉しい。春だ。夕食は冷蔵庫に残っていた豆腐(一応水切りした)に茹でたほうれん草、餅(鏡餅を薄く切ったもの)、カマンベールチーズを耐熱皿に放り込んで牛乳で溶いたパスタ用のたらこソースをかけて焼いたもの。何も見ずに適当に作ったがびっくりするくらい美味しかった。カロリーさえ気にしなければ牛乳を生クリームにしたらもっと美味しいかもしれない。入浴後、就寝。サイは眠る前いつもよりぐずってちょっとしんどかった。


1月13日(金)快晴
サイは最近私より起きるのが遅い。日が差さないと起きない。電気がなかった古代の人はきっとそうだったと思うし、それが生き物のリズムとして真っ当な気がする。私は太陽に関係なくアラームなしで大体いつも同じ時間に起きれるようになった。老化だろうか。起きたら始業時間だった入社当時が懐かしい。とはいえ、寒くて布団から出られないでいたら二度寝したりしてしまうので意味がない。出社した瞬間、あー今日は無理だと思った。風邪をひいている分けではないのにしんどくて無理だった。それで体調不良を理由に午後から早退した。「体調不良」とか「私用のため」とか安直に遣い過ぎているなとは思う。

なんとなく家に帰らず、サンシャインまで行きプラネタリウムに行った。こちらの席がお勧めです、と言われるがまま窓口のお姉さんに選んでもらった席に行くとカップル達がたくさんいてうっとなった。私がシートの背もたれを倒すのに手間取っていたら隣のカップルの女の人が教えてくれた。たまたま観た回が「ヒーリング」と銘打ったものだったためか癒し効果を狙ったアロマ的な香りが上映中ずっと漂っていた。序盤から「癒されますね」「気持ちがいいですね」などキーワードがナレーションの随所に挟み込まれ、「お前は癒されたいんだろう?どうだ?」と言われている感じもしたが言葉は別として実際心地よかった。寝たらもったいないと思ったが、四季の星座の紹介があった後CGで壮大な自然風景が映し出されて相変わらずぼそぼそとした声で自然の歴史を説明するくだりになると次第に眠くなってきて半分夢の中だった。気が付いた時には終わっていた。リクライニングの仕方を教えてくれた隣のカップルの女の子が恋人に「も~寝てたの?」と言い恋人は「うん途中ちょっとだけ・・いや起きてたよ」と答えていた。私にもかつてそんな会話をする時期があったのだろうか。くじら座という星座があることを今回初めて知った。でも普通の鯨の姿ではなく怪物のようだった。後で調べたらやはり神話上の海の化け物らしい。私はおそらく星自体より、星座のモチーフや神話が好きなのかもしれない。子ども向けでいいから星座にまつわる神話が書かれた本があれば読んでみたい。

下まで降りると小腹が空いたので目についたディッパーダンでバナナチョコアイスのクレープを食べた。ディッパーダンには幼少期の記憶がつきまとう。ダイエーのフードコートにあったけどそれなりの値段がするので毎回は食べさせてもらえなかった。だからたまに買ってもらうと嬉しかった。丸い鉄板の上に窓ふきワイパーみたいな棒でくるっと広げられクレープの皮が湯気を立てて焼かれていくのを眺めるのが好きだった。おかず系とか色々あるけど毎回チョコバナナを選んでいた気がする。最初にアイスを食べてしまい最後の方は安っぽいバナナの味と生クリームの味しかしなくなるところも昔と全然変わっていなかった。ディッパーダンがこの先もずっとこのままでありますように。

何事もなかったような顔で帰宅し夕食を作って食べた。寒かったのでベーコンと野菜の洋風煮込みうどん。食が進んでいないとKに「何食べたの?」と聞かれたがプラネタリウムを観てクレープを食べたことは言わなかった。サイと入浴後、就寝。


1月14日(土)快晴
朝からサイと友達親子と上野動物園へ行った。サイはお昼ご飯を食べている時はテンションがおかしかったが、動物園の中に入ると興味深々で柵の側に寄って動物を観察していた。子ども向けに見易いようにされている小動物や鳥類をすごいとか可愛いとか何も言わずただ黙ってじっと見ていた。サイの好きなペンギンがいたから「ペンギンいたよ」と言うとなぜかその横にあったペンギンの人形のところに駆け寄って行った。実物のペンギンは少し見たあともう見るのを辞めてしまった。想像と違って怖かったのだろうか。寒くて室内にいるキリンやカバを裏側から見た。サイはカバのおしり!とか臭い!とか大きな声で子どもらしいコメントしていた。私は一番好きなキリンに会えて嬉しかった。その後、熱帯生物の建物に入った。中は暖かくて湿度が高くむっとしていた。ああ夏ってこんな感じだったなと思い出した。サイは魚や爬虫類をやはり興味津々で見ていた。目を開けたまま微動だにしない鰐を見てサイは私に「しんでるよ!」と教えてくれた。「死んでないよ、寝てるだけだよ」と言っても「しんでる!しんでる!」と鰐は死の宣告を受け続けた。最後にサイが前日から見たいと言っていたライオンを見に行ったがライオンがいるはずの自然を模したスペースには何もいなかった。鎖に繋がれた血のついた巨大な骨が転がっていてそこに小さな鳥たちが集まっているだけだった。サイは残念そうにしつつ、途中の売店で見たアイスが食べたいと騒ぎ出した。もう動物とかどうでもいいという感じだった。正直でよい。
それまでにおやつやフランクフルトを食べさせていたのでアイスの件はごまかしつつ動物園を出て、駅で友達と別れてからパンダのお弁当を買って帰った。今回ベビーカーで行かなかったからたくさん歩いて私もサイもくたくたに疲れたけどとても楽しかった。お天気もよかったし。最寄駅に着いたら空が暗くなり始めていて、サイと家までとぼとぼ歩いていると長旅から帰って来た気分だった。歩きながら「ライオンさんいなかったね」「残念だったね、また行こうよ」「うん」という会話をした。お弁当を食べた後、二人で熱い湯に入っていつもより早めに布団に入った。サイは眠る前にペンギンや虎のぬいぐるみに「(きみたちの)おかあさんいたからね」と報告していた。


1月15日(日)快晴
いつも日曜日が来るのが怖い。午前、数々の憂鬱。午後、我慢できなくなって逃避。「化粧品を買いに行く」という名目は何かが無くなったり使い切ったまま生活するのが許せない人には効果があるらしい。電車に乗りながら自分の選んだ人生について考えて暗くなった。お気に入りの場所でビールを飲んだ後、こういう時はお花を買おうと思って花屋に寄ってピンクと黄色と水色のスイトピーを買ってから帰った。化粧品は買わなかった。帰宅して早速飾ると少しだけ心が晴れた。サイは「どこでおはなかってきたのー?」と興味津々だった。夕食は適当に作った炒めものと味噌汁。入浴後、就寝。

どうにもこうにもならないけど出口へ繋がるドアを見つけない限り始まらない。たしか、「不思議の国のアリス」でアリスは突然現れたケーキを食べて巨大化し、その身体ではもう通ることのできない小さなドアの隙間から見える外の世界を見てしくしく泣いた。それと似たような気持ち。流した涙は溜まりやがて海になりアリスは外に泳ぎ出ることができた。私は泣いたところでどうしようもない。