カニ日記

息子のことを中心とした

たまには傘持って踊りたい

5月8日(月)晴れ
命にしても何にしても永遠に続くものなどこの世になく、長い休暇も多分に漏れず終わりが来る。
確か穂村弘さんが、ブルーマンデーについて最初は日曜日のサザエさんが始まる頃から不安になっていたのがだんだん前倒され、今や木曜日ぐらいから不安になる、というようなことをエッセイに書かれていて正にそれと同じ気持ち。GWが始まる時からもう不安だった。
仕事に行きたくない私と同じようにサイも朝、「こうえんいく」「ほいくえんいきたくない」「○○せんせいこわい」と発言していた。私が会社に行くのは生活のためだが、サイは保育園に行かされているだけでありそこに必要性は全くない。だから行きたくないと言われるといつも心苦しい。

4月からずっとさぼり続けてようやく作った(といっても支給された厚紙にボンドで貼っただけの)連絡帳カバーを見て喜んでくれ、保育園バッグに入れないで自分で持っていく、先生に見せると言ってくれた。サイはいつも大したことのない些細なことでも大喜びしてくれるのでこんなことでごめんねといつも思う。もし私がインスタでよく見かけるような手作りお菓子や料理、手芸の達人だったらサイはどんな反応をしていただろうか。絵や工作は好きだが手芸や料理は苦手で苦痛でしかない。でもサイのためならフェルトでままごとセットを作ってあげたり、Tシャツに好きなキャラクターを刺繍してあげたり、可愛いちぎりパンを作ってあげたい。あげたいけれどそれはいつも想像上で終わる。例の山菜の天ぷらを出してくれた奥さんの家に、紙でできたアンパンマンや食べ物など明らかに手作りと分かる凝った作品が山ほど置いてあり、私は「これ作ったんですか」と目に入る度にしつこく尋ねた。全部支援センターで作ってもらったんですよと聞くと妙に安心した。
お菓子作りこそしなかったが手芸好きな母は私が小さい頃洋服や色々なものを作ってくれた。キティちゃんの絵が編みこまれたセーターを着た自分の写真を見ると、一体どうやって人間の手でこんなものを作り出せるのか不思議な気持ちになる。母と同じようにはなれないが絵を描いたり私は私のできることするしかない。

夜、サイはお医者さんセットの聴診器を私のお腹やお尻にあててはしゃいでいた。へそに注射してくれた。ままごとの食べ物でお弁当を作ってくれた。最初は機嫌よくやっていたが弁当箱にきっちりはまらないと嫌になって全部投げつけていた。


5月9日(火)曇り
朝。サイは2歳になった頃からトイレトレーニングを始めたが、なかなかうまく進まない。トイレにサイが好きなポスターや絵を貼っってイメージから改善しようとするも、気が乗らないとトイレにすら行ってくれない。なので汚い話だが大便に関しては今にも出そうな顔をしている時に急いで便座に座らせる。あまり強制的だと嫌がられるので「キラキラのすごいシールあげるから行こう」と誘拐犯のように誘った。今日は間に合って便座でできた。よかったねぇー偉いねぇと言っていたら遮るように真顔で「きらきらのしーるは?」と聞かれた。実は口から出まかせだったので慌ててシールを探した。たまたまそういう感じのものが見つかってよかった。サイは光る宝石のようなシールに喜んで大事そうにしていた。
その後私がトイレに入っていたら覗いてきて大人みたいな顔で「きらきらのしーる、もってこようか?」と聞いた。最近サイは私がトイレに行く度にかけつけてシールが欲しいか尋ねてくれる。「うん、ありがとう」と言うといつものように「まってて!」とやけに自信満々にドアを閉めどこかへ行った。

仕事で夕方、自分の関わったものでは入社以来最も大きな案件が舞い込み動揺する。決まればすごいことなのだが、私も上司も極度のマイナス思考のため「こんなうまい話あり得ない、最後に何か起こってダメになるかも」と暗くなっていた。そんな我々と相反して部長をはじめ、周りは喜び騒いでいた。そんな最中、先方にろくに返事もせず(翌朝確認したら上司がやってくれていた)、私は退社しサイのお迎えに向かった。夫は出張で不在なので私が行かなければサイは保育園に取り残される。こんなこと口が裂けても会社では言えないが、どんなに大きな案件があってもサイのお迎えが最優先である。

迎えに行くとサイはいつも通り主人が迎えに来た犬のようにすっ飛んで来て、園庭で走り回ったり砂に絵を描いてから帰路についた。先生にサイくん連絡帳カバーに大喜びで見せてくれましたよ、と言われる。通園途中いつも通りかかる和菓子屋さんがあり、「あそこのおやつ」と私が最初に呼んで以降、サイも店名のように呼んで前を通る度に「あそこのおやつかいたい」と騒ぐ。金曜日や給料日後に寄ることもあるが今家には帰省先で買ったお土産がいっぱいあるので「あれ?やってないね、今日はもう売ってないねぇ」と適当に言って通りすぎたら「やってるー!あるー!」と激怒しぐずった。だんだんと適当さが通じなくなってきたが応じていても大変なので断り方を考えないといけない。
帰宅後、機嫌直しに家にあった饅頭をサイと半分ずつ食べたら満足したようだった。


5月10日(水)雨
雨の日は嫌だ。自転車にカバーをつけたり、ダサすぎて最新ファッションかと思う雨具をフル装備したり、かばんが濡れないようにしたり、通園するだけで朝からたくさんの気を遣いEPが一気に減る。今日は小雨だったのでまだいい方。大雨の時は本気で仕事を休みたくなる。最近サイが濡れないようにするカバーをなくして、ベビーカーのカバーで無理矢理代用している。やはり無理があり走っている途中でめくれ上がった。誰に似たのかサイは下げているかばんの持ち手が捻じれたり、ままごとの野菜がうまく箱には入らなかったり、均等や美を保っているものが崩れるのを一番嫌がるので案の定機嫌が悪くなった。でもそのまま走り続けた。雨は嫌だ。

夜。夫の仕事に余裕があった日だからか先日のことを悪いと思っていたのか、自由時間をもらえ、素敵な人達と夢のような時間を過ごし絡まっていた紐が少し解けた気がした。(日記の中で夫って書くのは何だか嫌なので今度からアルファベットでKとすることにしよう。)ストレスを溜めて鬱々としてるのは家族に悪く当たってしまう可能性がある上に翌朝以降の生活にも悪影響しかない。たった一晩出かけるだけで明日から頑張ろうと思えるのだから全国の夫達は一晩だけ家事や育児を頑張ってたまには妻に一人だけの、妻でも母でもない時間を与えるべきだ。いや、母親たるもの子どもからひと時も離れてはいけないという人や、山菜天ぷらの奥さんみたいに別に出かけたいと思わない人もいるだろうから、これはただの持論だけど。

5月11日(木)快晴
朝から夏のように暑い。ドクターイエローがプリントされた半袖Tシャツを着せようと出したら思い違いで長袖だった。暑いから辞めようかと言うとサイは見てしまったためにドクターイエローがいいと主張した。サイはドクターイエローのことを舌足らずのせいで「ドクターエロ」と言う。それではただのエロいおっさんで医者かどうかも怪しい。仕方ないのでそれを着せて行き保育園で半袖に着替えさせてもらうよう先生に伝えた。大森靖子さんが息子に危険さえなければ自由にさせてあげたい、とラジオでおっしゃていたがその通りだと思う。命の危険と周囲への迷惑さえなければできる限りサイの「おこだわり」に応じたいと日々思っている。晴れの日に長靴を履いたっていいし、オムツをデコりたいと言われれば応じる。と言いつつ壁に落書きすると叱るし、夕飯前にお菓子食べたいと言われると断る。躾とこだわりは違うのでその辺りは弁える必要がある。


夜。退社後昼休みに美味しいパン屋さんで買った週末分のパンと同僚にもらったパンを会社に置き忘れてきたことに気が付き、一端お迎えに行った後駅でKと交代し再び会社へ戻る。退社する時はいつもサイの顔を浮かべてうきうきなのに、夜に会社に戻るのって例えそれが仕事でなくてもなんと暗い気持ちになることか。
帰ったらサイとKはKが作ったパスタを食べていて私も食べる。美味しいのだけど何味かよく分からない。


5月12日(金)晴れ
夜、明日から両親が来るのに備えテレビ電話など。

5月13日(土)雨
サイと一緒に寝てしまい、明け方起きて部屋の片づけをしていたらKが起きてきて二人でがたがたうるさくしていたので、日が昇らないうちにサイは起きてしまった。Kは会社に行き、私はひと眠りしたかったので起きたいというサイを宥めて8時頃まで寝る。おそらくサイは途中寝たり起きたり。最近寝ていて足で蹴られたりするのが本気で痛い。負傷するレベル。起きてから「今からじいじばあば(私の両親)来るから会いに行こうね」と言うとサイは飛び跳ねてうきうきしていた。


天気はよくなかったが早く着いたのでみんなで築地へ行った。団子屋さんで雑煮と団子を食べる。知らない外国人観光客がライカでサイを撮ってくれる。父とKとはそこで別れそのあと三人で銀座へぶらぶら。ぶらぶらと言っても天気は一層悪くなり休み休みで辿り着いた。自分では普段買わないちょっと高い店でサイの洋服を買ってもらう。その後電車を待っている時、これからもらう年金の額がものすごく少ないという話を聞き申し訳ない気持ちになる。それでもサイのために何か買うのが母の愉しみらしい。
好きな洋食屋さんで三人でお昼を食べ(雨だから空いていた)、デパートの子どもの階で絵本を読み、天気が悪いのでKにサイをピックアップしてもらいそこから2時間ほど母と二人になった。いつもそうだが、それまで一緒にいたサイが突然いなくなるといなくなった感がすごくある。サイのことは大好きだしずっと一緒にいたいけれど離れた瞬間自由だ!とミュージカルの主役みたい踊りたくなる。母と二人で絶対幼児が入店できない店で普段なら食べない高いパフェを発注し美味しい美味しいと堪能する。

夜はみんなで家の近くの和食屋さんで晩御飯。初めて行ったけど本当に美味くて両親もサイも満足していた。買い物して美味しいもの食べてサイをみてくれる人がたくさんいるってなんという余裕。たまにはいいよね、傘持って踊りたいよねと思いながら寝た。

 

5月14日(日)

午前中はゆっくりして(うちの両親は朝からそんなに食べない派なのにKに叩き起こされてちゃんとした朝ごはん作るよう命令されたのがちょっと嫌だった)、みんなで薔薇の綺麗な場所へ出かける。ここで薔薇を見るのが毎年の楽しみなのだけどとにかくものすごい人でみんな薔薇好きなんだな、と思う。一昨年はまだ歩けず、昨年はよちよち歩きだったサイは今では走り回る。お花が最近好きなので喜ぶかと思いきや砂利を拾って遊んだり「いちごわすれた」などといつか苺を持ってきて食べた記憶など思い返し薔薇はどうでも良さそうだった。動き回ってじっとしていないので写真も撮れなかった。

昼食を食べて両親はまた地元へ帰って行った。

 

帰宅後、なぜか疲れていたので母の日ということもあり晩御飯を作ってほしいとKに頼んだら快諾してもらえた。自分でも作り方がよく分からないビーフストロガノフをリクエストしたらちゃんと完成していた。お風呂もKに代わってもらい深夜に一人でゆっくり入った。

 

日記を書き初めてから思うけどたった一週間って色々あるもんだな。

 

金曜日の夜、サイとKはいつもより少し帰りの時間が遅かった。「ただいまー」と帰ってきたサイの手には花束らしきものがあったけれど私は何にもピンとこなかった。普段ならこういうのにすぐ勘付く方だけど、ああ、お花買ったのか、と普通に思った。Kがサイの後ろから何か言い、サイがもじもじしながら小声で「おかあさんありがとう」と言って持っていた花束をくれた。私の一番好きなマトリカリア。リボンも何もついてない茶色い紙に包まれた小さな花束。言葉にならないほどの嬉しさとよく言うが本当にそんな感じだった。玄関でサイをぎゅーっと抱きしめてありがとうと言ったららちょっと照れたような満足そうな顔をしていた。その後Kからも自分では絶対買わない色のハンカチと靴下をもらった。もちろん嬉しかったけどサイにもらった時の気持ちとは比べものにならなかった。どっちも代金を支払ったのはKなのに申し訳ないほど。
そういえばサイに何かもらったのは初めてだ。食べかけのパンや床に落ちていた糸くずは日常でもくれるが、贈り物をもらったのは初めてだ。赤い顔して永遠に泣き続けていた子が今や照れながらお花をくれるなんて、嗚呼。


嬉しくて嬉しくてずっと棚に飾った花を眺めている。