カニ日記

息子の成長と日々の記録

君が夕焼けで泳ぎたいなら

5月28日(月)

カニパン。バタバタ出発。午前中でバタバタ退社。時間がなく小諸そばで立ち食い蕎麦。いつ行っても女性客がいない。気にしないが。小諸そばの店員が着ている刺繍入シャツが可愛い。

午後から保育園でクラス懇談会。一年に一度あり、園児の普段の様子をビデオや写真で見せてもらったり、親同士で意見交換したりする会。これだけは毎年出るようにしている。園児達が別の部屋で昼寝している間に行われるので教室に入ると園児用のテーブルと椅子が設置され名札が置かれていた。テーブルごとに5,6人の親が座るようになっている。それが6テーブルほど。数分前に着くとほとんどの親が着席していて、私のテーブルの親達も和やかに談笑していた。こういう時に私はまずは入っていけない。挨拶だけし園児用の椅子の窮屈さに戸惑いつつ黙って他の親が話すのを眺めていた。

まもなく先生が話し始めてほっとしていたら「ではまずは自己紹介をお願い致します。お名前とお子さんの可愛いと思うところをお一人ずつお願いします。」と言われてげっとなる。大勢の前で話すのが嫌いなので自己紹介が苦手だ。名前を言うだけならまだしも何かコメントしろと言われるのが一番苦しい。幸い順番は後の方だった。Kくんのお母さんは「お腹がでているところが可愛いです」と言い笑いを誘っていた。上手い!と思った。上手い下手ではないが、こういう時いかに端的に分かり易く言えるかどうかなのではないかと思っている。他のお母さんは「全速力で走って来るのが可愛いです」「歌ったり踊ったりしているのが可愛いです」「ママかわいいって毎日言ってくれるのが可愛いです」うーん。何を言おう。全部可愛いに決まっている。「イヤイヤ期で特にないです」と言っている人がいてそれは悲しいなと思った。まとまらないまま自分の順番がきて、「最近ピンク色が好きで。可愛いものやキラキラしたものが好きです。プリキュアも好きです。お化粧もやりたがります。」と可愛い物にときめいているサイが可愛いということを伝えた(つもり)。可愛い物が好きってそれ自体可愛いと思うから。意外そうに笑っていた親もいたが、好きだと思う物に男も女もない。好きなものは好きで良い。

それからビデオや写真で普段の園での様子を観て、サイはあまり写っていなかったが他の子の姿を観て泣きそうになった。でも恥ずかしいので堪える。最近、涙腺が緩い気がする。老化か。次にテーブルごとにそれぞれの悩みを打ち明け合う時間となった。私はまた黙っていたが、求められると一応意見した。「絵がうまく描けていないのが心配」と嘆いているお母さんがいて、申し訳ないが心底どうでもいいと思ってしまった。サイも他の子に比べてきっと上手くない(他の子が描いた絵を見て線や形が出来すぎていてびっくりしたことがある)が別に気にしたことはない。好き嫌いがあるし、そもそも絵が「上手い」ってなんだよとちょっと苛立ってしまった。3歳にして親に絵が上手いとか下手とか大人の主観で決められるなんて、私が子どもだったら悲しくてもう二度と描きたくなくなる。幼稚園受験だとこういうのあるんだろうな。円が描けますか、線が描けますか、とか。早い段階から義務教育までとにかく規定に沿うばかり求められるときっと子どもは自由や発想力を失っていく。いつの時代だ。私が通っていた幼稚園は正にそんな感じだったので、幼稚園に行くのが苦痛で居場所がなかった。だから私はサイがよく分からない絵を描いてきても全力で褒めるし本気で良いと思っている。

最後に園長の挨拶などがあり、サイがいつも食べているおやつを試食した。バナナケーキだった。園長が「お味はいかがですか」と言い親が「おいしいです」と返す中、私の好きな性格の悪い保健師さんが苦々しい顔で横から「私はバナナをケーキに入れるのなんて絶対嫌ですけどね」と彼女らしい捻くれたコメントをし、親達の笑いを誘っていた。この人やっぱ好きだなぁと思った。いつも不機嫌な話し方をするので最初はなんて性格の悪い人だと思ったが、その素直さというか大人気のなさがだんだん好きになってきた。仲良くはなれないと思うが。昼寝から起きたサイ達が教室に戻り、サイがおやつを食べるのを横で付き添ってから一緒に園を出た。

まだ明るかったが気疲れしていたので知っている親に軽く挨拶するくらいでそれ以上のことはしなかった。こうやって早く終った日は公園で遊ぶこともあるが、幸い誘って来る人もいなかった。なのでサイと二人で薔薇を見に行った。毎年この場所で見るのがお決まりだが今年はまだ見れていなかった。枯れて切られているものもあったが様々な色の薔薇が咲いていて綺麗だった。サイが去年より落ち着いていたので薔薇の名前と解説をじっくり読んだ。匂いもそれぞれ違ってフルーツの香りがする薔薇もあった。お花はいい。それから売店でアイスを買いベンチに並んで食べた。緩やかな時間だった。サイはいつか大きくなって私とここで薔薇を見てアイスを食べたことも忘れるだろう。でも何かしら記憶の断片に残ってくれたら嬉しいなと思った。予防接種をしてから帰宅。平日に時間があると色々なことができる。夕食はズッキーニと豚肉の青じそポン酢炒め、トマトとアボガド、冷奴。サイはズッキーニを切っている段階から嫌がって、「これたべないからね」と念押しされた。夕食後、就寝。


5月29日(火)
今朝もカニパン。「そんなに美味しくないけど可愛いからいい」と二人とも思っている表情で食べた。サイは私が昨日飲んだサイダーの瓶に牛乳を入れて飲みたがった。仕方がないので入れて渡すと愛おしそうにしていた。

最近お迎えに行く時、平和な国(教室)の陣地に乗り込んできた弱い敵というスタンスで迎えに行っている。お迎えに行く時に小芝居する人は私以外いなくて、他の親は「お迎えに来ましたー」と言いながら明るく扉を開けるのだが、それがどうも恥ずかしくてできない。まず窓からそっと覗いてサイを確認してしまう。サイが私に気付く瞬間を見たいのかもしれない。レンジャーにはまっているからかサイが戦いモードで部屋から出て来るのが面白くて、じゃあ私は弱い敵になろうと窓越しにサイと目が合った段階で「ついに見つけたぞ」というちょっと悪い表情をすることにした。するとサイが窓まで駆け寄ってきて来たなーとレンジャーっぽいポーズを構え私も謎のポーズで応対する、そして二人でじりじり扉まで行って決戦、という小芝居に最近はまっている。先生はそれを急かすでもなく見守ってくれる。よく考えると普通にお迎えに行くよりよほど恥ずかしいのだが。

いつも通り庭園で走り回って帰宅。魚岸揚げにチーズを乗せて焼いた。サイは魚岸揚げが好きだったはずなのにチーズが嫌だったのかほとんど食べなかった。でもアイスで釣ると野菜は何とか食べてくれた。食後に二人でアイス。それから久しぶりにアンパンマンを観た。もう好きじゃないかと思っていたので自分から観たいと言ってくれて嬉しかった。マグカップに絵を描くワークショップを開いているマグカップマン(色んなのがいるなぁ)の元でドキンちゃんにプレゼントしようとバイキンマンドキンちゃんの顔を描いたマグカップを作ったが、うまく絵が描けなかったことで自信なさそうにそれを渡すラストが本当に良い。ドキンちゃんはもらったカップを持ってふーんという顔をした後文句を言うのかと思いきや「おちゃにしよっか?」と言う。それがとてもいい。バイキンマンドキンちゃんの意外な反応に驚いて「ハヒー」と言うのだが、それも可愛い。サイはこの最後の部分が理解できなかったらしく、なんでバイキンマンは「ハヒー」って言ったの?と聞いてきた。だから二人の感情を説明した。「ハヒー」には驚きと喜びが混ざっている。台詞を聞き流さずにどうしてここでこういう反応をするのだろう、と引っかかってくれたのは嬉しい。

お尻が大きいのが嫌だなーと気にしていたら「おくすりのんだらいいじゃん」と提案される。「そんな薬あるの?」「うん、サイくんのおしごとにうってるよ」「(え、やばそうな職場…)高いんじゃない?」「にひゃくえん!」「えええ!安いね!」200円で小尻が手に入るなら即購入したいと伝える。自社製品に自信満々のサイ。ペンギンのおしごと(過去日記参照)は確か倒産したから別の事業を始めたのか。入浴後、就寝。


5月30日(水)
朝。バナナとコーンフレーク。バタバタ出発。自転車に乗りながら私がプリキュアの曲を適当に歌っていると歌詞が曖昧なことに苛立たれる。ちゃんと覚えておかないとな。

昼。こぶしファクトリーのCDを会社の先輩に貸した。気に入ってくれるといいな。こぶしのどこがいいか、ひたすら一方的に語ってしまった。追加公演が発表されたので、6月のライブに行きたくてきりきりしている。

夜。雨。珍しく朝雨カバーを持って出た。偉い。とはいえ他の人にとっては普通のこと。サイと朝、帰りにコンビニに行く約束をしていた(プリキュアの玩具付菓子が欲しいとのこと)が、雨だから黙って寄らずに帰ったらちゃんと覚えていて「コンビいかなかったね」と悲しそうに言われた。「雨だから行けなかったよ、また行こうね」と言うと納得したようだったのでほっとした。サイは未だにコンビニのことを「コンビ」と呼ぶ。こういう独特の呼び方は可愛いので特に直さない。

プリキュアの曲を聴きながら夕食を食べた。「このブロッコリー全部食べたらアイス食べていいよ」と言ったらいつも残す野菜を必死に食べていた。食べ終えた食器も運んでくれた。アイス効果抜群。毎日この作戦を実行するにはできるだけ小さいアイスを常備しておくのがいいかもしれない。お風呂で水鉄砲をした。水を補充するのが早いと怒られる。お風呂上りに昨日の話を思い出して「おしりのくすりかった?」と聞いてきた。「まだ買ってないよ、どこに売ってるんだろうね」「サイくんがおしごとからもらってきてあげるよ」「…う、うん、ありがとう」サイは今何の仕事をしているのだろう。


5月31日(木)
朝。昨日繰り返し聴いたことでプリキュアの曲をわりと覚えたのでミュージカルっぽく歌い踊りながら起こしてみたが眠かったのか反応は薄かった。でもにやっと笑ってくれた。コーンフレークとバナナ。

自転車に乗っていると急に「あおのしんごうがピカピカしたらきいろになるんだよね!」と言われる。「うんそうだよ。サイくんすごいね、そんなことも知ってるんだね。誰に教えてもらったの?」「カキモリさん」「えっ誰それ」「おしごとにいるおじさん」「えっ…」そんな名前の先生も知り合いもいないので完全にサイの空想上の人物だと思われるがカキモリさんが気になる。私は仲良くなれるだろうか。

帰り道、雨が心配だったが降られずに済んだ。夕焼けがきれいだった。くすんだ青い空に太陽が沈んでいき、下の方は絵の具で塗ったような鮮やかなオレンジ色だった。サイに「きれいだね」と言うと「おれんじいろだー!」と喜び「あそこにいきたい」と言われる。サイは蟻の巣に入りたいし夕焼けの中に飛び込みたいし、きれいだな面白いなと思ったものには何でも身体ごと向かって行きたくなるのかもしれない。それは可笑しいようで未知のものを己の身体で確かめてみたいという人間の本質をついている気がする。大航海時代の人だって海の向こうに何があるか分からないから船に乗って行ってみようと思った分けだし。分からない時はそこに行って確かめてみないと分からない。サイはいつもそういうことを教えてくれる。

夕食は手抜きで焼きそば。でも私は焼きそばが好きだ。お好み焼きも好きだ。美味しくできてサイもよく食べてくれたので、我ながら焼きそばの達人かもしれないと自惚れた。食後にまたアイス。最近アイスをお互いに少し齧った後、「あれ?アイスが減ってる!誰が食べたんだろう?」「サイくんのもない!」「アイスお化けかな?」「うん、アイスおばけだ」という白々しい演技を二人で毎回やるのが何故か定番化している。「アイスお化けかな」のところが一番演技力が問われる。サイはアイス食べたさが過ぎて、夕食前に昨日の残りの野菜を冷蔵庫から勝手に出して食べていた。「野菜を食べるとアイスを食べる資格が得られる」と早くも学習して先回りしていた。なんと賢い子なのだろう(親バカ)。「ほらみて!!」と空のお皿を見せて俺はやったった感を見せつけてきたのがめちゃくちゃ可愛かった。

 
6月1日(金)
いつもより1時間くらい早く目が覚めたサイに「おきちゃった!」と言われたが「大丈夫だよ、まだ朝じゃないよ」と言った後、徹底して寝たふりをしていたらまたすーっと眠ってくれてほっとした。サイは今日もサイダーの瓶で牛乳を飲んだ。飲み口ぎりぎりまで入れないと怒る。ぎりぎりまで入れて運ぶと満足そうににやにやしていた。

打ち合わせで求められていることがよく分からず困る。何か指示された場合にはっきりしないまま仕事を進めていき、後で相違があるのが本当に嫌なので相手が何を求めているのか最初からきっちり確認しておきたい。上司でも誰でもよく分からないと思ったら質問するし、おかしいと思ったら遠慮なく意見するのでやりにくい奴だと思われているかもしれない。性格なのか、つべこべ言わずにやる、というのがどうもできない。入社して何年も経つのにまだ人に指示されたことをやっているのもどうなんだろうと電車に乗りながら考えた。

帰りに時間があったのでずっと憧れていて行ってみたかった古着屋さんに寄り、可愛いワンピースを買った。夏休みみたいなワンピース。早く着たいな。古着はもちろん、置いてある小物も全部可愛くてうっとりした。どこかの国のお土産品らしい、透明のプラスチック容器の中に水が入ってピンクと水色のイルカがぷかぷか浮かんでいる置物を気に入ったが売り物ではなかった。でもいつか売り物になるかもしれないからまた見てみてくださいね、と店員さんに優しく言われた。基本的に対面の買い物が苦手なので店員さんが優しいと救われたような気持ちになる。


6月2日(土)
また朝からサイと頑張った。希望が見えた。でもその希望は同じくらいかそれ以上の不安を内包している。きっとうまくいくと信じたいしサイに不安な素振りを見せたくないが正直押し潰されそうだ。などと考えながらサイと行ったことのない公園でおにぎりとゼリーを食べた。広くて緑がたくさんで天国みたいな公園だった。青空から降り注ぐ日差しがきつかった。よく分からない鳥が鳴いていた。少し年上の小学生くらいの子が数人、給水場所の水を真上に吹き出させたりお互いに向けたりして服を濡らしてゲラゲラ笑い転げていて、あぁいつかこんなことあったなと懐かしくなった。私が過去にそういう経験をしたのか、ひとつの光景として傍観していたのかそれは定かでないが。サイは羨ましそうに少年達を眺めていた。彼らが去った後、一人で蛇口をひねって水を吹き出させ少し服を濡らしてにやにやと満足そうにしていた。そこに絶対入れないけど自分もやりたい気持ち、分かるなぁとサイの濡れた服に失笑しながら思った。それからサイは誰かが乗り捨てたキックボードに執着していた。知らないお兄ちゃんのだから触っちゃダメだと言っても聞かず、元あった場所から動かして乗っていた。「サイくんのなの」と言って持ち帰ろうとするので説得するのが大変だった。帰宅して昼寝。手抜きの夕食。うまくいくのだろうか。全部ダメになって地獄を見るのだろうか。やるしかない。


6月3日(日)
最近週末は私のやるべきことに付き合わせて、サイをどこにも連れて行ってあげられていなかったと思い、今日は余計なことは考えずサイとサイの好きなことをして遊ぼうと決めた。一日くらい何も考えない日にしたかった。前に行きたいと言っていたので、東京ドームの近くでやっているルパンレンジャーVSパトレンジャーのヒーローショーのチケットの当日券を起床直後布団の中で購入。普段ライブに行っているおかげで、スムーズにEチケットを取ることができた。出発して最寄駅まで歩いていると「ルパンレンジャーみたくない」などと言われて困ったが本心でなさそうで安心する。後楽園に着いたら先に昼食を食べることにした。サイはショーのことで頭がいっぱいでお昼ごはんに関心がなさそうだった。なので目についたパン屋のテラス席で食べた。パンを選びながら「あぁビール飲みたいな、でも今さらお店変えられないし…」などと一人で悶々としていると何とビールがあった。アンデルセン最高。子連れの外食は食べたいものを基準にお店が選べず、大抵パン屋やチェーンの軽食になる。でもそういうところにもちょっとしたアルコールを置いてくれたら嬉しい親は少なくないのではないだろうか、と思うのは私だけだろうか…などと考えながらテラス席にサイと座りビールを飲んだ。ジェットコースターで悲鳴を上げる人達を眺めながら飲むというのは新鮮だった。それから二人でショーの会場に向かう。

会場は東京ドームの側にあり、座席数も多くて予想上にしっかりとした屋内型施設だった。有料の握手券があったのでサイが喜ぶだろうと思い課金。500円。撮影券は売り切れだった。握手券にはサイン付とあったので何だろうと思っていると、厚いブロマイドのような紙にレンジャーのサインが筆っぽい文字で印刷されていた。複数でルパンレンジャーなのに「ルパンレンジャー」って書いてあるの、どう考えてもおかしくないか。「The Beatles」って書いてあるようなものだなと思うと笑えた。人だかりがあったので待っていると、入場開始前にルパンレッドとパトレン3号(ピンク)が現れる。サイは放心状態みたいな顔で見つめていた。いい場所にいた子ども達は接触していた。二人のレンジャーは入場の時にも入口にいて、入場する子ども達とハイタッチしてくれた。サイはピンクとタッチした後、なぜかレッドとはハイタッチせずスルーしていた。後で聞くと、タッチしたかったが他の子が来てタイミングを失ったと言っていた。そういうこと、あるよね。

座席に着いて待っているとレンジャーの容器に入ったポップコーンを売る人がまわってきてサイにねだられる。でも終わった後に絶対何か欲しがるだろうと予想し買わなかった。子どもはすぐに飽きるのでゴミになりそうなものはなるべく買わない、を最近のモットーにしている。ショーは30分ほどの短いものだったがなかなか見応えがあった。私もこういうのは初めて観た。いや幼少期に観たのかもしれないが記憶にない。運動神経が悪いため、戦うヒーローの動きが昔から憧れだった。特に女の子のレンジャーが好きだった。かっこいいなぁと眺めていた。サイも集中して観ていた。ルパンレンジャーに扮した敵がパトレンジャーを騙し攻撃するという設定などなかなか面白かった。敵が本当の姿を現すシーンで、テレビならデジタル処理できるが舞台なので暗転して役者がさっと入れ替わるところとか、アナログな演出がよかった。10メートル以上ある高所から舞台に開いた穴に飛び込んだり、ワイヤーアクションがあったり、消えたレンジャー達が突如客席の上から舞い降りてきたりエンターテイメントとしても楽しめた。サイもテレビとは違う臨場感のあるレンジャー達を見て、声を上げることはないが真剣に見つめていた。

終演後、再びBGMと共にレンジャー達が登場して舞台上に一列に並び順に握手会となった。握手の様子は撮影して良いとのことだったのでサイが握手していく様子を動画で撮影した。その時も後で動画を見ても、サイは終始無の表情で少しも嬉しそうな気配がなく、一体どこを見ているのか空虚を見てできるだけレンジャーと目を合わせないようにし、工場で弁当を詰める人のように流れ作業的に握手していた。その様子が可笑しくて私はにやにや見ていた。どんな心情だったか聞くと緊張していたとのことだった。好きだと目を合わせられないの、分かるなぁと思った。

握手会後、緊張が解けたのか始まる前にサイが目をつけていたお土産屋に直行し、たくさんのレンジャーグッズが並ぶ中、ルパンレッドが持っている何とかトリガーというよく分からない武器を別売パーツと共に買わされた。今日は何か買ってあげようと決めていたので値段は気にしないようにしていたが、欲しいと言われた合体するロボットはさすがに高すぎたので断った。子どもに武器を買い与えることに最初は抵抗があったが、レンジャーになりたい純粋な気持ちを優先し変な拘りを失くすことにした。店を出てサイは玩具を早く開封したくて、私は喉が渇いていたので二人で無言で彷徨い、良い感じの場所がなくサイのイライラがピークに達した時、飲み物のスタンドを見つけたのでタピオカミルクティーとオレンジジュースを買い日陰に腰掛けた。サイは早速開封した何とかトリガーに別部品をセットし、攻撃音を口から発しながらレンジャーになりきって満足そうにしていた。サイは合体とかカスタムとかそういうのが最近好きだ。私は機械物や立体物が苦手なので何がどうなっているのかよく分からなかった。疲れたのではしゃぐサイの横でタピオカを噛みながらタピオカってこんな味だったけと考えつつぼんやりしていた。

それからラクーアのお店をちょっと見たいなと思い「お買い物に着いて来てくれる?」と聞くと意外にも機嫌良く「いいよ!」と答えてくれたのでこういう風に二人で出かけられるようになるとはなぁと少ししみじみした。いいよと言ったもののサイは店内で走り回ったり声を上げるので落ち着いて見られなかった。でもクレアーズで一緒にこれ可愛いねと言いながらイヤリングを選んだり(サイも欲しいと言われたが今日は玩具を買ったので説得して辞めさせる)、三足千円の靴下屋でそれぞれ好きな靴下を選んだりデートみたいで楽しかった。今まではどこかに連れて行くという感覚が大きかったが、だんだん一緒に楽しんでいると思う瞬間が増えてきた。当然いつか親と並んで歩くのが恥ずかしくて出かけるのを拒否される日がやって来るだろうが、それまではこうやって一緒に楽しみを共有したい。

最後にずっと乗りたかった観覧車にでも乗ろうかなと思ったら乗り場まで行く途中で拒否される。私達は意見の合わないカップル…。じゃあ帰ろうかと思ったらサイは何かしたかったらしくゴネ始めて駅まで歩かない。「ぽよんぽよんのやつやりたいー」と言われ何かと思ったら、ラクーアの広場で体験できるワイヤーで釣って空中に高く飛べるトランポリンのことだった。まさかと思い「ルパンレンジャーがやってたから?」と聞くと「うん」と答える。サイはショーの感想をほとんど言わなかったが彼なりに感動していたことがこの時初めて分かった。体験料の千円は高いなと思ったが、サイが自発的に何かやりたいと言ったのは初めてだった気がしたのでやらせることにした。サイの前の少し大きなお姉ちゃんは空中に飛ぶのが怖かったようで途中で辞めていた。怖がりのサイはどうかな、本当に大丈夫かなと見るとやる気に満ちた顔をしていた。まもなく順番が来て一人でトランポリンまで行き、係のお兄さんにワイヤーとヘルメットを装着してもらう。それからポーンポーンと空高く舞い始める。最初は真顔だったが、空高く飛んだ時、サイは満面の笑みをしていた。こんなに笑っているサイは見たことがないというくらい楽しそうだった。にーっと笑いながら空高く、それこそレンジャーのように飛ぶサイを見て、私は幸せで満ち足りた気持ちになったと同時に僅かに寂しさを感じ、なぜか涙が込み上げてきた。サイは今日の日のことをいつか忘れてしまうだろうが、私は死ぬまで覚えていて年老いても思い返したりするのだろうなとも思った。

電車に乗って帰宅し、夜まで眠って夕食を食べてまた眠った。楽しかったね。君は君だけの楽しみをこれからもっと見つけてほしい。私も見つけるから。