カニ日記

息子の成長と日々の記録

サンドイッチとか火星とか終戦とか

7月30日(月)
休みを取り朝から家電を買いに行く。買ったのは冷蔵庫・洗濯機・電子レンジ・炊飯器・掃除機・扇風機・テレビ・レコーダー。家電にこだわりがないのでそれぞれ5分ぐらいで決める。型落ち品や中古品も入れて大分安く抑えた。好きな洋服だと迷ったりするが、興味がないものに対しては決めるのが早い。担当してくれた中国人と思わしき店員さんはとても真面目そうで仕事ができそうだった。

お昼にローストターキーのサンドイッチを食べた。美味しかった。私はパンがトーストされているタイプの温かいサンドイッチが好きだ。ターキーを食べると留学中ホームステイしていた家でクリスマスに食べたチキンを思い出す。パサパサしていてあまり美味しくなかったのに肉の味がなぜか忘れられない。張り切っていたホストマザーの表情も何年経った今でも頭に焼き付いている。

夕食はサーモンのソテー、卵焼き、トマト、とうもろこし、ごはん。サイは鮭が好きなのでよく食べてくれた。おいしいねって笑い合った。


7月31日(火)
近所に住んでいる友人とある要件で数日前からやり取りをしていて、帰りの電車に乗りながら「またごはん食べに行こうね」と社交辞令でなく本当に行きたいなと思って返したら「今日はどう?」と聞かれて急遽会う事に。近所なのにずっと会わなくて連絡も取らなくて、思えば約一年ぶり。ふとしたタイミングで唐突に誘ってくれる人が私は好きだ。ちなみに関西人の「また」は「二回目」という意味ではなく、「今度」の意。無意識につかうとよく勘違いされる。帰宅して急いで晩御飯を作ってから家を出る。友人と一緒に友人行きつけのごはん屋さんでたくさん(全部美味しい!)頼んでお腹いっぱい食べてからコンビニで金麦を買い公園で飲んだ。夜は外で発泡酒を飲むのが結局一番心地良いのではないかと思う。私はその子が好きな人の話をするのを横でずっと聞いいて、苦しくなったり嬉しくなったりした。友人とまたね、と言って別れた帰り道、初めて火星を肉眼で観た。赤く光っていて、火星って本当に赤いんだなと驚きつつ人が人を好きになる気持ちは何よりも尊くて美しいなと思った。夜に人に会えるのもこれで当分ないだろうな。


8月1日(水)
今日から8月。この暑さは尋常じゃない。どこか地球外に来たようだ。保育園に行くと園児の圧倒的人気を誇るかわいいC先生が窓ガラスの内側にピンクの大きな模造紙を貼っていて、そこに緑のクレヨンで何やら描いていた。興味深そうにそれを見つめる子どもたちと一緒に私も見守った。先生が「これは海なんです…ピンク色しかなくて…」とはにかみながら教えてくれたのが可愛かった。ピンク色の海。いいなぁ。泳ぎたいなぁ。

夕方お迎えに行くと、朝は何もいなかったピンクの海に折り紙でできた鮮やかな魚やイカやたこがたくさん泳いでいた。サイはどこかに走り去っていなくなったので誰もいない教室で私は一人子ども達の描いた不思議な顔をした生き物たちがゆらゆら泳いでいるのを見ていた。サイは園庭で走り回ったり滑り台を逆走してはしゃいでいた。ねだられてコンビニでアイスを買った。

帰宅して汗だくだったので嫌がるサイをこわいトカゲが来るよ!と騙し騙し(最近トカゲに怖がる)二人でシャワー。昨日の残りの焼きそば。サイはあまり食べずトマトだけ。食後にアイス。ルパトレンジャーを観てから就寝。先にシャワーを浴びると時短になる。


8月2日(木)
夜中に起床して明け方まで荷造り。眠くなり二度寝したらいい時間にサイに起こされる。いつもなかなか起きないのに今日は「はやくおきてよ!」と叱られどちらが親か分からなかった。サイは昨日はあまり食べなかったメロンをおかわりした。C先生がいて紙の魚を持っていたので「すごくいいですね、ここにもっと魚が増えるんですか」と聞くと「いえ、残った魚は魚釣りにするんです」と教えてくれた。「イカとかたこもいてかわいいですね」と言うと「どこかにサイくんが作ったのもありますよ」と教えてくれる。でも先生は覚えていないようでサイに「どれかわかる?」と聞くとサイはピンクの海の中から「これ!」と自分が作ったたこを指さして教えてくれた。間抜けた顔でかわいかった。

今日は一段と温度が高く日差しがきつい。アスファルトからの照り返しがすごくて、これから私は炙り焼きにされて巨人に提供されるのではと思った。お昼に好きなハンバーガー屋さんでサンドイッチを食べる。月曜日にサンドイッチを食べたらここのサンドイッチが食べたくなったから。今日の日替わりはハムとアボガドだった。やったー。ハンバーガー屋さんは夫婦で経営されていて、男の子が一人いる。ふと店内を見るとサイよりもう少し大きい小学生くらいの男の子がお母さんにエプロンをつけてもらっていた。夏休みだからお店を手伝うらしかった。その姿を見て、あれ、ついこの間まで赤ちゃんだったのになぁと親戚のおばさんのように驚く。この子がまだ赤ちゃんで厨房でハンバーガーのパテを焼くお母さんの背中に負ぶわれていた姿が思い出された。会計時にお母さんに聞くと今小2らしい。ひええ。「赤ちゃんだったのに」と私が言うと笑っていた。あの時0歳だったとするともう7年も経ったのか、信じられない。二十代以降自分自身の中で時間の経過をあまり感じなくなった。頭の中で考えていることもずっと変わらない。なのに子どもがわっと成長しているのを見ると時間の経過が確かにあったことを急に実感してドキドキする。サイを見ていてもそう。夜中にカメラロールでサイが小さかった頃の写真を見ているとあれこんな小さかったのに(物理的な意味で)と自分だけ時間軸から置いていかれてしまったような寂しさを僅かに感じる。小学生になったサイはどんな風だろうか。今よりもっと色んな場所に一緒に出掛けられるだろうか。美術館とか博物館とかプラネタリウムとか。寂しいなんて言ってる場合じゃない。楽しみだ。


8月8日(水)
サイは朝手紙を渡してくれた。どこからか持ち出したらしいサンリオの封筒の中にルパンイエローのカードが一枚だけ入っていた。「わーありがとー!!」と言うと「おしごとにもっていってね」と嬉しそうにする。サイは私が好きな人や物をよく覚えていて、時々こうやって喜ばせようとしてくれる。可愛い。


8月15日(水)
終戦記念日。私にとっても冗談抜きで終戦。自分の人生の中で色んな時代があるとするならば、ひとつの時代が終わった。朝から困らないよう事前に自分で紙にメモしていた通りに一つずつ動いてお昼を過ぎた頃に無事全部を終えた時はこれまで一度も感じたことのない、言葉にならない達成感を感じた。

数日間手伝いに来てくれていた母が新幹線で地元に帰るので見送りに東京駅まで一緒に行き、大丸に入っているイノダコーヒーでビーフカツサンドとビールを頼んだ。窓際の席で東京のビル群をぼんやりと見下ろしながら食べたビーフカツサンドは今まで食べたカツサンドの中で一番美味しかった。以前京都に行った時、イノダコーヒーで絶対食べようと目論んでいたのだがいざメニューを開くと今これを食べるべきでないような気がして、その時は結局ハムサンドを食べた。ハムサンドも美味しかったがこの二千円もするカツサンドをしかるべき時が来たら絶対食べようと心の中で誓った。イノダはきっと関西人からしたらベタな喫茶店だし、今更取り立てて観光で行く場所でもないかもしれないが私はずっと大好きだ。あの雰囲気が。東京駅にあることは知っていたがタイミングを失ってまた今度でいいか、を繰り返していた。今日は絶対忘れられない日になるであろうと思ったので、ずっと食べたかったものを食べた。イノダが好きな母も気に入っていた。自分の分は自分で払うつもりだったのに母はこれからがあるでしょうと奢ってくれた。それから地下でお菓子を買って「サイくんと食べて」と持たせてくれた。母を見送った後、再び大丸に戻ってずっと欲しいと思っていたが買いに行く時間がなかったかわいいネコのリップを買った。ケースも、口に塗るリップの部分も猫の形になっている。とにかくかわいい。

夕方、お迎え。サイはMちゃんという今まであまり絡んだことのない子と園庭で追いかけっこのようにけらけら笑いながら走り回っていて、お盆だからか園庭には二人しかいなくて恋人同士みたいだった。走り疲れたサイが「つかれたからやすもうよ」とラブホテルに分かり易く誘う男のような口調でMちゃんを手を導いて二人で花壇の前で腰かけていた。Mちゃんのお母さんと初めて話した。Mちゃんはプリキュアが好きらしい。「うちの子も好きですよ」と言うと「へぇ男の子でも好きなんですね」と驚かれた。Mちゃんと共通の話題ができたと嬉しくなった私は「プリキュアすきなの?」とMちゃんに話しかけて推しを聞こうとしたら(おばちゃんはルールーが好きだよ、まで言う準備をしていた)Mちゃんは満面の笑みで着ていたワンピース風のTシャツをまくってプリキュアのシャツを見せてくれた後またサイと走り去った。お母さんによると、Mちゃんはプリキュアになりたいらしく、そういうワンピースっぽい服を着たり、髪を伸ばしているらしい。普段サイといると髪を結わいたり一緒にかわいい服を選んだりすることがないので女の子もいいなと思った。ないものねだりだが。

帰宅して夕食準備をしている間にサイは母がくれたお菓子を二つも食べた。それからこないだ気に入って買って届いたばかりの小さな白い天板のテーブルに二人で向かい合って座り、乾杯した。今日は記念日だからちょっと高いビールをコンビニで買ってみたらクセのある味で、普通にスーパードライでよかったなと思った。卵焼きが綺麗に焼けた。食後にサイとアイスを食べた。それから布団を舟に見立てて魚釣りごっこをした。めちゃくちゃ楽しかった。釣竿が欲しいというのでそこらへんにあった紐を渡したらミニカーとマクドのチラシをそのまま先端に結び付けるように指示された。雑な餌だ。「さめがきたぞー」と言ったあと自分で鮫になったり忙しかったが楽しかった。その後お風呂に入って寝た。サイは今日もルパンイエローとパトレン2号の人形をお風呂に入れて泡だらけにしていた。私は明け方まで眠れなかった。東京駅を歩いた時に受けたあの生暖かい風の感覚とその時の気持ちを一生忘れないだろうな、などと考えていた。


海が見たい。揺らめく水面や画用紙みたいな空がずっと向こうの先まで続いているのを見るといつも安心する。