カニ日記

息子の成長と日々の記録

われらは愉快なサーカス団

6月10日(月)
昼から大雨。今日は傘をちゃんと持ってきたぞ!と自信満々でいたら次第に雨は強くなり、折り畳み傘では太刀打ちできない降水量だった。一回帰宅して自転車を置いて歩いてお迎えに行くか迷ったが強行突破でそのまま迎えに行く。自転車を漕ぐようになってから適当に買ったポンチョは機能面でやや問題があり、なぜかいつも中に雨が入ってくる。そしてずぶ濡れになる。サイにもレインコートを着せてから自転車に載せる。

買い物できなかったのでサイは冷蔵庫にあった焼くだけのピザトースト、私は冷奴とアボガド。日曜日にSAで買った「よし子のにんにく味噌」という味噌を冷奴に載せたらめちゃくちゃ美味しかった。アボガドにつけてみても美味しかった。これは使えそう。よし子が誰かわからないが、ラベルを見る限り農家のおばあちゃんらしい。よし子、いいぞ、ありがとう。


6月11日(火)
お迎えに行きながら今日は外で食べよう、と思っていたらお迎えのタイミングがYくんと一緒になった。今日は外で食べるよと言ったらサイがYくんに「ラーメンやいこう!」と誘ってしまったため、Yくん親子といつもの中華屋で食べて帰ることになった。二人がはしゃいで騒ぎすぎて店のお姉さんに「お静かに願います」と言われる。サイは私と二人の時はそこそこ大人しいが、好きな友達といる時は嬉しいのかふざけて大はしゃぎする。「店で大きい声出したらだめだよ」と何度言ってもあまり効果がない。Yくんのお母さんは基本的にYくんを叱らないのでどうしたらいいかわからなくなる。子どもがもっと自由にごはんが食べられる場所があったらいいけれど、自宅と公園以外考えられない。噂に聞く子ども食堂、今度行ってみようか。

帰宅したら明日食べるカレーを作るつもりがサイをけん制するのに疲れて気力がなくなる。サイを暗闇で寝かしつけながら「なんであっちのへやでんきついてるの?」「え、これからママはまた起きてカレーつくるんだよ」「え、いまから?(できるの?という疑念)」「う…うん」数分後。しーん。「あれ、カレーは?」「え、いや、もうちょっと休んでからにする」という会話をしているうちに案の定サイと寝てしまい、夜中に起きても台所に行く気がせず諦める。雨で洗濯物もどんどん溜まっている。


6月12日(水)
その方が余計なものも買わされないし効率的だと気づき、先にスーパーに寄り超特急で買い物してからお迎えに行く。お迎えが遅れるといつもサイに怒られるが、好きなMちゃんKちゃんが一緒だったのでご機嫌だった。三人でけらけら笑いながら坂をくだっていく。親たちはそれを自転車で追いかける。いつものように神社に寄る。MちゃんとKちゃんのお母さんは習い事の話をしていた。Mちゃんはスイミング、Kちゃんは体操をしているらしい。二人の会話になんとなく入れなくて、少し離れて聞いていた。サイは何がしたいだろうか。

私は幼少期、絵画、スイミング、新体操、英語を習っていた。そして科学と学習という学研の雑誌も購読していた。今考えるとまあまあ英才教育だが、当時はただそういうものだと思って特に何の疑念も抱かなかった。楽しかったのもあるし、あまり楽しくなかったものもある。でも今色々なことに興味があるのはこれらの習い事がきっかけになっているのかもしれない。そう考えるとお金を代償にしてでもサイにはサイが好きなことを、もっと経験させてあげたい。

やっと明日晴れそうなので、帰宅して溜まっていた大量の洗濯。多すぎて全部入らない。その間にカレーを作る。野菜を刻んでいたら「なにしてるの?」とサイに聞かれたので「カレー作ってるんだよ、昨日できなかったから」と言い訳のようにぼやくと「ああ」とわかったような返事をされる。私たちは親子なのに時々対等な夫婦みたいだし友達みたいでもある。不思議な関係だ。サーカス団の団員同士、が一番適切な表現だと私は思っている。

サーカスといえばこの夏、木下大サーカスが埼玉にやってくるらしく気になっている。小さい頃、母親に妹と連れられて木下大サーカスを観に行った記憶が未だに残っている。保育園にあったチラシを見せてサーカスを知らないサイに教えたら「ぞうさんがいるの!?」と少し興味を示していた。手品や奇術、サーカスが私は昔からとにかく大好きだ。観る人を楽しませたいために、生きていくのに別に必要でない、言わば無駄なことに時に命を危険にさらして取り組んでいるところにロマンを感じる。

マエケンラジオを聴きながら大量の洗濯を干し終えたところで、力尽きて寝た。前野さんが好きだと言っていた有楽町にあるジャポネというお店(前から気になっていた…!なんでいつも前野さんは私の好みをピンポイントでついてくるのか…)のジャリコというスパゲッティが食べたい。きっとあの店はパスタじゃなくてスパゲッティ。相変わらず面白かった。


6月13日(木)
久々の快晴。朝からまた洗濯。

サイは今日もお迎えが一緒になった子たちと列になって帰り、いつものように神社にお参りする。サイとYくんが騒いでいたら女子に「じゅんばんぬかししないで」「いいかげんにして!」と怒られていた。それでも二人はへらへらしていた。男はつくづく阿呆な生き物だなと彼らを見ているといつも感じる。阿呆でい続けると生きる上で損することがあるかもしれないが、誰も傷つけない。阿呆でいること、これは案外大事だ。

サイが寝てから好きな人と電話した。9時半から深夜2時までなんと4時間半も話してしまった。ずっと楽しくてずっと笑っていて、なぜこんなに話すことがあるのか自分でも不思議だった。2時を過ぎいよいよ明日に差し障るから大変だ、となり電話を切ったが延々と話していられそうだった。


6月14日(金)
夜更かしのせいで眠く、視界がぼんやりしていた。目覚ましが鳴る前に「ねえ?おきないの?」とサイに起こされる。サイはぱちっと目を開けて起きると同時にいつも何か私に語りかけてくる。今日は仮面ライダーの夢を見た話をしてくれた。寝ぼけた発言をしたり「うーん」とか絶対言わない。「あのさ…」と目を開けた瞬間に始まるので笑ってしまう。脳が若いのかもしれない。昼頃までよく晴れていて、雲が大きくもくもくと美味しそうだった。

お昼は好きな先輩二人とハンバーガー屋さんへ行った。ゴミの仕分けの話、家賃の話、会社の話などなど。会社に対して抱いていた違和感や疑念が先輩たちと同じで安心した。状況に耐えられない時は自分が変わるしかないのだと改めて感じた。

朝観たEテレの「デザインあ」でたこ焼きが分解される映像に触発されたらしく、サイがたこ焼きが食べたいと言うので夜に買いに行く約束をしていた。帰りには私はすっかり忘れていたが、家に帰る途中で「たこ焼きたべたい」とまた言われ、「あーそうだったね」と一度買ったことがある駅の近くのたこ焼き屋まで自転車を走らせる。少し丸顔の愛想のいいお姉さんが一人でやっていて、カウンター席のある小さな店内でたこ焼きとおつまみで飲めるようになっている。おじさんが何人か飲んでいた。うわ、いいなぁと思いつつ、持ち帰り用の窓からたこ焼き10個お願いする。「3分ほどかかります」と言い、お姉さんは店内のおじさんたちにイカの塩辛を提供する傍ら、窓側のたこ焼き機で私たちのたこ焼きを焼いてくれた。サイはそれを見たがったが背が届かなかったので抱きあげた。二人でじーっと観察していたらお姉さんがふふふと微笑んでくれた。私もたこ焼きやたい焼きが焼けていく様子を眺めるのが昔から好きだった。「おうちでも作るのですか?」と聞かれたがうちには機械がない。焼きあがった大きなたこ焼きがぼすぼすと白いトレーに入られて、たっぷりのソースと青のり、かつおぶしがかけられるところまで二人で見届けた。お姉さんがなんでたこ焼き屋をやっているか、いつか聞いてみたいなと思った。私も将来こういう感じの、ちょっと飲めて持ち帰れるたこ焼き屋さんがやりたいなと妄想した。
熱々のたこ焼きを受け取ったサイは「いいにおいがする~」と満足そうだった。

ドラえもんとしんちゃんを観てげらげら笑いながら晩御飯。ドラえもんジャイアン誕生日記念の特別編で、ドラえもんの道具で歌が上手くなってしまったジャイアンが生放送の歌番組出演にスカウトされてしまい、道具の効果切れで恐ろしい顛末を想像したドラえもんのび太は全力で阻止しに行くという話だった。ジャイアンの歌声がテレビ放映で広がったら「ニッポンのピンチだ!」とドラえもんが深刻な顔で叫ぶところで爆笑した。どんなに地盤が揺れて耳を塞がれても自分の歌がみんなに愛されていると信じて疑わずリサイタルを遂行する愛すべきジャイアン

今日はいいことがあった。Aちゃんの予定日が6月だったことをお迎えに行く前「あ、そろそろかも」と唐突に思い出し、最後に会ってから二か月ぶりに「赤ちゃんもしかしてもう生まれた?」とラインしてみた。そうしたらなんと、今日の昼に生まれたとのこと!今日の今日だったから驚いたし嬉しかった。単なる偶然かもしれないし、この世界にやってきた赤ちゃんの生命力が病院から私の元まで空気を伝達してやってきたのかもしれない、と一人で都合良く考え、感極まって自転車を漕ぎながら泣いた。Aちゃんが赤ちゃんの写真を送ってくれた。生まれたての赤ちゃんのかわいさよ。非情なのか、人の子どもが生まれても特に何も感じないことが多いが、Aちゃんの子どもは自分の子どものようにとにかく嬉しい。赤ちゃんに早く会いたいな乾杯、と思ってビールを飲んだ。Aちゃん本当におめでとう。


6月15日(土)
朝から雨。いかにも梅雨ですよ、という天気。それならそうと洗濯を諦め、室内の掃除に専念する。カレーの残りでお昼ごはんを食べた後、サイがお絵描きしたいというので絵具と筆を出して二人で好きなものを描く。私はアクリル絵の具で保育園の着替えバックに仮面ライダーフォーゼを描いた。絵描いてるときは何にも考えなくていいからただ楽しい。それからサイが見つけ出した「あまちゃん」のDVDを観て(このドラマはやっぱり面白い)、さすがにずっと室内に居れなくなってきたので小雨になったのを確認してカッパを着て図書館まで歩いて行く。子どもコーナーで絵本や紙芝居を読んだあと、本を借りて図書館を出た。図書館の近くの入ったことないが気になっていた手芸屋さんが開いていたので入ってみる。やや古いかわいいボタンやアップリケが大量に売っていた。サイのTシャツにつけようと、恐竜と新幹線のアップリケを買う。また行こう。

それから唐揚げ屋で出来立ての唐揚げを買ってからスーパーに寄って帰宅。サイがテレビを観ている間に缶ビールを開け、まだ温かい唐揚げをこっそりひとつ食べた。こういうことが私の幸せを構成している。晩御飯はサイは希望の冷麺、私は豆腐とアボガドとレタスのサラダ。よし子のにんにく味噌でドレッシングを作ったらめちゃくちゃ美味しかった。あまりにも万能なので二個くらい買えばよかった。

夜サイが寝てから、また好きな人と電話した。なんと5時間半も話してしまったのが自分でも信じられない。相手にとって多分どうでもいい話(私がサンリオをいかに好きかという話とか、お菓子の話とか、よし子の味噌の万能さとか)をしてもうんうんと興味深そうに聞いてくれて、ありがとうと思った。「非常に」とか「とても」とか、最近書き言葉でしか遣われないようなきれいな言葉を会話の中でも自然に遣うところがこの人の魅力のひとつだなと話しながら思っていた。


6月16日(日)
夜更かししてなかなか起きられないでいたら8時頃サイに起こされる。あ、プリキュア観なきゃと思って急いでテレビをつけたらゴルフ大会の模様が映し出され、プリキュア仮面ライダーもレンジャーもないと知る。がーん。久々に静かな日曜日。すっかり晴れて風が吹いて気持ちの良い天気。たくさん洗濯する。

昼頃、駅前でうどんを食べてから新宿。伊勢丹でAちゃんのお祝いを買いたかった。が、サイがカードゲームをやりたいと言うのを優先してビックロに寄り、ゲームが済んだらその上のGUでサイの洋服や私の部屋着を買い、そこで時間切れ。急いで表参道まで移動し、二人並んで順番に髪を切ってもらう。移動で疲れたのと睡眠不足で待っている間本気で寝てしまって恥ずかしかった。

そのあと、暑くて嫌がるサイを励ましながら岡本太郎記念館まで歩いて行き、さいあくななちゃんの公開制作を見学した。巨大なキャンバスに向き合うななちゃんの姿が目に入った瞬間、つい話しかけそうになったが、ななちゃんはこちらに背を向け集中して制作していた。「お声かけはご遠慮ください」と書いてあることに気づく。

他にも見学している人がいたが、誰も話すことなく、静寂の中大人も子どももじっとななちゃんがキャンバスに向かう様子を見つめたり撮影していた。さいあくななちゃんが描く様子を見るのは先日渋谷のヴィレヴァンで観て以来二回目だったが、あの時よりずっと大きい壁一面のキャンバスだったし、あの時は1時間くらいだったけど今回は企画中(一週間くらい?)毎日書き続けているようだった。行ったのは夕方だったので、もう今の時間は描いてないかもしれないと少し思ったがそんなことはなかった。ということはななちゃんは朝から閉館まで毎日ずっと描いているのだろうか、などと目の前の現在進行形で変化する生き物のような作品を眺めながら考えた。

さいあくななちゃんの作品には多くの色や筆跡が重ねられているため、一見無秩序に塗られたり描き殴られているように見えるかもしれないが実ははっとするほど繊細で美しい均衡が存在すると私は思っているのだが、それは頭で考えた結果、というよりななちゃんのその瞬間瞬間の感覚からダイレクトに生まれている気がする。と言葉にするとつまらないが、ななちゃんがピンクのヘッドフォンをして筆を持って広いキャンバスの前を動いて色んな態勢で塗り重ねていく様子はとても美しくその光景自体が作品みたいだった。人が生きているとはこういうことだなと胸が熱くなった。サイと私は岡本太郎の作品である穴が空いた椅子に座って眺めていた。サイは前にワークショップをやってもらった時とは違うななちゃんの様子に少し戸惑っているようだったが騒ぐことはなくななちゃんを見つめていた。永遠にキャンバスの前にいたいと思ったが、大人しくしておかないといけない空気にやがて耐えられなくなったサイが移動したがり、常設展をさっと観たあと外に出た。

帰る前にひと息、と思い敷地内のカフェに立ち寄る。太郎の彫刻作品や並んだ緑溢れる庭が眺められる窓側の席にサイと並んで腰かける。私はハイボール、サイはリンゴジュース。サイが何か食べたいというのでチーズケーキも頼んだ。甘さ控え目のお酒によく合う味のチーズケーキだったがサイは美味しい美味しいとよく食べていた。夕方の風が吹いて気持ち良く、ここが都心の街中だと忘れてしまうくらい静かで、とても居心地の良い時間だった。サイと並んでお酒を飲んだりケーキを分け合ったりデートみたいなことができるようになったんだなとしみじみした。記念館を出たら近くのバス停から渋谷駅までバスに乗り、電車に乗って帰宅。少し疲れたけど楽しい一日だった。

こうやって私とサイの思い出が少しずつ積み重なっていくことが嬉しい。片親だとできないこともあるからサイがかわいそう、みたいに母親に言われたのがどうも理解できない。かわいそうなんて思いたくない。二人だけではできないこともあるかもしれないが、私たちは私たちなりに、好きなことを全うしたり笑い合ったりして楽しく生活している。これから夏がやってくる。花火もしたいし海も見たい。楽しみだ。