カニ日記

息子の成長と日々の記録

カレーを作る度にいずみちゃんを思い出すだろう

眠る前は一日の疲れがピークに達しているので毎日日記をつけるのが思いの他難しい。あれもこれも書き留めていたいことはあるのだが。もうすぐ4歳になるサイの言動が本当に面白い。意表を突くような語彙やフレーズを突然言うので笑いが絶えない。サイが最近好きなフレーズは「どんどん大人になる」。「サイくんどんどんおとなになってるからね!」と度々言っては自分の身長が伸びたことを私に確認させ、もう赤ちゃんでないことをやたらとアピールをする。そして半年前や去年の記憶を回想する時に「あかちゃんのとき」と言う。「あかちゃんのときこれかいたんだよね」「あかちゃんのときあそこいったよね」など。まだまだ子どもなのに、今はすっかり大人に近づいていると思い込んでいるところが可愛くて笑ってしまう。でも確かに成長している。知ってるよ。

 

 

9月14日(金)

有給を取り横浜美術館まで行き、モネの絵と海を見た。小雨だったのでどんより曇ったグレーの空だったが、ずっと向こうまで広がる海を見ると心が晴れた。幼少期から海が見える環境で育ってきたからか、定期的に海を見ないと気が滅入る。そこが東京が今も好きになれない理由の一つだ。横浜はいい。千葉もいいかもしれない。とにかく海か川か何かしらの水がないと息ができなくなる。魚か。

 

モネの絵はこれまで何度か観たことがあったが展覧会で初期の作品から追って観たのは初めてだった。モネは好きな画家の一人だ。一番好きなのはルノワールだが私は印象派が好きらしい。絵画の専門的な知識はないので、色同士が光を含み曖昧に混ざり合う感じが単純にいいなと思う。モネの作品自体の展示点数は多くないものの、別々の年代にか描かれた絵は目の前に立ってじっと向き合うと胸の奥に迫ってくるものがあった。いつもそこまで意識しないが、作品の解説に書かれた制作年からモネがそれを描いた時に何歳だったか計算しながら観るようにしたら、あぁこの時今の私と同じくらいだな、あぁこの時は晩年か、などと後で年表で見たモネの人生を自分も辿っているような気になった。最近インスタントに共感したり感動できるものが世に溢れ無意識のうちに五感が鈍っていたが、こういう展示に足を運んで自分の眼で観なければ絶対に得られない感情があることに気付いた。夕方お迎え。久々にリフレッシュできた。私にはこういう日が必要だ。

  

9月16日(日)

サイとHさんと三人で川崎のドラえもんミュージアムに行った。半年前に「行きたいね」と約束してから伸ばし伸ばしになっていたが、ようやく実現した。時間が経っても約束を守ろうとしてくれる人が私は好きだ。ほぼ初めてのHさんにサイは最初緊張していたがHさんが目線を合わせて話しかけてくれたり笑いかけてくれたおかげですぐに心を開いた。ドラえもんミュージアムへは5年前に一度行った以来。その時サイはまだ生まれていなかった。前回と同じように駅からめちゃくちゃかわいい藤子仕様のラッピングバスに乗ってミュージアムに向かった。サイの推し(?)のエスパー麻美のバスが来てテンションあがる私とサイ。麻美かわいい。

 

サイは展示コーナーに入る前に貸してもらった電話のような子ども用の音声案内に夢中だった。原画に合わせた立体的な人形が子どもでも見易い低い位置のガラスケースに入っていて、サイはそれを夢中で覗いていた。子連れあるあるだが、順路の途中でサイが急にトイレに行きたくなったりして、ゆっくりは見れなかったがHさんは微塵にもイライラした素振りを見せずなんてすばらしい人なんだろうと感動していた。5年前は気付かなかったが、サイと一緒に行くとミュージアムが子どもにとても配慮した場所であることが分かった。その立場になってみて初めて見えることは案外多い。川崎市の支援があるのか、完全バリアフリーで子ども用トイレもあり掃除が行き届いていて設備がとても綺麗で気持ち良かった。こういう部分は案外子連れで出かける時に重要だ。子ども向けを謳っている施設でもトイレなど細かな部分が使いにくい場所はたくさんあるので、ドラえもんミュージアムみたいな場所が今後もっと増えていくといいなと感じていた。しかも某ミュージアムと比べると入場料が安すぎる。それでこの綺麗さ。やっぱり川崎市が絡んでいるのかな。

 

展示をさっと観終えて屋外のドラえもんの人形やどこでもドアや土管が置かれて自由に遊べるエリアに出るとサイはやっと出番が来たという感じでぐるぐると全力で走り回っていた。5年前に妹と来た時に恐竜にまたがったのび太ドラえもんの人形の前に立って撮ったので、今度は同じ場所でサイと並んで撮ろうと思ったらサイは落ち着きなく走り去ったので仕方なく一人でそこへ立ち、Hさんに撮ってもらった。帰って5年前の写真と見比べてみたら老けてはいたが5年前と表情が同じだった。サイははしゃぎすぎて派手にこけて肘をまあまあ深く擦りむいた。最近はあまりこけることはないので余程興奮状態だったのかもしれない。痛い痛いとテンション急降下するサイに声をかけていたらスタッフのお姉さんがどこからかやって来て、消毒したり絆創膏を貼って処置してくれた。なんという。そして痛かったけどがんばったね、とドラえもんのシールをくれた。感動した。カフェも待ち時間は別の場所で過ごして順番が来たら登録した番号に電話がかかってくるシステムで、ぐずる子どもを宥めて店の前で待つ必要もない。なんというストレスフリーな場所!しかも楽しい!カフェの飲み物は可愛かったし空間広めでゆっくり休むことができた。怪我して凹んでいたサイも元気を取り戻す。

 

面白かったのがHさんが藤子に関してはまあまあオタクだと思っていた私よりずっと藤子オタクで、私の知らないマイナーなキャラクターや話を教えてくれたのが楽しかった。Hさんはスタイルがよくてめちゃくちゃ仕事ができそうな美人なのに中身がすごいオタクなので大好きだ。好きなものが似ているというか、共通の好きなものが多い気がする。いつも穏やかで優しくてすーと流れる小川みたいな人だ。こんな人と結婚したい!といつも思うので旦那さんが羨ましい。売店に売っていた頭につけるタケコプターが欲しいと騒ぐサイを何とかごまかして宥めてミュージアムを出た。駅までバスがあるのもありがたい。まだ少し時間があったので、その足で上野に向かった。サイは電車の中で俺の家に来ないか、おもちゃがいっぱいあるよなどどHさんを口説いていた。大人の女性をプラレールや絵本で落とそうとしているのが面白すぎて笑った。

 

ポエトリカルジャムという詩の朗読イベントが上野水上公園で観覧無料で行われていて、我が敬愛する町田康さんが初めて出演されるというのでどうしても見たかった。Hさんの旦那さんも朝から行っているというので私達も行くことに。こういうイベントは初めてだったが言葉が次々に飛んでくる感じで歌のライブとはまた違って新鮮だった。町田さんはトリなのでサイがそれまで待てないと思い、時間を潰すために一旦退場した。晩御飯を食べられて入り易そうなお店がなかったので(居酒屋の勧誘がしつこくてHさんと二人でうんざりした、初対面なのに距離感を考えず踏み込んでくる男は怖い)、スーパーで適当に買って会場前で食べることにした。サイはピクニックと喜んでいた。

 

お酒(サイはジュース)と割引になったお惣菜を買って会場すぐ側の池の前に腰かけた。すっかり日が落ちた空にぼんやり光る蓮がずっと奥まで広がっていて、この世じゃないみたいだった。私はこういう外の何でもない場所で飲むお酒が大好きだ。Hさんがそれが好きな人でよかったなと考えていた。サイはHさんと一緒に蓮の池に枝を投げたり、レンジャーになりきって台詞を叫び続けたり、元気が有り余っていた。私はそんな光景を見ながら今日は良い日だったなと思いながらビールをちびちび飲んでいだ。再入場すると町田さんが始まる前にサイは寝てしまった。町田さんは石牟礼道子さんの詩を静かに朗読された。一日の疲れがすーっと浄化されていくような素晴らしい朗読だった。終演までいて電車に乗って帰宅。サイはその間も寝ていたので駅から抱えて歩かねばならぬ、なかなかきつかったがゆっくり歩いた。こんな時誰かいればな、と少し思った。帰宅後サイを何とかお風呂に入れすぐに寝かした。少し遅くなったけど楽しかったね、Hさんありがとう。

 

9月17日(月)

朝から雨。一日ルパパトやプリキュアを観てゆっくり過ごした。夕方になってスーパーに行って出たところでゲリラ豪雨。少しの距離だったがレインコートも意味ないぐらい全身びしょ濡れになった。帰って少し経つと止んだ。そういうものだ。夏の終わりだ。

  

9月18日(火)

大好きな人の誕生日。しかし去年に続き私はお祝いに行けなかった。いつも通りの火曜日。朝からどんよりと気分が重かった。退社後、駅に着いて自転車を漕いでいたらぽつぽつ雨が降り出し、保育園に着いた頃にはざあざあ降りの大雨に。昨日より激しい。レインコートも傘もなかったのでしばらく保育園で待った。他の親子も待っていた。だが一向に止まない。園庭の土が波打つほど激しく雨が降る中、帰れず何組もの親と子が入口に増えて行く。連休明けの疲れで放心状態みたいな親と雨の異様な光景にはしゃぐ子ども。サイもわざと濡れに行ってキャーキャーとはしゃいで騒いで、風邪を引くから辞めさせたかったがなかなか聞かない。こういう時、女の子はじっとしている。女の子の方が成長が早いというのは3歳児を見ているとよく考える。女男関係ないかもしれないし男の子にも大人しい子はもちろんいるが、呆れるくらい馬鹿なことをしているのは総じて男の子が多い気がする。激しく降る雨はなかなか降りやまず、濡れるのを諦めて嵐の中に突入して帰って行く親子もいた。でもMちゃん親子と私達だけ「もう少ししたら止むかもしれないし待ってみましょう」と帰らずに待った。私は待つのはそんなに嫌いではない。Mちゃん(プリキュアに憧れている女の子)はいつもにこにこしている。「いつもにこにこしてますね」とお母さんに言うと「そんなことないですよ」と言っていたので家では大変なのかもしれない。Mちゃんのお母さんの無理に明るくしようとしないちょっと疲れたおじさんのような表情とテンションが好きで見かけたら嬉しくなる。4人でお腹空いたね~などと言いながら外も寒いので園の玄関で絵本を読む。サイもMちゃんも食べ物の絵本を持って来る。あー寿司食べたい…。Mちゃんのお母さんは絵本を見ながらMちゃんに「お腹が空いてるんだねぇ、ひもじいねぇ」など励ますように言っていた。園内の電気も消され園児は他全員、先生もほとんど帰ってしまい、たった4人だけ宇宙船に取り残されたような気持ちになった。結局1時間待ったところで残っていた先生に「そろそろ帰ったら?」と言われて追い出されるように園を出た。先生も帰りたいよねそりゃあ、すみませんという気持ちで出たら雨はほとんど止んでいた。よかった。待った甲斐があった。くたくたで帰宅して焼くだけのピザを食べた。サイは空腹を通り越したのかあまり食べなかった。サイが寝たら好きな人の誕生日を祝えなかった哀しみや他の不安や憂鬱が一気に押し寄せて布団の中で泣いた。大人なのに泣くなんて。

 

9月21日(金)

別府へ。朝サイは保育園。その間に準備して昼寝後お迎え。一旦帰宅して急いで出発。早くもサイの上着や現地の時刻表をメモした紙を忘れ物をしたことに気付く。前もって念入りに用意するのに肝心なところでダメになるタイプ。バタバタして成田行きのスカイライナー乗り過ごす。払い戻しできず買い直し。先が不安。スカイライナーでサイはまあまあご機嫌。おやつを買う時間もなく二人で空腹に耐える。成田着。別府行の飛行機が遅れている。なんや急がんでよかったんやんか、どっと押し寄せる疲労。成田は羽田より遠い。空港からターミナルまでも遠い。予定より1時間ほど遅れて搭乗。その前におにぎりやサンドイッチをサイと食べる。飛行機の中でサイはほとんど寝てくれていた。無事に別府着。夜遅いのに友達のSちゃんが明日運動会だというのに息子を連れて大分空港まで迎えに来てくれる。義理堅い。サイと友達の息子ぶんくんは約一年ぶりなので、サイは空港でぶんくんに会う前、ぶんくんに電話するなどと言って公衆電話をがちゃがちゃ言わせていたのに、対面するなり緊張で固まる。車内で二人はほとんど話さなかった。Sちゃんのおかげでバスに乗るよりずっと早く宿に到着。いつも本当にありがとう。シャワーを浴びて倒れるように二人で眠る。

 

9月22日(土)

別府で迎える朝。サイとホテルで簡単に朝食を済ませ、駅まで歩いてバスに乗る。駅では何かのイベントが行われていたようで露店が出ていた。バスに乗ったら道路沿いにキラキラと光る海が見えてとてもきれいだった。急に旅先に来た実感が湧く。大分バスの車内シートが可愛くて、ワンピースにしたら良いだろうなぁとぼんやり考えた。降ります、のボタンも見たことない古いデザインでかわいかった。「うみたまご」という水族館に到着。9時の開館に間に合わせるはずがなんやかんやで遅れて10時すぎに到着。その後11時20分のバスで別府に戻ると決めていたので焦る。うみたまごの隣には高崎山があり、猿がいるようだった。バスを降りたらすれ違った若い子のグループが「まずはサルみようよー!!」と元気よく言っていて、サルでこんなに元気になれるなんてこの子達はきっといい子なんだろうなと考えた。うみたまごに入るとすぐに外から何か声がすると思ったらちょうどオットセイのショーが始まるところだった。間に合ってよかった。ペリカンのショー(前座?)の後、オットセイのいずみちゃんはどこからどうやって現れるのだろうと思っていたら左手の方から係のお姉さんについて自分でのしのしと歩いて来た。詳しい体重は忘れたが、ものすごい巨大な身体だ。昨晩友人が「オットセイのショーはね、大きいなって感想だったよ、ははは」と言っていたまさにその通りだった。いずみちゃんはよく訓練されているようで、まるでお姉さんの言っていることが分かるかのように頷いたり首を振ったりしていた(ような素振りをした)。それに会場が湧いていたが私は何となく全力で笑えなかった。いずみちゃんの意思はどこだろう、などと余計なことを考えてしまったためだ。サイは興味深そうに目を丸くして集中していた。

 

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最近色々と傷心することがあり、これ以降の日記を書くのが止まってしまった。でも水族館の後に行った地獄めぐりは面白かったし大森さんのライブはここまで来て本当によかったと思わせるものだった(感想を書くのも止まってしまったままツアーも始まってしまったが書こうとは思っている)。みうらじゅんが紹介していたのを見てからずっと気になっていた「毎日が地獄です」Tシャツも思わぬ形で購入することができた(上に家宝になった)し、寝てしまった16キロのサイを抱っこしてホテルまで歩いたりなかなか大変だったが良い旅だった。忙しいなか空港まで送り迎えしてくれた友達Sちゃんにも感謝の気持ちしかない。私は別府が好きだ。海と山と温泉の煙を眺めていると自分でもほとんどそうと意識することがないくらい自然にノスタルジーが溢れ出して、浸かってなくとも温泉に入ったような気持ちになる土地だ。来年もまた行きたいし、この先も死ぬまで行き続けたいなと思っている。