カニ日記

息子の成長と日々の記録

絵をみにいくためだけに今日があってもいい

7月18日(火)晴れ時々豪雨
寝起きでサイの機嫌は最悪だった。連休明けで嫌だなぁという私の気持ちを察したのかもしれない。保育園に着いて預ける時も教室の前で泣き喚き、Mちゃんをはじめ他の子どもは「サイくんないてるなぁ」という感じでぽかーんとした顔で傍観していた。さすがにこの年齢で別れ際に泣いている子は少ないし、サイも普段は名残惜しそうにはしても泣くまではしない。たまらなくなって抱きしめたりしても様子は変わらず先生が困ったような顔をしていた。こんな日はもう仕事なんか行きたくない、だからと言って連休明けに休むわけにも行かないので先生に抱き上げられて泣き続けるサイに後ろ髪を引かれつつ保育園を出た。辛いが割り切りも必要。

夕方。お迎えに行こうと駐輪場から出たらアスファルトが見えないほど地面が緑の葉っぱで埋め尽くされていた。幻想的で異様で葉っぱの青々しい匂いが鼻についた。ジブリの何かで見た光景のようだった。すごいなぁと思いながらいつも通る割と急な坂道を下っていたら濡れた葉にタイヤがとられてブレーキが全く利かず激しく転倒。あっと思った瞬間にはもう地面にぶっ倒れていた。体中痛くて、ああ、やってしまったと思いながらしばらく横たわっていたら通りがかった親切な方が自転車を起こしてくれたり立ち上がるのを手伝ってくれた。笑う場面じゃないのに、すみませんすみませんとへらへら力なく笑っていた。優しそうな青年が「これ」と私のものじゃない濡れた靴下まで差し出してくれたので、また力なく笑って「あ、これは違います、すみません」と断ったり、とにかくどこのから来たのか分からない洗濯物やら植物が落ちていて地面は大変なことになっていた。葉っぱが両腕に纏わりついたまま立ち上がってズボンを見ると膝に修復不能なくらいの大穴が空いていて、空いた穴からべっとりとした血が覗き見えた。肘からも血が。ひー。とにかくお迎えに行きゃなきゃとそのまま保育園に向かった。先生や他のお母さんに同情された。

私の肘の血を見てサイは「アンパンマンばんそうこうあげようか~?」と心配してくれた。気持ちは嬉しいがそんなものでは間に合わないので薬局に寄り「絆創膏はどこですか!?」と必死の形相で店員に尋ねてキズパワーパッド大を購入。サイは必死な私を置いてお菓子に心奪われていた。とにかく早く帰りたかったので普段なら辞めさせるどうでもいい菓子も買ってしまった。帰宅後、サイがお菓子に気を取られている間に消毒して処置。縫う必要はなさそうでよかった。しかし膝から変な液が溢れてきて覆いきれなかった。とにかくご飯食べさせなきゃと思ってカレーを温めて食べさせた。お風呂がまた大変だったが何とか済ませてどっと疲れてサイと就寝した。こういう時に限ってKはいない。

夜中に起きて、とんでもなく嬉しいニュースを知った。妄想が現実になっていた。嬉しくて嬉しくて泣いた。しーんと静まり返りエアコンの低い音だけする暗い居間でiphoneを手にし、そこに一際明るく示された美しい事象が今この世界で本当に起こっている事だと信じられず何度も画面を見て泣いた。いやいやこれは現実だという実感がじわじわと湧いてくると、世の中捨てたものじゃないなぁ、いい事があるなぁと小学生のように思った。転んで血を流して痛がっている場合ではない。


7月19日(水)
仕事帰りに伊勢丹に寄る。解放区に好きな人達が一緒に作り上げた商品が美しく並んでる光景やポップの文字は夢で見たそのままだった。人がそれらの商品を買い物する様子を見たくて、知ってる人誰か来るかなと思ったが誰にも会わなかった。地下に降りて夕飯用の惣菜を調達。Kの誕生日。喜ばせたくないし誕生日なんか絶対祝いたくないと思っていたので何もせずスルーするか迷って、でもサイとケーキを食べる約束をしていたからケーキと小さなお花だけ買った。お花をサイからKに渡してもらった。Kはサイに誕生日の歌を歌わせていた。でも私はおめでとうと言わなかった。サイはスーパーのお惣菜の春巻きが大好物なのに、高い春巻きを散々いじくった挙句食べずに皿に放置していた。「ごちそうさま」と言われたが、捨てるのは悔しいしもったなく思い水を吸ってべちゃべちゃになった海老春巻きを私は必死で食べた。


7月20日(木)晴れ きれいな青空
Zepp Diver Cityにて大森靖子さんツアーファイナル。半休にするか迷って午前中に済ませたい用事もあったので一日休みを取った。朝から干しても干しても全然減らない大量の洗濯物を干し終え、服はあるのに着たい服がなくて泣きそうになって、伊勢丹で購入した大森靖子さん×縷縷夢兎コラボキャップ(それ自体は死ぬほど可愛い)を自分の頭に被ったら20年ぶりのキャップ姿を人に見られるのが怖くなってきて、でも人と約束していたし銀行に行かなきゃいけなかったから予定より大幅に遅れて銀行に向かった。銀行での用事は窓口のお姉さんが優しくて思っていたより早く済んだ。でも友人との約束をダメにした。

自己嫌悪に苛まれながらも進まなきゃ動かなきゃととりあえず電車に乗った。乗り換えのために新橋駅で降りた途端、猛烈にお腹が空いたので新橋駅前ビル1階にある喫茶店「ポンヌフ」で瓶ビールとナポリタンを頼んでゆっくり胃に収めた。ずっとずっと来たかったけど定休日などでタイミングが合わずようやく来れた。「ポンヌフ」は夏休みに親戚の家に泊まりに来て涼しい部屋で花柄のグラスで出された麦茶を飲んでいるかのような居心地の良さだった。実際に飲んでいるのはビールだが。ランチタイムを外したからか、店内は静かで穏やかで誰の目線も気にならなかった。大きな窓から明るい光が差し込んでいた。従業員のおばさま達が集まって置き忘れられた名刺入れの主を探していた。おばさまの一人が名刺に書いてあった何かの番号に電話したがつながらず、別の、おそらく職場の番号にかけていた。「ポンヌフって言うんですけど」「パピプペポのポです」その電話しているおばさまを他のおばさまが囲んで心配そうに見つめていた。素晴らしいお店だと思った。レジのおじいちゃんがスローモーションみたいで、お金を受け取るのもお釣りを数えるのもコマ送りのようで愛おしくなった。

再びゆりかもめに乗って台場駅へ。物販を済ませTシャツに着替えてからライブまで同行者を待って時間を過ごす。同行者が到着してライブ会場入り。ライブ開始。史上最高のライブだった。涙が止まらなかったり口を開けたまま茫然としたり酷い顔をしていたと思う。音楽というより、自分の人生を劇やミュージカルにしたものを走馬灯みたいに次々と目の前で観せられているような感じだった。誕生、怒り、喪失、再生を経て、未来への希望を残してライブは終了した。記憶が消えないうちに感想をまとめておきたいが余韻に浸りすぎてまだそれすら出来ずにいる。大森さんってとにかく歌が上手いなと思った。あとは何でこんなに可愛くて綺麗なんだろうって思った。そういう当たり前の、別に今気づいたことでないことばかり小学生の感想文みたいに考えていた。人前で泣いた姿を最近は観客に見せなかった大森さんがMCで泣かれていた。あの姿は一生忘れないだろう。

終演後打ち上げ。夢みたいに楽しかった。みんな若くて可愛いのに自分みたいなおばさんにも親切だった。愛おしかった。人に終電を調べてもらって(いつも終電を確認するのが本当に苦手)帰路が同じ人達と途中まで一緒に帰った。いい歳して大学生みたいに駅まで走ったりしてそれも楽しかった。嘘みたいに楽しくて幸せでずっと笑っていた。


7月21日(金)晴れ
腑抜け。サイは昨日の夜Kと二人で相当寂しい思いをしたのか、保育園の教室に入る直前に突然「おかあさんきょうおしごといかないで」と小さな声で言い泣いた。そんな風に言われたのは初めてだったので胸にずんとしたものが降りてきて苦しくなった。一人で楽しい思いをして笑っててごめんねごめんねと心の中で謝って抱きしめた。泣いているサイを先生は抱き上げて、それでもサイは泣いていて私は保育園を出た。好きでもない仕事をしに何のために職場に行くのかもはや分からない。


夕方迎えに行くとサイは機嫌はよかった。保護者達が出す金曜日の空気を感じ取っているようだった。他の人でしている人はあまり見かけなし、先生はまたやってるなって感じで笑っているが、私は送迎時毎日必ずサイを抱きしめる。それで償いになる分けではないけどサイの体温に触れたら自分が救われるから。いつまでやらせてくれるか分からないけど。サイと帰りに気になっていた和菓子屋に寄る約束を朝していたので、約束通り初めて入る和菓子屋に寄り、豆大福とすあまと赤飯のおむすびを1個ずつ買った。そしたら豆大福を一つおまけしてくれた。

帰宅してサイがそれを食べたいと騒いだのでそれらを晩御飯にした。Kがいたら絶対に怒られるやつ。私は豆大福でビールを飲んだ。豆大福は半分個したので一つ残して「これは明日食べようね」と言うと納得していた。入浴、就寝。

サイが寝た後、ツイッターで嫌なことがあった。所詮SNSだけど思い当たる原因が自分だから一気に自己嫌悪の大波が押し寄せた。謝るべき人には一人ずつ謝った。SNSごときに惑わされる自分も嫌だし、人に迷惑かけるのも嫌だし、ほんとにSNSなんかクソだ消え失せろと思った。そんなもの存在しない時代に戻りたい。


7月22日(土)晴れ
いつものように朝ごはん、洗濯、サイと遊ぶ、昼ごはん。お昼に買い物に行けず、冷凍庫を漁ったら義母から送られてきた高級な肉があったので何も考えずフライパンで焼いて解凍した白米にどんと乗せてサイと食べた。サイは肉巻おむすびにした。おむすびはすぐ解体された。

昼食後、布団の上で二人でごろごろ遊びながら昼寝。サイは機嫌よく大きな声で何か話したり歌ったりして転がったり私に激突したりしていたが突然静かになりぱたりと寝た。その寝顔が死ぬほど可愛かった。

 

サイが昼寝から起きたらサイをベビーカーに乗せ、浅草橋までさいあくななちゃんの合同展示を観に行った。サイがなかなか起きなくて出発がぎりぎりになった。私も嫌なことを引きずって準備が進まなかった。でもななちゃんが閉館までいますから、子連れでも大丈夫と言ってくださったので、間に合わず観れなくてもとにかく浅草橋まで行こうと思った。駅に着いてからも道を正反対に進んだりして、閉館時間をとっくに過ぎた。なんとか会場まで辿り着くと、入口のビニールの暖簾越しにななちゃんが立っていた。全身汗だくでお土産も買えず「遅くなってすみません」とただ言い訳する私に優しく微笑んで「来てくれてありがとう」と言ってくださった。もうそれだけで泣きそうだった。私のせいで遅れたのにななちゃんはギャラリーの方に聞いてくださり時間は大丈夫だからゆっくり観ていいと言ってくださった。他にも数人いた。サイと二人でギャラリー内を眺めた。サイは初めての絵のある空間に興奮して色んな部屋を出入りしたり絵を指さしたり、ななちゃんの作品を観て「うわー」「かわいいね」「きれいだね」と言っていた。サイはななちゃんに会った瞬間人見知りしていたが、優しく接してくださったのですぐに壁をなくし、私がびっくりするくらいななちゃんに懐いていた。二人がソファに座って話してる光景を私はただただ嬉しくてぼんやり眺めていた。
二つの作品で迷ってサイがこれがいいと言った絵を買った。そういえば生まれて初めて絵を買った。値段がついてないものだったのに、いいですよとつけてくださった。自分が作品買うことで自分以外の人の眼に触れることがなくなるのはとても残念だが、あの絵を毎日眺めたいと思った。ななちゃんにお礼を言いギャラリーを出たら陽が暮れかかっていた。サイは余程楽しかったらしく、「ななちゃんはどこ~?」と泣きそうな声で叫んでいた。

夜。遅くなったので外食を提案したら受け入れられた。近所の個人経営の焼肉屋に行った。ちょっと高いけど美味しかったし親切だった。昼も夜も肉ばかり食べた。サイは帰り上機嫌すぎて連れて帰るのが大変だった。胃が重い。


7月23日(日) 曇り
前から決まっていた出かける予定があった。行きたいけれどまた人に迷惑かけたらと思うと無理かもしれないと昨日の夕方まで考えていた。でも夕方出かけて芸術に触れて私は救われた。サイも喜んでいた。だから今日も力を振り絞って出かけた。出かける前Kに部屋が汚いけどいつ片付けるんだと言われたが無視した。結果としては本当に楽しかった。サイも心の底からはしゃいでいた。でもまた好きな人に嫌な思いをさせていたらどうしようという思いも浮かんだ。今後一切どこにも出かけず誰にも会わずにひっそりと死んでいった方がいいのではないかと思い始めた。いや、それだとサイが可哀相だ。だめだだめだ。サイのために出かけて毎日生き続けなければ私もサイも廃人になってしまう。
帰宅してどっと疲れて買い物に行けず、また冷凍庫の肉を焼いた。肉ばかり食べて何になるんだろう。胃もたれした。ビールを飲んだ空き缶1缶をKが帰宅するまでに捨てるのを忘れて見つかった。どうしよう怒られると思ったが怒られなかった。でも夕食をあまり食べないでいると「ビールのんだからでしょ」と嫌な感じで言われた。そういうところが嫌いだ。いちいち言わなくていい。

サイと入浴後、貧血でしんどくてサイの就寝準備は全部Kに任せた。貧血をすぐ起こすからお風呂も温泉も実は苦手。

濡れた髪も乾かさず布団に転がった。Kの下手な歯磨きを嫌がるサイの断末魔の叫びが聞こえてきた。ごめんねサイごめんね。サイが寝室にきてそのまま深夜まで一緒に寝た。深夜に起きてまた嫌なことを考えた。

実生活でも逃げ場でも何もかも崩壊し腐敗していて、そもそも全ての原因が自分にある、自業自得だと考えると自分の存在がゴキブリが這い回るゴミ屋敷みたいに思えてきて、何にも可笑しくないのにゴミ屋敷の中に入れないニュースを思い出して可笑しくなった。好きなものまで壊してしまってこの先もうどうしたらよいか分からない。今一番救いが欲しいのに自ら救いを破壊して拒否している。

買った絵が早く届いてほしい。救いがほしい。