カニ日記

息子の成長と日々の記録

放課後ミルキーウェイで待ち合わせをする人生があったならば

4月5日(金)
有休。もう残っていないと思っていたら意外にまだ残っていてよかった。ないと信じていたものがあった時はだいたい嬉しい。Fさんとひと月ぶりに会った。大阪に前泊して朝イチの新幹線に乗って来てくれたらしい。池袋で待ち合わせして、西武線に乗ってパーラー江古田へ行った。ずっと行ってみたかったパン屋さん。入口にたくさんのパンが並んだショーケースがあって店内は薄暗く古い民家のよう。資材やストーブが雑然と置かれ、何もない無機質な空間よりむしろ落ち着く気がした。店の人も親切だった。チキンと舞茸のオーブン焼きのサンドイッチがとてもおいしかった。朝からワインを飲んだ。Fさんは「草の味がします」と言われた癖のあるワイン、私は「爽やか」と言われたやつにした。平日なのにお客さんがひっきりなしにパンを買いに来ていて、早い時間なのに喫茶も埋まっていた。会計時、迷いに迷ってショーケースから持ち帰る用のパンを選んだ。店を出た瞬間、春の陽気が心地良かった。人がいなくて静かだった。小さな神社に咲いていた桜がきれいだった。ずっと地元にいて桜を見ていなかったFさんは喜んでいた。夕方別れてサイを迎えに行き、三人でファミレスで食べて帰った。いい日だった。

4月6日(土)
サイとFさんとまた代々木公園。お花見。簡単なお弁当を作り、あとはFさんにお惣菜とワインを買ってきてもらった。思いつきでオイルサーディンと紫蘇とチーズでおにぎりを作ってみたら美味しかった。唐揚げは味付けをやや失敗した。甘くなりすぎた。フライパンでやるとカラッと揚がらない。花見シーズンなので原宿駅も公園内も大混雑だった。大学生らしき人や家族連れ、たくさんの人がシートの上で飲食したり談笑していた。Fさんはサイとよく遊んでくれて、サイが買った雑誌の付録も組み立ててくれた。暗くなるまでずっと公園にいた。最後は少し寂しかった。途中駅でラーメンを食べてまた地元へ帰るFさんと別れた。駅で電車に乗る前、Fさんの姿が突然見えなくなったので別れの寂しい空気が嫌でぱっと消えてしまったのかと本気で思っていたらチャージしていただけだった。「帰ったのかと思った…」と言うと「そんなことするわけないよ」と言われた。


4月7日(日)
余韻に浸りつつ、ちょっと寂しいいつもの日曜日。


4月11日(木)
約一年ぶりに打ち合わせをしに本社へ行って、大したことをしていないのにどっと疲れた。知らない間に新しい高層ビルや橋が建設中だった。街はどんどん変わっていく。


4月13日(土)
マクドナルドでお昼を食べて(おまけがトミカでサイ喜ぶ)から、サイの希望でビックカメラに行き仮面ライダーのガンバライジングカードとブットバソウルメダル。ゲームが苦手な私も慣れてきた。なんでもやれば慣れる。今度は失くさないように気を付けた。それから屋上で二人でひとつアイスを食べてユニクロニトリと無印をはしごして生活用品やサイの洋服を買った。いつもニトリの入り口にいたペッパーくんがいなくなっていた。あの独特の大きな瞳を見開いて通る人を観察していたペッパーくんが跡形もなく消えてしまい、行く度に話しかけていたサイは悲しんでいた。歩き回って疲れたので地下の蕎麦屋で食べてから帰宅。ザ・生活という感じの一日。


4月14日(日)
サイが面会している間に池袋でAちゃんに会った。お腹は先月会った時よりもさらに大きくなっていて、当たり前だが中に人がいるのだなとしみじみした。Aちゃんとこうやってゆっくり話せるのもあと少しかもしれないと思うと一緒に歩いているだけで感慨深かった。西口のロサ会館にある洋食屋でオムライスとエビフライを半分ずつ食べて(私だけビールを飲んで)、その後なんとなく東口方面に歩いて行ったものの特に目的地もなく、通りがかったミルキーウェイで星座のパフェを半分こした。ずっと行きたかったけど入る機会を逃していたミルキーウェイ、メニューも敷かれた紙も全部かわいかった。紅茶のポットが星形だった。星のクッキーがのったパフェは甘くて若い味がした。色んな話をしてたくさん笑った。店内の騒がしさがかえって心地良かった。今度はサイも連れてきてあげたいな。

Aちゃんと別れて駅までサイを迎えに行くとサイは何か買ってもらったらしく興奮状態だった。スーパーで買い物して夕方帰宅。晩御飯を作ろうとしたら買ってもらったリュウソウジャーのミニプラを今すぐ組み立てるよう命令され、集中して作っていたら時間がなくなり晩御飯は簡単に済ます。ルパパトのミニプラは途中で部品を失くした上に壊れやすく再築不可能になってしまったので説明書をちゃんと見て慎重に組み立てた。プラモデルなんてやったことなかったから最初は苦労したが、繰り返し作るうちにコツが掴めてきたし完成したら嬉しい。サイがいなければ触れることのなかった世界。サイは完成した合体ロボットをえらく気に入ってパーツを何度も付け替えていた。

サイが寝てからrajikoで毎週楽しみにしている「前野健太のラジオ100年後」。実際のオンエアは9時だがその時間はサイが起きていて聴けないのでいつも寝る前に聴く。それがまたいい。日曜の夜の、さあ明日からまた一週間という少し憂鬱で寂しい時間。目が疲れて映像や活字を取り込む余力がない時もラジオならすっと入る。冒頭で、先月私が初めて番組に送ったメッセージを全文読んでくれて感激した。自分の書いた拙い文が一字一句読まれている恥ずかしさと長すぎることに対する申し訳なさがありつつやっぱり嬉しくてドキドキが止まらなかった。「こうやって言っていただけてありがたいですね」「歌うのは趣味なのでこれからも歌いますよ」と言ってくれて嬉しかった。ラジオネームを何回も呼んでくれた。興奮したのでその後の内容があまり頭に入ってこなかった。前野さんの声でいつも安眠できるのに今日に限っては眠れなくなってしまった。

それにしても、好きな人が自分の書いた文を声に出して読み上げるというのは相当興奮するということがわかった。これも性癖なのだろうか。頷いたり返答してくれると会話しているような気にさえなる。ずっと遠く離れた場所にいるのに秘密の交換日記を交わしている関係のような、不思議な感覚から生まれるドキドキを誰に言うでもなく一人毛布の中で噛み締めていた。また出そう。今度はハガキで。

描くことは生きること

3月25日(月)
帰宅してごはんを食べようとしたら、サイが棚に置いてあるZくんのプレゼントを開けたいと言い出した。プレゼントだからダメだよ、と言うとわっと泣きだして、それからわんわん大声で泣き叫ぶ。あれはZくんのだから開けられないよと言い聞かせたり、今度の休みに同じものを買いに行こうと宥めても一向に聞いてくれない。「サイくんいまおんなじのがほしいの!!」「あれをあけたいの!!」と顔をゆがめて鼓膜が破れそうなほど大きな声で叫びながら涙を流し続ける。抱きしめても、何をしてもダメで途方に暮れる。怒らないように気をつけて真剣に話しても理解してもらえず、どうしたらよいのかわからなかった。結局どうしようもなく、最後は放っておいてサイが泣き叫ぶ中、私だけ黙々と晩御飯を食べた。途中でヤマトからAmazonで頼んだサイの靴と読書灯が届き、読書灯のスイッチに興味を示してようやく泣き止んだ。それからはもう泣かなかった。こんなに泣き続けたのは久しぶりだったのでさすがに困ってしまった。

仮面ライダーフォーゼを観てお風呂に入って、サイと二人で倒れるように眠る。


3月26日(火)
お気に入りの春のコートを職場に着て行きたくなくて、まだ冬のコートを着ている。が、さすがに暑い。今日はアボガド・ハム・オムレツのサンドイッチ。

退社後、肌寒いが確かに春の空気を感じて、一体自分はいつまで冬のコートを着ているのかとさすがに思った。駅を出たところの広場のような公園のような場所の桜は日光がよく当たるのか他の場所より早く咲く。もう7分咲きくらい。スーツを着たおじさんがコンビニの揚げ物を片手に、もう片方の手に缶ビールを持ってちょっと疲れた表情で宵の空に浮かぶ桜を見つめていた。お花見の形は色々あると思うが、毎年一人で立ったままぼんやり桜を見上げている人を見かけるとぐっと胸にこみあげるものがある。花と向き合う時の静寂や孤独に愛おしさを感じる。私も缶ビールを飲みつつゆっくり花を眺めたいところだったが、お迎えに行かねばならないので、自転車でさっと通り過ぎた。

冷蔵庫にあったのは、豚肉の残り、キャベツ、たまねぎ。サイが嫌がらないようにキャベツとレンジで柔らかくした玉ねぎ、その上に焼肉のたれに漬けた肉を載せ蓋をして弱火で蒸し焼きにしたら思いの他美味しくできた。肉も直接焼かないと柔らかかった。新玉ねぎだともっとおいしいかもしれない。いつも嫌がって玉ねぎを一切食べてくれないサイがよく食べてくれたので嬉しかった。食べてくれると料理する意欲も湧く。サイがなぜか最近関心があるらしいニンニンジャーを観ている間に食器洗い、洗濯。

ひと段落してAmazonで買ったマエケンのCDをパソコンに取り込もうとしたら「サイくんやる!」とCDを入れたがる。変身ベルトのように、何かを別の何かにセットしたり、はめる動作がサイは大好き。「ここに音楽が入ってるから、裏側は触っちゃいけないよ」とディスクの裏側を見せて言うと「ここにはいってるの?」と不思議そうにしていた。それから一緒に聴いた。『ファックミー』の最後に入っている、「牛」という牛の声だけ収録した歌のない曲をサイは面白がってげらげら笑っていた。

お風呂に入って就寝。昨日届いた読書灯で本を読もうと思っていたが、布団に入った瞬間眠っていた。サイにもいつそれ使うの?もう使った?いやまだ…とやたらと気にされた読書灯、いつ出番がくるだろうか。


3月27日(水)快晴、絶好の散歩日和
いよいよ春の気候なので、観念してスプリングコートをまとう。家の前の桜の花びらが歩道に落ちていて、帰りに拾おうとサイと約束する。昼はハムアボガドオムレツのサンドイッチ。帰りは料理する気がおきず、ついでにお酒も飲みたかったので、いつもの中華屋で食べて帰ることにした。サイは「チャーハンもたべれるからこっちのセットにして」といつもはラーメンだけなのに、ラーメンにチャーハンがついたお子様セットを頼むように言う。私はハイボールと適当なつまみ数品。運ばれてきて、「ねぎだってたべられるよ」とパクパク食べていてすごいねー!と私が驚いていたら数口食べて「やっぱりむり…」と手が止まり、結局残りは私が食べた。最近野菜もよく食べるし、ひどかった偏食が少しおさまってきた気がして嬉しい。家に入る前に歩道を見たら花びらはすっかりきれいになくなっていて、「だれがおそうじしたのかな」とサイは落ち込んでいた。洗い物がないので、アイスを食べながらフォーゼと鎧武を観た。お風呂に入ってから大森さんのラインライブを途中まで観た。サイが聞き取って気になった歌詞の意味を聞かれて、成長を感じた。

深夜、Fさんと電話。なんとなく流れで、過去の恋愛の思い出をお互いに発表した。詩みたいに美しい話を聞いた。嫌だとか全然思わない。むしろ、聞いているうちにFさんのことが好きだった女の子に対して自分が同情なのか恋愛感情なのかよくわからない淡い想いさえ抱いているような気がした。私は話せるきれいな思い出なんて少ないなと思いつつ、高校生の時片想いしていた人と数年後同窓会で再会した話をした。「〇〇さん、すてきな人だよね」と自分のことを急に言われたので、「すごい性格悪いよ」と返したらそれでもいいよと言われた。Fさんは映画の台詞みたいな言葉をときどき真面目に言う。そういうところが私は好きだ。「過去は過去だから追及しようと思わない。それより今が大事かな。」と言っていた。そのとおりだ。


3月28日(木)晴れ時々曇り
掃除されてしまう前に拾おうと、朝家を出て保育園に行く前に落ちている桜を拾った。花びらが揃っていて汚れのないきれいな花弁。「それ、女の子にあげるといいよ」と私が言うと「え、なんで?」と不思議そうにしていた。結局自転車に乗っているうちに花びらが吹き飛んでしまい、悲しんだサイは残った花を私のかばんに突っ込んだ。

お迎え。サイが0歳児の時に担任だったO先生が新年度から別の保育園に行くので、挨拶をした。サイの担任をしてもらっていた時はO先生は保育士になって初めての年で、よくベテランの先生に叱られていたのを目にした。「0歳の時からずっとありがとうございました」と言うと、「あの時は小っちゃかったサイくんが…」とか「あの時は私もまだ保育士になったばかりで…」などとお互いに感傷に浸っていた。あれから4年、あの時寝がえりもできなかったサイはこんなに大きくなった。いつも怯えたような表情をしていた0先生も今では自信に満ちた顔で子ども達を見ている。目が大きくてアイドルみたいな先生。次の場所でもきっとうまくいきますように、と親なのか友達なのかよくわからない目線で先生のことを想った。

Yくんがリュウソウジャーのリュウソウル(おそらく変身の時に使う騎士から恐竜に変形する手のひらサイズのアイテム)を持っていて、サイは羨ましそうに眺めていた。Yくんはうちと同じように一人っ子で、何でも買ってもらえるのか毎日違う玩具を手に通園している。欲しいものはあまり我慢させず買い与えているようだ。人の子育てのことをとやかく言いたくないが、うちは同じようにはできない。でもサイはYくんが持っていると「Yくんがもってたからサイくんもほしい!」といつも言う。困る。あれもほしがるだろうなと先回りして読んで、Yくんのお母さんにどこに売っているか聞いたらコンビニで買えるという。それほど高くなさそうだったので、「サイくんもあれほしい?」と聞くと目を輝かせていた。話に聞いたとおりコンビニに売っていた。サイは嬉しかったらしく、家に帰っても寝る前もずっとそれで遊んでいた。大事にしてほしい。晩ごはんは豚バラと大根の甘辛煮。大根を酸っぱいと言ってあまり食べてくれなかった。

なかなか眠れず、rajikoでマエケンのラジオを聴いたら、ここ最近自分に寄り添ってくれていた『3月のブルース』を歌ってくれて嬉しかった。前野さん自ら「ボソ語り」と呼ぶ、耳元で囁くように歌う弾き語りを深夜、布団にくるまりながら聴くのはとても心地よい。子守歌みたい。静まりかえった部屋でたった一人(正確にはサイが横で寝ているがお互い寝ている時は一人になれる)でこれを聴いていると歌声がじわじわと身体の先端まで染み渡り、毒素がふーっと抜けていく。やっぱりラジオっていいな。歌詞が気になり、CDを引っ張り出して歌詞カードをぱらぱらめくっていたら睡魔が訪れてそのまま寝てしまっていた。


3月29日(金)どんより曇り空 寒い
家を出て自転車に乗る前、サイが桜を拾いたそうにしていたので今日もきれいなやつを二つ拾った。サイは私のコートのポケットに入れようとしたが潰れるといけないので、マンションの一階の他人の家の窓枠にそっと置いた。「帰りまでここにいてもらおうね」と私が言うとサイは桜に「まっててね」と語りかけた。

お迎え。保育園のクラスが終わる日。新しいクラスでも今の三人の担任の先生のうち二人がそのまま持ち上がるので特に不安はない。それでも同じクラスの子が何人か転園する。昨日挨拶した0先生にもう一度挨拶した。サイは挨拶の途中でぴゅーっとどこかへ行ってしまった。こういう時、わりと照れるタイプなのかもしれない。金曜日だからか、一年の最後の日だからか、園庭はいつも以上に騒がしかった。家に入る前に朝桜を置いた窓枠を見たら二つともどこかへ飛んでなくなっていた。二人でもう一度拾う。

今日もドラえもんとしんちゃんはやってない。ビールを飲みながらしんちゃんを見てげらげら笑わないと週末がやってくる感じがどうもしない。


3月30日(土)
昼からZくんの家で誕生日会。行く前、プレゼントに添えるカードを作ろうと誘うと最初は乗り気でなかったが、Zくんの似顔絵を描いてくれたのでそれを飛び出すカード風にした。「Zくんだいすき、またあそうぼうね」と書けと指示されたので、言われるまま書いた。サイはもうプレゼントに執着していなかった。これは贈るものだと理解したらしい。えらい。

花屋に寄って花束を買ってからZくんの家へ。とても広くておしゃれでセンスが良く、入った瞬間驚いた。古いマンションの最上階を改装したらしい。高そうな最新のおもちゃがたくさんあり、Zくんの一人部屋もあった。私たちの他には、同じクラスのサイとも仲が良いHくんとお父さん、Zくんのおじいちゃん(外国人)・おばあちゃん、お父さんの仕事の同僚らしき人がいた。どうやらごく身内の誕生日会に呼んでもらったらしい。おじいちゃんが持ってきた外国の伝統的な甘いお菓子をおいしいと言ったらどうぞもっと食べてくださいと勧められてしまい私はそればかり食べていた。特に会話が盛り上がるわけではないので、私は子どもと遊んだりZくんのお母さんと話していた。サイはきれいな空間に目新しい玩具が山のようにあるという夢のような状況に興奮状態だった。Zくんのお父さんがサイとHくんにもプレゼントを用意してくれていて、それがサイからのプレゼントと被っていた。種類違いでシンカリオンのまったく同じ玩具だった。こういうことはたまにあるのだが、好みや選択が同じだったということは喜ばしいことなのかもしれない。サイは欲しいとあれだけ泣いていたものが手に入り満足そうだった。

話を聞いていたらZくんのお父さんがどこの国の人かようやくわかった。どこだろうがイケメンだし気が利く。自分はアルコールを飲まないのに常に私たちのビールのおかわりを気にしてくれていた。父親としてもすばらしい。Zくんが何か言っていてもすぐに察する。サイにも優しくしてくれて、サイはよく懐いていた。もう少し話してみたかったが自分のたどたどしい英語が流暢に英語を話す日本人の同僚にバレるのが恥ずかしく、なんだかあまり話せなかった。Zくんのお母さんも大らかで優しく、嫌味なところが一切ない。私はこの人が好きだなと話しながら思っていた。また遊んでください、今度はうちに泊まりに来てください、と言われて嬉しかった。

サイの夕飯まで御馳走になってすっかり暗くなってから帰る。私は帰ってビールを飲みつつ帰りに買った総菜を食べながら、生活にはある程度の余裕が必要だ…この家はあの家に比べてなんて汚くて狭いんだろう…と考えていた。自分が選んだとわかってはいても少し心が重くなった。今より良いところに住みたい、少なくともサイに部屋を作ってあげたい、それにはもっと稼がないと、ああどうすれば…頭の中がぐるぐるしていた。


3月31日(土)
サイは面会。その間に私は用事を済ませてから、渋谷のヴィレジヴァンガードでさいあくななちゃんのライブペインティングを観た。ななちゃんはこちらに背を向け、ディスプレイの狭い空間に立ってキャンバスに向かっていた。小さな細い身体で、絵具やパステル、水、ガムテープ、、色々な画材を使って筆だけでなく手もつかい全身で描いていた。完成かと思ったら大きな女の子の顔の上に切り離した白いスケッチブックを何枚も張り付けてまったく別の絵を描いたり、予想がつかなかった。「ライブペインティング」という名のとおり、まさに音楽のライブのようだった。何か音楽を聴いているのか、ななちゃんの身体は描きながらリズムを取って上下したり、走る前のマラソン選手のように助走運動しているようにも見えて、「描く」とは芸術であると同時に人が動いて初めて成立する身体運動なのだということを気づかされた。「生きることはそれ自体が芸術である」という大学時代の教授の言葉を思い出した。どんな芸術作品でも人の手がつくっている。それは呼吸したり食事したり、生活の延長にある、と確か教授は言っていた。最後にななちゃんは「生きる」という文字を大きく描いてライブは終了し、振り向いて少しはにかんで、オーディエンスに手をふったりお辞儀をして立ち去った。それからオーディエンス側に来てくれて、端にいた私がななちゃんと目が合うと一番最初に話しかけてくれたが胸がいっぱいでうまく言葉にならなかった。「今日はあの子、連れてきてないんだね」と悲しそうに言われ、放心状態だった私はすぐ何のことか理解できなかったが、あとで考えたらサイがいないことを気にしてくれていたのだと思う。サイにもいつか見せてあげたいな。

狭い居間のどこからもよく見える場所に額に入れたさいあくななちゃんの絵を飾っている。サイと行った個展でサイがこれがいいと言って買った緑色の髪をした女の子の絵。いつも生活を見守ってもらっている。サイと私の生活。私たちの時に楽しく時に怠惰な積み重ねの毎日がななちゃんの絵につながっているようで、生活が芸術とつながっているようで、いつも力強い気持ちになる。

春がきたから踊ってみようか

3月13日(水)
午後から東京芸術劇場にて舞台『世界は一人』観劇。上京したての頃、池袋の西口に行くのが怖かったが、今は何とも思わない。パンでも食べようかと思っていた西口公園は工事中で塀に取り囲まれていた。何やら立派な公園ができるらしい。よく晴れていて、暖かかった。バス停の横で下に座って将棋を打っているホームレスのおじいちゃんたちがいた。

チケット代が今の生活を考えると安くないから迷っていた。でも前野さんのラジオを聴いているとどうしても行きたくなり、数日前にチケットを取って休みを取って行くことを決めた。大人になってから劇を観るのは初めてだった。左右に突き出したバルコニー席だったので二階席でも俳優さんの表情がよく見えた。ミュージカルとはまた違い、会話と歌の境目が曖昧で、自由に行ったり来たりする心地良さに酔った。俳優さん達の言葉や歌、マエケンの歌声やバンド演奏が混じり合って新しい生き物が生まれ、大きくなったり小さくなったり呼吸しているのが目に見えるようだった。挿入歌がとてもよかった。マエケンが歌ったり語る姿を初めて生で観た。時にさざ波のように、時に嵐のように心臓の奥深くに迫ってきた。きっと私服であろう赤いチェックのロングシャツがとても似合っていた。松たか子はなぜあんなに歌が上手いのだろうか、濁っていた空間に声が溶け込んで透明になっていくようだった。瑛太は演技であることを忘れるほど台詞や動きが自然だった。歌もとてもうまい。松尾スズキは小学生を演じている時は本当に小学生に見えたし、お父さんの時はそう見えたし、ものすごい。三人とも彼らが演じる人物がそれぞれの人生で捨てられず古い毛布のように引きずってきた何かが見えた。過去は過去としてずっと側に横たわり、誰と関わろうと何に変わろうと引きずってきた何かは誰とも共有できない。人は孤独だということに対する諦めや肯定、僅かな抵抗と怒り。頭の中をさまざまな想いが駆け巡った。

長時間集中して、視覚聴覚をフル稼働しぎゅうぎゅうに詰め込んだせいか、終わってから眩暈と頭痛がした。休日は賑わっているが平日なのでほとんど誰もいない屋上でココアを飲んだり雀にパンをあげたりしながら観た劇のことを考えていた。夕方、お迎え。帰宅。頭痛がおさまらない。


3月14日(木)
相変わらず頭が痛いのでロキソニン。劇のことをまだずっと考えていた。後で読もうと思って買ったパンフレットが美しい。


3月15日(金)
頭痛おさまった。ドラえもんとしんちゃんの時間がやってくるとほっとする。


3月16日(土)
Sちゃんと娘のIちゃんとサイと私の四人で銀座に行った。最近毎週末遊んでもらっている。待ち合わせ前に本屋で仮面ライダーのガンバライジングカードの攻略雑誌を買わされる。マクドナルドでお昼を食べて行きたかった和菓子屋さんに寄ってから松屋シルバニア展へ。

想像以上に盛況で会場内は息苦しくなるほど大混雑だった。サイはギリギリ展示ケースに目が届く身長だったがIちゃんは届かないのでSちゃんがずっと抱っこしてあげなければならず、辛そうだった。サイと展示や美術館に行くとどうしても展示の仕方ばかりが気になってしまうから明らかに難しそうな場所には連れて行かないことにしている。藤子ミュージアムジブリは子ども目線で見られる展示が多かった。シルバニア展は子どもが多く来場するだろうから子どもの身長でも見やすい高さに設定してはどうだろうと少し思ったが、大人もたくさん来るだろうしそれはそれで難しいのかもしれない。シルバニアの世界は自分が思っていたよりも精巧かつリアルに作られていて、ドールハウスやミニチュアが好きな私は楽しかった。サイもかわいいねと喜んでいた。人が多すぎたのでじっくり観ることは諦めて30分程度で出た。

シルバニアの世界はファミリーというぐらいだから、両親が揃っていて子どもも二人以上いる「理想の家族」だ。ショコラうさぎさん一家、くまさん一家、動物ファミリーごとに違う職業を営んでいる。その欠けのない家族構成・就業状態に幼少期は疑問を持つことはなかったが、大人になった今なんとなく苦手に感じる。家族のいない独り身の無職の動物なんてこの世界にはいない。入ることを許されないのかもしれない。それって少し怖くないか。

そんなひねくれた感情で展示を見ていたら、妖精シリーズがあまりにもかわいくてときめいた。妖精は一人で家族がいないようだった。しかも他の動物のように職に就いていないようだった。ただそこにいるだけ。妖精、なんてかわいいんだ。廃盤らしく物販には売ってなかったのでメルカリで探してみたら高額だった。復刻してほしい。

人混みで疲れたのでその上の屋上でしばらく休憩。和菓子屋さんで買った揚げ饅頭がおいしかったがサイもIちゃんも食べなかった。おやつを食べてから二人は花壇の間をけらけら笑って走り回ったり、神社の水に興味深く近づいていた。そのうち、1歳くらいのよちよち歩きの外国人の赤ちゃんがいて、いつの間にか二人は三人になっていた。サイはお兄さんスイッチが入ったのか、腰を屈めて赤ちゃんの顔に自分の顔を近づけて「ミルクのみたいの?」としきりに聞いたり、しまいには自分のおっぱいを出していた。そんなサイの姿を見たのは初めてだったので驚いた。赤ちゃんがいなくなっても二人は他の知らない子どもとも遊んでいた。子ども同士の世界はすごい。空がどんより暗くなってきたので慌てて屋上から降りて駅に向かう。案の定、夕立があった。夕立がけっこう好きだ。明るい空から降り注ぐシャワーみたいな雨。最寄り駅に着いたらすっかり晴れていた。夕食は肉じゃが、じゃが芋抜き。

やっぱりいた方がいいんだろうな、と兄弟がいないことについて帰ってからもやもやと考えた。仕方ないけれど私といつも二人というのはサイにとってはよくないかもしれない。今日みたいに遊んでくれる友達がいることがサイも私も嬉しい。


3月17日(日)
日曜の朝はプリキュアが始まる30分前に起きるとちょうど良い。その前に朝食準備、洗濯機のスイッチを入れ、朝ごはんを食べながら三本(プリキュア仮面ライダー・戦隊)観て、終わってから洗濯物を干す。ということを毎週やっていたら身体で覚えた。仮面ライダーはますます面白い。戦隊は今日からリュウソウジャー。私はまだルパパトロスであまり入っていけなかったがサイは集中して観ていた。どうやらレンジャー達は人間ではない設定のようで、ゲーム的というか神話的だった。師弟関係や伝説の恐竜に頭がまだついていけない。

お昼ごはんは昨日のじゃがなし肉じゃがの残りを卵でとじて丼。サイはうどんにその具。それからサイの希望で池袋に出てガンバライジングカードとブットバソウルメダル。慣れないゲーム機械の画面を長時間見ていたら疲れた。いいメダルが出たのに、家に帰ったらないことに気づいた。機械に忘れてきたらしく、店に電話したが見当たらないと言われた。「またかえばいいよ」とサイはそれほど落ち込んでいないようだった。物を大事にしてないような気がして、悲しくなった。なんでも買い与えすぎだろうか。その分自分は我慢しているのにな。最近服だって一枚も買っていない。難しい。

晩ごはんはサイの希望でまたか…と思いつつカレー。私が野菜を切るのを興味深そうに横で見ていた。夕食後、サイはお絵描き。前よりずいぶんうまくなった。


3月18日(月)
早く目が覚めても月曜が始まると思うと布団から出られない。とはいえ休むわけにもいかないので布団から出てサンドイッチを作って出社した。今日はハムとアボガドとオムレツ。マスタードを塗るだけでサンドイッチらしくなる、ということを最近知った。

夕方、お迎え。サイは今日から3階の新しい部屋。一番上の学年が卒園したので部屋が空いたらしい。サイは新しい部屋で今まで見たことない玩具で遊んでいた。私がぼんやりしている間にもサイは成長していく。そういうことをふと考えた。晩ごはんは二日目のカレー。サイが寝た後、図書館で借りた桐野夏生の『アイムソーリー・ママ』読了。桐野さんが描く悪女が私は好きだ。寝る前に読むような本じゃない気がしたが普通に眠れた。読書灯が欲しい。


3月19日(火)
春を通り越して夏みたいに暖かい日だった。半袖の人も見かけた。昼はサンドイッチ。昨日と同じ具。オムレツに残ったカレーを入れてみた。

夜サイが寝たあと、Fさんと電話。2時間半も話してしまった。Fさんの髭について質問した。あと夏にどんな格好をするのが好きかとか、壊れた眼鏡の話とか、私がこないだつけていたイヤリングの話(あんなのつけてる人見たことないよと言われた)とか、いろいろ。Fさんは夏でもシャツを着るらしい。それってすごくいいと思う。季節に関わらずシャツを着る男性が好きだ。Tシャツよりも色気がある気がするから。マエケンのシャツ姿も好き。


3月20日(水)
今日も暖かい。ぽかぽか陽気で春だ。

お昼は先輩と週一ランチの日。今日はどこへ行こうかとあてもなくふらふら歩いていたら新しく海鮮居酒屋のようなお店ができていて、ランチもやっていたのでそこへ入ってみた。店名がついた海鮮丼を頼む。しらすが食べたかったので嬉しかった。醤油をかけようとしたら醤油入れを落として味噌汁に衝突し、お椀ごとひっくり返して大洪水。手提げもスカートも肩からかけていたストールも全部味噌汁まみれ。慌てて拭いていたら何も言ってないのにすぐ店のおじさんがたくさん布巾を持ってきてくれて、その後ささっとお盆も味噌汁も副菜も丼以外全部新しいものに取り換えてくれた。その気遣いに感動した。ちょっと怖そうな人だなと思ったがとてもいい人だった。店を出る時に礼を言うと「いえいえ」と言われた。海鮮も美味しかったし、また行こう。それにしてもぼんやりしすぎ。「洗わないとね」と先輩に言われ、味噌汁の匂いを放ちながら会社へ戻った。

晩ごはんは持ち帰りの巻き寿司とその横の精肉店で焼き鳥を数本。サイは最近焼き鳥が好きらしい。平日はどうも晩ごはんを作る気力がない。手作りじゃないと愛情がないという意見を見かけたことがあるが、結局作る時はできたものからお腹を空かせたサイに食べさせるため、私はまだ台所にいて途中までサイ一人で食べることが多い(とか、最初少し一緒に食べてから私はまた台所へ戻ったり)。買ったものだとすぐに一緒に食べられるし食後もゆっくりサイの相手ができる。慣れたが、世間で子育てはこうであるべきとされる形は両親が揃っていてのことな気がする。完全に大人一人でやる時は色々と妥協も必要だ。


3月21日(木)
昼過ぎ、SちゃんIちゃん親子と目黒で待ち合わせして、駅前でお昼を食べてお花を買ってから青柳カヲルさんの個展へ。Sちゃんと最近頻繁に会っている。サイと二人では諦めてしまう場所にSちゃんがいてくれることで行けている気がして、とてもありがたい。個展も、行きたいけど連れて行くのは道中大変そうだし、一人になる時間もないから難しいという話になって、それなら一緒に行かないかと私から誘った。二人きりよりも、親子が何組かいた方がたとえ子どもの人数が増えても大人にとっても子どもにとっても行動しやすい、ということを最近学んだ。一人が何かしたい時にもう一人の大人が子ども達を見ておける状況はすごく重要だ。トイレとか、何かちょっとしたものを買いたいときとか。Sちゃんはいわゆるママ友だけど私はママ友だと思っていない。子どもがいなくても繋がれる人だと思っているし話す時は子ども以外の話をすることが多い。

ギャラリーまでの道のりは風が強かった。買ったお花が折れてしまわないか心配だった。展示は色んな感情に包まれてすばらしかったし、青柳さんはとても優しかった。サイは作品に勝手に触ろうとしたり、大声を出したり、他のお客さんに失礼なことを言ったり一刻も早くここを退出しなければと恥ずかしくなったが青柳さんは嫌な顔ひとつせず(といってもお面を被られていたので顔は見えていないわけだけど、わかる)、サイに話しかけてくださった。のでサイは全く怖がることもなく、お面の下はどうなっているのか、靴はどこに置いてあるのか、あの扉の奥には何があるのか、私ではなく青柳さんに直接問いかけていた。地図が好きなサイはギャラリーの配置と解説が書かれた紙を見せて「ここはどこ?」と確認していた。
帰りに目黒川にかかる橋からお城みたいなラブホテルが川沿いに建っているのが見た。童話に出てくるお城みたいで、一瞬、自分がいるのが現実なのか夢なのかわからない感覚なった。桜が咲いていた。サイは拾った葉っぱを川の下に落として遊んでいた。それを私はぼんやり眺めていた。びゅーんと風が通りすぎた。春だ。

Sちゃんと別れてから、帰りにサイとの約束通りユニクロに行って仮面ライダーのTシャツを買い、屋上で少し遊んでから帰った。


3月22日(金)
朝起きて月曜日のような気分になりぞっとしたが、明日からまた休みだと思うと幾分元気になった。二日休んで五日働いてのリズムができているので、身体のリズムが崩れて混乱する。夜、いつものようにピザを食べながらドラえもんを観ようとしたらドラえもんではなく警察24時間みたいなのがやっていて、二人で落ち込む。番組の入れ替え、年度末だなぁ。


3月23日(土)
朝から区が企画したひとり親の集いに初めて参加。話している間サイを預かってくれるのがありがたい。ここでのことはSNSなどで口外しないように、と始まる前に念押しされたからどんな話が飛び出すのだろうと構えてしまったが割と普通の話だった。ほとんど子育ての話。子育てにおいては他人にこうするのが良いと意見されるのが私はあまり好きでないし、子育て本も漫画以外は読まないので、聞いてもふーんという感じでぼんやりしていた。状況も違うわけだし一概にこれが良いというのはなんか違う気がする。でも知らなかった制度など教えてもらえたりした。参加していた親子と一緒にお昼を食べてしばらく公園で遊んでから別れた。刺激になったが家に帰ると知らない人と話したことで、どっと疲れが押し寄せた。複数の人と話すのはやはり私には向いていないようだ。

公園にはバルーンアートをする大道芸がいて、サイは風船のねずみをもらってご機嫌だったが、いじくっていたら割れてしまい大泣き。お金も払ってないのに大道芸人のところまで行ってもうひとつ作ってほしいと頼むのもなんだか気が引けるなと躊躇していたら、行動しない私に対してサイは怒って泣き叫び、結局別のお母さんが頼んでくれて新しいねずみをもらった。いろいろ疲れたなーと帰路に就いていたら、トップスが目に入ったのでチーズケーキを買って帰って二人で食べた。私はチョコレートケーキがよかったがサイがチーズがいいと言い張った。

晩ごはんは照り焼きチキン、大根とキャベツのお味噌汁、サイが作ったチーズ入りだし巻き卵。卵焼きがサイの担当になっていて、さあ卵焼くよーというと「サイくんやるから!」と台所に椅子を持ってくる。卵を割るのもすっかりうまくなった。


3月24日(日)
午前中、テレビを観ながら洗濯、掃除。ジオウ面白かった。サイはリュウソウジャーのエンディングの踊りがお気に入り。家で昼ごはんを食べてから電車に乗って東京駅へ。プラレールショップに行き、Zくんの誕生日プレゼントを買った。地下の人混みで疲れたので、資生堂パーラーでソフトクリームをテイクアウトして地上にのぼり、駅のすぐ横のベンチで食べた。それからサイが屋上に行きたいと言ったが大丸に屋上はないので丸の内側まで歩いてKITTEの屋上。初めて来たが新幹線が眺められてなかなか面白かった。取り囲む高層ビル、駅に吸い込まれていく米粒みたいな人々や停車するはとバスが、自分は今東京駅にいるぞ、という気持ちにさせた。
歩き回って疲れて帰宅。晩御飯はそばめし。サイはよく食べてくれた。食後に昨日のケーキの残り。ろうそくを刺したらサイは大喜び。誰の誕生日でもないがハッピーバースデーを歌った。


◇◆◇◇◆◇◇◆◇

ソメイヨシノの木々の隙間が日に日にピンク色で埋まっていくのが家のベランダからも見える。桜が取り立てて好きだというわけではないのに、咲いているのを見ると毎年嬉しくなる。単純に、春の訪れに気分が高揚するのかもしれない。暖かくなると散歩したり動きたくなってそわそわする。今は無性に絵が描きたい。水彩画。描きたい絵も頭の中にある。それから本がたくさん読みたい。好きな人に早く会いたい。そういう衝動は本能的というか、春になったら動き始める虫や動物と何も変わらないんだろうなと思う。

息をしているだけで季節は巡るし食べていれば体重は増える

3月2日(土)快晴
サイとFさんと三人で代々木公園でピクニックをした。前日にある程度準備しておいたお弁当(肉巻きおにぎり、コールスロー、キャロットラペ、チーズ入りだし巻き、ジャーマンポテト)とシートとテーブルを持って大荷物でバタバタ出発。代々木公園でフードフェスみたいなのがやっているらしかったのでメインとなるおかずはそこで買おうと考えていたが、会場の様子を上からのぞくとバーゲン会場のように大勢の人が密集していた。すぐ近くに広い公園があるのに人々は小さなテントの中でひしめき合うように麺をすすったり何かを口にしていた。その光景を見て、今ここへ行くのはよそうとFさんも私も感じて、公園の方へ引き返した。サイはフードフェスの会場の端に佇む、空気で膨らんだ巨大なペンギンを見て、「あのペンギンにはいりたい~」と切望していたが「あとでいこう」と何とか気を逸らす。

ピクニックは楽しかった。Fさんが買ってきてくれたアップルシードルがおいしかった。Fさんが凧揚げをする様子を座ったままぼんやり眺めたりみんなでシャボン玉をした。Fさんが持ってきた折り畳みコンロ(びっくりするほどコンパクト!)でお湯を沸かしてサイがアンパンマンうどん(数日前テイクアウトの寿司屋でねだられて買わされたやつ)を食べたり、コーヒーを淹れてもらったりした。やっと渡せたチョコレートをFさんはスナック感覚で次々口に入れていき、それ高いチョコだから大事に食べてくださいよなんてまさか言えずチョコはあっという間になくなった。

撤収してゴミを捨てる時、ゴミ箱を漁っているおじさんに遭遇した。良い悪いではなく、ああ今の季節だと拾う食べ物が腐らなくていいんだなとふと考えた。Fさんはおじさんを見て、嫌がるでも笑うでもなく「将来の自分かもしれない…」とポツリと言い、確かにそうだなと思った。残飯を真剣な表情で拾うおじさんが自分と全く別の次元にいる人とは思えなかった。

帰りに再びフードフェス会場に寄るとまだ人が多かった。ちょっと何か食べようかと思ったが、チケット制で面倒になり辞めた。約束通りサイは空気で膨らんだペンギンの中に入った。一回300円。誰も他にいなくて貸し切り状態でサイは中で飛び跳ねたり走ったりしていた。それから横にあった空気で膨らんだすべり台もやりたいというのでまたチケットを買う。えらく急な勾配の滑り台だったためやりたいと言ったわりにサイは少し怖がっていた。落ちるように滑ってきた後、びびったのか登らずその場に留まっていたが係のお姉さんに促されまた滑りに行った。お尻から転がるようにストンと落ちてきた。

途中の駅で降りて、適当なお店でからあげ定食を食べて帰った。席がゆったりしていたのでサイは食事の途中で眠ってしまった。駅で別れるまでずっとFさんが荷物を持ってくれていた。Fさんは東京をしばらく離れるので当分会えなくなるから楽しい一日になってよかった。


3月3日(日)雨
昨日とは打って変わって朝から雨。いつもより少し早く起きたのでサイとホットケーキを作る。サイは生地を混ぜるのや、フルーツを切って盛り付ける役を買って出る。包丁遣いがうまくなってきた。サイはハサミや包丁が好きだ。幼少期の私よりずっと器用。卵も潰さず上手に割れる。ホットケーキ食べながらプリキュア仮面ライダー、戦隊。プリキュアはキュアセレーネが登場して嬉しかった。キュアミルキーもかわいいから推しを決めかねているがセレーネの圧倒的な美しさに胸打たれた。まどかがプリキュアになった後、厳格な父親に嘘をつくというシーンもよかった。

お昼は外食しようと思っていたらサイがおにぎりでいいと言うので鮭おにぎりとサイが作った卵焼き。それからだらだら準備して近所の図書館に初めて行ってみた。サイはダウンの内側にお気に入りのぬいぐるみ、あーちゃを忍ばせて行った。恥ずかしいらしくあーちゃを保育園には連れて行かないが、こうやって休みの日に時々連れ出している。胸がふくらんでゴリラみたいになっていたからか、「ゆきやまのおうさま、おうおうおうー!」と絶叫していた。よくわからないが、歯医者で観たトムとジェリーに出て来たらしい。私が面白がっていると道の上で何回も繰り返し叫んでいた。家から図書館までは短い距離だったが、サイが傘をさすのを途中でやめたり、雨の中歩くのは少し大変だった。図書館は子ども用のスペースがあり、快適だった。サイはアンパンマンの紙芝居を取り出すと私に読んでくれ(とはいえ文字が読めないので絵を見て適当にストーリーを話す感じ)、その次は私が読んだ。サイはあーちゃと図書館にいた、ぐるんぱとはらぺこあおむしのぬいぐるみをテーブルに並べて聴衆に見立てていた。少し経ってサイが飽き始めたので、近くのマクドナルドでお茶。また雨の中歩いて、スーパーで買い物して帰宅。

晩ごはんは冷蔵庫の野菜もりもりカレー。全部角切りにしたら煮えるのが早かった。食後、二人で仮面ライダードライブとフォーゼを観た。入浴後、就寝。私はその後、録画していた「漂流家族」を少し観てFさんと電話してから寝た。そういえばひなまつりらしいことは何一つしなかった。


3月4日(月)雨
昼は以前お肉を食べに行った人たちとパン美人と四人でチベット料理。豚肉とじゃが芋のスープと蒸しパンみたいなのを食べた。あれやこれや話す。食べすぎて午後、眠くなる。

晩ごはんは二日目のカレー。おいしい。酢、ごま油、醤油で適当に漬けておいた大根も美味しかった。カレーだと温めるだけですぐ食べられるし洗い物も少ないので労力がかなり減る。それにサイもよく食べてくれる。サイはデザートに昨日食べなかった雪見だいふくを食べたが、餅が嫌だったのか中身のアイスだけ食べて皮を私にくれた。


3月5日(火)快晴
仕事で、先週行った性格の悪い窓口の女のところにもう一度行かないといけなくて憂鬱だった。待っている人がいなかったので取った番号札をカウンターに置くと、受け取るのに少し遠かったのか「これ、とっていいの?」(なぜかため口)と鼻で笑うように聞かれた。標準で怒っている。私にだけかもしれない。わざとかと思うくらい嫌味っぽい態度を取って来る人、大人になってからあまり出会わなくなったが、昔学校の先生でこういう人いたなと思い出す。「人に優しく」という考えがおよそないのかもしれない。もはやドラマの役どころかと思えてくるくらい、徹底的に嫌な感じだ。こういう相手には感情を無にして接することにして、必要以上の表情と発言を表さないように努めた。申請していた書類を問題なく受け取り帰社。電車を乗り間違えたりして疲れる。もう二度と行きたくない。移動中、文學界に載っている川上未映子さんの新作『夏物語』を読む。これは…面白い…!!描写が丁寧で引き込まれる。

晩ごはんは三日目のカレー。サイは今日もよく食べてくれた。「たまねぎががりがりじゃないからいい」と褒められた。全部小さな角切りにしたらよく煮えて嫌がらなかった。メモ。野菜は小さくすること。食後、サイの好きな実験番組、「すイエんサー」を観た。内容も面白いが、ダイスケお兄さんとアサコさんのコンビが好きだ。


3月6日(水)曇り
お昼は近所のハンバーガー屋さんでハンバーガー。今日はパイナップルが入っていた。先輩と仕事の話。

お迎え後、歯医者。久しぶりに麻酔をしたら気持ち悪くなった。オリジン弁当で買って帰る。手持ちが少なくおかずが十分に買えなかったのでチーズ入りだし巻きだけ作る。サイはおにぎりの中の鯖の切り身だけ丁寧にとってお皿の端にのせ、最後に食べていた。いつもより時間が遅かったため、「ガールズクラフト」というサイの好きな、身近なものでアクセサリーや雑貨を作るEテレの番組が終わっていて悲しんでいた。「ママ、はいしゃのにおいしてる」と嫌がられた。自分でも気分が悪くなった。歯医者に行くとあの匂いで全ての気力が失われる。どっと疲れて入浴後、死にそうになりながら大量の洗濯物を部屋の中に干し、布団の中で大森さんが出ていた依存症イベントのアーカイブ映像を観ながら気絶するように眠る。


3月7日(木)
雨が降って寒かった。晩御飯は煮込みうどん。


3月8日(金)
ドラえもんとしんちゃんの日がまたやってきて、ほっとする。この時間が一番安らぐ。いつもどおりピザ。サイは番組最後に流れるドラがおじゃんけんの歌が好きでよく歌っている。


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最近、世間のスピードから自分がどんどん遠ざかっている気がする。新しい情報や知識が身体にすっと入らなくなってきて、でも溢れる速度は緩まないから、まったく知らない世界で迷子になっているような心地がする。老化への第一歩なのか。それでも時間はどんどん進む。季節は巡る。

肉と雪と三人のひげおじさん

2月8日(金)
母が今日から東京に滞在。サイのお迎えに行ってもらう。夜、Fさんと会う。初めて二人きりで会った。私が肉を食べたいとラインしたらその3分後に予約してくれたお店のカウンター席に二人で並んで座った。予約ありがとうと伝えたら「肉が食べたいという気迫がものすごく伝わってきて、予約しなかったら刺されるんじゃないかと思った」と笑われた。恥ずかしい。クリームチーズと鶏肉のパテ、ローストビーフ、ラム肉のグリル、牛タンのアヒージョ、手製ソーセージ、牛すじ肉のパイ包み焼き…あらゆる肉料理をお腹いっぱい食べた。全部びっくりするくらい美味しくて私は何か口にする度においしいおいしいとそれしか言語がなくなった人みたいに言い続けていた。「あーこれも食べたいな、いやでもこれも気になるなー」と私が迷っていたらFさんは全部頼んでくれた。パイ包み焼きが焼ける様子を二人でカウンターから眺めた。焼けたパイが運ばれてきて、私がパイを崩すという大役を担ってよいかスプーンを握ったまま躊躇していたら「ほら」と優しく言ってくれた。私が渡した誕生日プレゼント(渡すタイミングを計るのが苦手すぎて待ち合わせの駅で会った瞬間に押し付けた)を開けてから、Fさんはそっと紙で包まれた箱を鞄から出して私にもくれた。私がないから欲しいと言っていたコーヒーミルだった。私たちは誕生日が近い。すぐに時間が来てしまい、最寄駅まで一緒に電車に乗ってくれて、改札で別れた。Fさんはいつも別れる少し前、寂しそうな顔をして何も話さなくなる。だから私もあまり話さないようにした。そして私はFさんのことが好きだなとようやく自覚した。

帰宅したらサイはお風呂上りでご機嫌だった。三人で二枚の布団で寝たから少し狭かった。いつもと寝る向きが変わって旅先に来ているような変な気分になった。窓から入り込む冷気が寒かった。サイと母の寝息が聞こえていた。ついさっきなのにずっと前みたいな出来事の余韻に浸りつつ眠った。


2月9日(土)
朝起きて窓の外を覗くとたくさんではないが、はらはらと雪が降っていた。雪が道や屋根に積もり明るくて眩しい。昼前、母と一日違いの飛行機で着いた妹も家に来てそれから四人で出かけた。サイは外を歩きながら、「みちがしろい!」「あっ!はっぱもしろい!」「くるまもしろい!」と雪が積もった様子を興奮しながら実況してくれた。最初ルミネで昼ごはんを食べようとしたら子どもが入りにくそうな若者をターゲットにしたおしゃれカフェみたいなお店ばかりで全員で戸惑って、結局隣の東武のレストランフロアに行った。エレベーターを降りたら不二家のレストランがあり、サイもペコちゃんのお子様ランチが食べたいと言うのでそこで食べることにした。私の知っている不二家と違って店内はブルーのクロスで統一され高級感があった。四人掛けのテーブルに、サイが母と私が妹と向かい合うような形で座った。

小学生低学年くらいの頃、母と妹と三人で元町の中華街の近くにある不二家によく行ったのを思い出した。震災の少し前、80年代後半から90年代初めくらいまできっとその時代のどこの家庭もそうだったように我が家はバブルの名残でそこそこ裕福だった。週末は母と妹と三人で電車に乗って元町や三宮に出かけてデパートの玩具売り場で何か買ってもらうのがお決まりだった。そしてなぜかお昼ごはんは元町の不二家で食べると決まっていた。私はいつも目玉焼きハンバーグを、母はいつもたらこのスパゲッティを食べた。母は母の母、つまり私の祖母に小さい頃よく不二家のお菓子を買ってもらったらしい。それで親しみがあったから私たちをよく不二家に連れて行ったのかもしれない。

食事が出てくるまでの間、私が思い出したように、母や妹も昔三人で出かけた時の懐かしさに浸っているようだった。私は帆立と海老のドリア、妹はナポリタン、サイはお子様カレーを頼んだ。母はやっぱりたらこのスパゲッティを頼んでいた。昔と味が変わった、あの時より食べやすくなったと言っていた。母は嬉しそうだった。こういうこと、もっとしなくてはいけないのではないか、と突然感じた。母を全面的に好きじゃないし価値観が合わないしこの先絶対一緒に暮らしたくないけど、この人は何年後かそう遠くない先に、彼女の人生を終えてこの世界からいなくなるのだなということを当たり前だが急に実感した。

予定があるという妹と別れて三人でデパートをふらふらしてから夕方帰宅。晩ごはんは私が作った。白身魚のパン粉焼き。母は肉が食べられない。ちょっと味付けが薄かったがおいしいと言っていた。母は今日から妹と泊まるので夕食を食べ終えるとホテルに帰って行った。妹はどこに行ったのかわからない。昔からそういうところがある。


2月10日(日)
ルパパト最終回。感想は別途書きたい。終わり方がとてもよかった。サイとパジャマのままルパパトを見てたら母がホテルからやって来て、「テレビ観てないで準備しなさいよ」と言ってきた。「いや、最終回やから」と言っても事の重大さをわかってもらえなかった。サイの髪が伸びすぎていたので美容院。私の通っている美容院は乗り換えが面倒で駅からも遠いのでサイを連れて行くのがいつも一苦労だ。でもサイも美容師さんに懐いているし、他に良い店も思いつかない。母がいて助かった。いつもサイとそうするようにモスカフェに入ったらメニューに肉のバーガーしかなく、母は食べるものがないと困ってケーキを食べていた。ちょっと悪かったと思ったが表参道にはモスくらいしか入れそうな店がなかった。子連れで食事するのはなかなか大変だ。

三人で来ても美容師さんは特に気にする様子もなかった。「あれ、今日はお母さんも一緒ですか!?」とかわざわざ聞いてこない。察してくれる。そういうところが好きだ。カット中、サイは相変わらず固まっていた。私は前髪だけ切ってもらった。「いつまでこうやって一緒に美容院とか行けるのかなーと思います」と私が言うと美容師さんは「二十歳くらいでも母親と来ている人がいますよ」と教えてくれた。二十歳のサイを想像した。まさか一緒に髪を切りに行くことはないだろうが、良い関係でいたいなとは思った。サイがビールが飲めるようになる頃、私はもう初老だ。バラバラに暮らしているかもしれない。それから反抗期の話をした。美容師さんにも反抗期はあったらしく、意外だったので「なさそうに見えますがあったんですね」と言うと「きっとあった方がいいですよ、ありましたか?」と聞かれたので「アイロンとか投げてました」と答えた。反抗期、人に当たれなくて色んなものをぶん投げていた。親も教師も、周囲の大人が全員憎くて嫌いだった。自分のことも嫌いだった。自分のいる場所が怖かったのだと思う。今もまだ怖いけれど怖いなりに逃げる方法はあると学んであの時よりはやっていけるようになった。

ずっと母と過ごして疲れてしまったので、サイが寝た後、Fさんに電話した。明け方までなんと4時間も話してしまった。電話の最後の方で、お互いに好きだということを初めて確認した。そして私たちはこれから付き合うことになった。Fさんが私のことを好きだとわかって「で、どうしたいですか?」と問うと「え、付き合うということではないの?」と驚かれた。そういうものなのか。私はその辺りがよくわからない。人と人が定義された関係を持たず、ただ好きでいる状態ということもあるのかと思ったから。それに私はこんな状況だ。きっと世間ではひとり親が恋愛なんてすべきでないと思われている。親の恋愛は子どもを犠牲にするという考え方をする人がいたら、その人は何を以て自分以外の人にそれを正論として振りかざせるのだろうか。わからない。わからないけどわからないなりに模索していきたい。サイのことが大切なのは誰に言うまでもない。その上で私は自分の大切をできる形で守っていきたい。


2月11日(月)
母と妹は朝からクラシックのコンサートへ行ったらしい。サイは面会。私は一人で銀座に行き、松屋のバレンタイン催事を覗いたあと、自分にしては珍しく食べログで調べたラーメン屋に行ってみた。まあまあ美味しかった。それから三越のバレンタイン催事に行ったら松屋より混んでいた。色んなお店で試食して美味しかった、世界各地のカカオ豆を使ったチョコの詰め合わせをあまり何も考えず一箱買った。それは自分用にすることにした。人気がないお店で他に人がいなかったからか、他のお店に比べて、販売員のおばちゃんが親切だった。夕方にパティシエが来るからサイン入れられますけど、と何度も言われた。夕方まではいられないしサインにもあまり興味がない。その後も試食し続けて何が良いのかわからなくなってきて、人混みにも疲れてきたので地下のお菓子売り場まで降りて、ドゥバイヨルで箱が美しいナッツやオレンジピールのチョコの詰め合わせをFさんにひとつ買った。それから教文館に行き、面白い絵本があったのでチョコと一緒にあげようと思って買った。それからクライドルフの花の精たちが行進する美しいポストカードを部屋の壁に飾ろうと思って一枚買った。

急いで帰宅して、荷物を置いてから約束の時間に駅までサイを迎えに行った。お菓子やなんかをたくさん買ってもらったサイは興奮状態で口数が多かった。魚屋さんに寄って油ののった鮭を買う。サイは面会で疲れたのか、私が離れていたことが嫌だったのか、夜愚図っていた。面会の時に一緒にいられないのは申し訳ない。でも待ち合わせだけで気分が悪くなるので私にはそれが精いっぱいだ。普段サイといるのが当たり前すぎて、面会の時いきない一人になるとぽっかり穴が空いたような虚無感に襲われるので、できるだけ街に出かけたり予定を作って時間を埋めるようにしている。

深夜、またFさんと3時間くらい電話した。これから付き合うことに対する本音や不安を話したら「大丈夫だよ」って言ってくれた。お湯みたいな人だ。


2月12日(火)
一日中眠かった。パン美人にFさんのことを話したら喜んでくれた。少し早いバレンタイン、と言ってラスクをくれた。気が利くなぁ。私の周りは気が利く人ばかりだ。

疲れて中華屋さんで持ち帰り餃子。火曜は持ち帰り餃子が安い。電源オフモードでレジでサイと餃子を待っていたら「あれ、サイくんのお母さんですか?」と聞かれた。誰かわからなくてぼんやりしていたらZくんのお母さんだった。Zくんはハーフでお父さんが外国人(イケメン)。どんなお母さんだろうと思っていたらよく街で見かける気が強そうな外国人の妻ではなく、とても大らかそうな人だった。化粧気はないが美しかったのでお母さんも外国の血が入っているかもしれない。Zくんはあまりみんなと一緒にいない。みんながおやつを食べていてもわっと寄って来ないし、一人で遊んでいることが多い。前に体操をボイコットしているのを見た。でも笑う時はよく笑うし子どもらしい一面もある。きっと良いご両親なのだろう。髪が長くて女の子みたいにかわいい。「Zもここに連れて来ようと思ったんですけど一人でして」とお母さんは言うとまた店を出ていなくなった。私とサイはぱっと受け答えができず、ぼんやりしていた。

帰宅して晩ごはん(サイがまただし巻きを作ってくれた)を食べて大森さんのラインライブを途中まで聴きながら洗濯・洗い物をしてお風呂。また怒涛の日常が戻って来て疲れた。植物が見たい。花畑か植物園に行きたい。早く春が来てほしい。


2月13日(水)
目覚ましをかけ忘れたが目覚めたら起きる時間だった。ぐっすり眠った。サイはパンダの顔のパンを「かわいそうでたべれない~」と言っていたわりに真ん中から半分に割っていた。着替えるのにパジャマを脱がそうとしたら「じぶんでやるから!」とキレられた。それならその方がいい。助かる。でも気分によっては「はやくきがえさせてよ~」とキレられる時もありなかなか難しい。泣き叫んでいた数分後に笑っていることもあるくらい子どもは気分屋である。でもその気分を全て外に出すか出さないかで大人だって大して変わらないと私は思っている。泣いたり笑ったり忙しいサイを見ていると以前より自分が冷静でいられるようになった気がする。成長させてもらえている。

昼はアジフライ定食を食べた。夜は歯医者だからしっかり食べておこうと思った(ら結局予約を一日間違えていて受付で冷たく突き返された)。地元の実家からほど近い会社が今の仕事に少し似ている職種を募集しているのを転職サイトでたまたま見つけて、気になったので問い合わせした。会社のサイトを見たら一人一人顔写真・生年月日・実名とともに社員紹介していて、どうしてもそれだけが理解できなかった。でもどんな会社か調べてみないとわからない。

お迎えに行くとZくんのお父さんとタイミングが同じになり、サイとZくんが作ったブロック作品(親に見せようと置いてあるが先生は早く片付けたい)を片付けるように言われZくんのお父さんも私も手伝った。「昨日お母さんに会いましたよ」と心の中で声をかけたがZくんのお父さんが日本語を理解するかわからなかったので結局黙っていた。お父さんはZくんに英語(かイタリア語?)で話していた。Zくんは保育園では日本語で話しているからなるほど、バイリンガルはこうやってできてくのかと勝手に感心していた。

昼に転職のことを考えたからか、先のことに対する不安が急に押し寄せてきて、体調不良も相まって夕食後どんよりとした気持ちだった。あまりにも疲れていたので、サイに「ママ、先にお風呂先に入ってるから後で来てね」と言って熱めのお湯に浸かっているとサイはちょうどいいタイミングでご機嫌で脱衣所にやって来て一人で服を脱いで風呂場に入ってきた。嫌がるのに無理矢理連れて行って熱いお湯に浸からせたり、落ち着くのを待って冷めかけのお湯(なんとうちには追い炊き機能がない)に浸かるよほどいいやり方なのではと思った。だんだんそうやって成長していく。サイはサイの、私は私の意思を尊重したまま二人でうまくやっていきたいなと思っている。

「今日はあまり元気がない」とFさんにラインしたら残業から帰宅してすぐ電話してくれて、その優しさだけで救われた。無責任なことは言わず「がんばってるね、えらいね。なんにも的確なこと言えなくてごめんね」と謝られた。いつもえらいねって言ってくれる。幼少期から何をしても親からほとんど褒められたことがなく批判ばかりされ続けて大人になった私にはこの肯定にとても救われる。Fさんが電気毛布の使い方にこだわりがあるらしく、そのどうでもいいようなよくないような話を聞いていたら穏やかな気持ちになった。いつもありがとう。


2月14日(木)
世間ではバレンタインデーらしいが、私にとっては歯医者に行く憂鬱な日だ。過去二年連続で反応が薄かった上にそのことで余計なストレスを感じるのも嫌なので今年から上司へのバレンタインは今年から廃止。お昼にパン美人にコンビニで買ったラムレーズンのチョコをあげたら先に食べていいよと言われ、人にあげておきながら自分で食べた。問い合わせた地元の会社からはまだ返事がない。

夜、歯医者。今日は麻酔なし。痛くなかった。予約を取る時、「あの先生(麻酔が効いてないまま神経を拷問みたいに削った人)はもう嫌です」と院長に言ったら「そうだよね」と分かってくれた。治療中、サイは大人しくトムとジェリーを見て待っていた。スーパーに寄って、気になっていたたこ焼き屋さんで初めて買った。メニューを見て15個買おうとしたら焼けているのが13個しかないというので13個買った。それからサイが「バレンタインチョコレートかいたい~」と何度も言ったがサイにあげるチョコを特に用意していなかったので、二人でサイお気に入りのお菓子屋さんに寄った。サイはバレンタインの意味をきっと理解していないが「よくわからないがチョコを食べる楽しい日」と認識しているらしい。チョコを欲しがったが洋酒が入っていたので焼き菓子にさせたらそれも洋酒が入っていて、結局洋酒なしのマドレーヌとスイートポテトを一つずつ買った。「おしりたんていのスイートポテトだね」と嬉しそうに包みを持っていた。

帰宅してたこ焼きを食べた後、サイが律儀にお子様ランチ用の新幹線にのせ満足そうに運んできたマドレーヌとスイートポテトを半分ずつ食べた。サイはちょっとかわいく飾り付けしたり、お菓子をきれいにお皿に盛ることにすごくこだわる。私がクレヨンをちゃんとその色の場所にしまわないと怒る。その辺り、雑な私と性格が全然違う。誕生日にしか使わない新幹線プレートを使いたがったのは特別感を演出したかったのかもしれない。こうやって、他人にはきっと取るに足りない自分たちにしかわからない特別を日々の生活の中作っていけたらいいな。スーパーで買ったバブを早く湯舟に入れたいからとしきりにお風呂がたまったかどうか確認していた。

サイが寝る時に着る、もこもこの白いスリーパーをそれを着た時のサイが子熊みたいだから「くま」と呼んでいて、「くま」のファスナーを私がやろうとしたら自分でできる!と怒った。でも私でもやりにくいくらいなのでなかなかできず眠気も相まってもどかしそうにしていた。「やろうか?」と言うと「できる!」と格闘の末、時間をかけてジップの接続(あの下の部分のカチャってやるところ)に成功した。布団に潜って涙を流しながら「サイくんじぶんでやりたかったの」と訴えた。「そうだよね、やりたかったよね、ごめんね」と頭を撫でているとすーっと眠った。サイの意思とかやりたいと思う気持ちとかなるべく尊重したいがつい手を貸してしまったり時間がなくて私がやってしまったりする。でもサイにはサイの信念がある。頭を撫でて背中をトントン叩いていたら私も寝てしまい、数十分後目覚めた。布団をかけていなかったので寒かった。それから洗濯機から出してかごに入ったままになっていた大量の洗濯物を干してから寝た。


2月15日(金)
朝サイがなかなか起きないので、昨日お風呂上り裸のままパジャマを着なかったサイに「すっぽんぽんのすけ」と呼んだ名残でまた「ぽんのすけ~」と呼ぶと笑っていた。家を出て出発する前、マンホールを突然気にして、「このしたにはなにがあるの?」と聞いてきた。下水と書いてあったので「トイレのお水とかが流れてるよ」と教えた。「どこにいくの?」と聞かれたので「このお水は汚いから工場できれいにしてから海にいくよ」と不確かながら言うと納得して「しんちゃんでみたよ、しんちゃんのパパがお水と一緒に流れていったんだよ」と教えてくれた。美容院で観たクレヨンしんちゃんにヒロシが下水道に流されるシーンがあったらしい。サイは最近図鑑も好きだし色んなことに関心がある。そして私の知らないうちにどんどん知識を蓄えている。


2月16日(土)
朝ごはん、洗濯。サイがガンバライジングカード(データを読み込んでゲームができる進化型カードダス)がやりたいというので池袋のビックカメラ。西口だし穴場かもと思ったらまあまあ空いていて二回できた。レジ横にあったカードを欲しがったので「これを買ったら今日は何も買わないよ」と念押しして買った。その後別のおもちゃを欲しがったが約束は約束だから買えないと言うと最初は不機嫌だったが納得して諦めていた。そこまで欲しくなかったのかもしれない。その後、南池袋公園。芝生が開放されていた(ついに!)。出店があったから人がたくさんいた。コーヒー屋さんで珈琲でも買おうかと思ったが一杯ずつハンドドリップで淹れるため行列していて、諦めて隣のクラフトビールにした。「珈琲買おうと思ったら混んでいたのでビールにしました 笑」と店の人に言って、笑ってくれるかと思ったら無反応だった。芝生に直接座ってサイはアイス、私はビール。まだまだ寒いが日が当たると気持ち良い。その後すべり台。公園の出口にあった花屋さんでミモザのブーケを買って、屋上に行った後近所で唐揚げを買って帰って帰宅。ミモザはドライにしようと思って逆さまにしてカーテンレールに吊るした。


2月17日(日)
やや寝坊してプリキュア仮面ライダー、戦隊。プリキュアのララちゃんかわいい。今のところ一番好き。

すき家でお昼ご飯。食べていると突然サンタクロースみたいに立派な白い髭をたくわえた外国人の体格の良いおじさんが三人入店し、店内に明らかにそれまでと明らかに違う緊張感が張りつめた。おじさんの一人は楳図かずおのTシャツを着ていた。英語メニューをもらって、何を食べるか三人であれやこれや相談していた。どうやら初入店らしく、メニューを見てチープとか言っていた気がする。サイは絵本から出て来たみたいなおじさん達を凝視し、「がいこくじんだね」と小声で私に言った。「サイくんも外国に行ったら外国人だよ」と言うとわかったようなわかっていないような反応だった。横目で見たらマグロ丼をスマホで撮影していた。

それからサイと一駅分あるいて、少し大きめのスーパーに行く。いつものスーパーより安くて新鮮だったが広い分歩き回らないといけないし人が多くて疲れた。サイがりんごを二個も買いたいというのでかばんは野菜や果物でずっしり。更に本屋に寄り、気になっていた川上未映子さんの新作が載っている「文學界」を購入し、さらにずっしり。サイにねだられて仮面ライダーの本も買わされる。買いたくなかったが買わなければ愚図って家まで歩いてくれなさそうだったので仕方なく。帰ったらへとへとでやや眩暈。サイが本を読んでいる間、私は畳んだ布団の上で30分ぐらい寝ていた。サイに起こされて起きたら日が暮れていた。体力のなさを実感する。寝たい時に眠れたらどんなに良いかと思うがそんなこと考えていても仕方がないので重い腰をあげ、晩ごはんのシチューを作る。

ごはんをマロンクリームの形にしたら喜んでくれたが、煮え切らなかった玉ねぎが気に入らなかったらしく、ぐちゃぐちゃに潰したりかきまわして遊び食べし始める。途中で席を立つ。私はサイに食べろと強く言わない代わりにサイがごちそうさまを言うまで席を立たないと決めているので戻ってくるまで自分が食べた空のお皿を前にしてぼんやりしていた。「たべないの?」と聞くと「たべるから!」と怒っていた。野菜だけ食べてね、と言うと嫌々ながら口に押し込んでいた。サイがシチューがいいって言ったのにそんなにまずそうにされると悲しくなる。大方食べたところでもういいよと言い、ぐちゃぐちゃに混ぜられた冷たいシチューを私は黙々と口に運んだ。「サイくんが残したらこれはゴミになっちゃんだよ」と言うと前にEテレで残飯が餌になるという番組を観たのを覚えていたらしく、「どうぶつさんがたべるの?」と聞くから、「違うよ、捨てられちゃうよ」と言った。食べ物を無駄にすることの意味をまだあまりわかっていないようだった。でも私は「世界には食べられない子もいて…」みたいなことはあまり言いたくない。サイが美味しくないと思うのは自分にも非があるような気がするから。お風呂、就寝。


2月19日(月)
月曜はなかなか布団から起き上がれない。Fさんからおはようのライン(毎朝必ず送ってくれる、優しい)が来てやっと起きれるという有様。サイもなかなか起きてくれずギリギリまで寝かせてあげる。寝ている人を無理矢理起こすのが苦手だ。起こされることほど不快なことってないと思う。当人は眠いから寝ているわけで。だから起こされたという気分にならないよう、本人の意思で起きる気になれるように、なんとか持っていく。テレビをつけて「あ、びーすけ(ピタゴラスイッチのサイの好きなビー玉の冒険)やってるよ!」とか「ねえ、バナナたべる?」とか。

お昼ごはんに会社の近くにあるかわいいパンとケーキのお店で買った。ここのパンは全部おいしい。特にシナモンロールとチョコチップパンがおいしい。お店の人がものすごく丁寧な接客なのにけっして馴れ馴れしいわけではない絶妙な距離感も好きだ。対面販売が苦手だがここなら買える。好きになったお店に通いすぎると必ず潰れるジンクスが私にはある。だから本当は毎日通いたいぐらいだが毎日は行かない。

夜ごはんは昨日のシチュー。昨日嫌がったのでサイのお皿に玉ねぎが入らないように気をつけた。サイは食べたいと言ったリンゴをシチューにつけておいしいおいしいとご機嫌だったが、私の真似をして自分でシチューに投入したごはんがシチューと混ざるのを嫌がり手が止まる。理不尽だが「自分でやったでしょ」は通じない。仕方なく私がそれを食べ、サイには新しいシチューを入れる。食後サイとゴロゴロして遊ぶ。二人で犬になりきってワンワン言っていたらもっとかわいい声で言ってよと言われた。とにかく眠くて洗い物、お風呂、洗濯のち就寝。サイが寝たら起きようと思っていたが起きられなかった。朝まで眠る。


2月19日(火)
朝からどんより曇り空。サイは「おしっこもれた」と言い、私の布団に入ってくる。でももう起きる時間だよ。布団を干すと雨が心配だったのでドライヤーで乾かす。着替えのズボンを自分で履けた。先に朝食を食べ終えて洗面所で化粧をしていると「サイくん、クイズできたよ」と「みいつけた!」で正解したことを得意気に報告しに来てくれる。サイはクイズや迷路が好きだ。バタバタ出発。

仮面ライダーマリカの美脚と性格が悪いと自覚していそうな性格の悪さが好き

1月22日(火)
午後から休んでサイの保護者面談。先生の顔をじっと見て話したことがなかったのでつい目を逸らしてしまう。未だに自分が親の立場で話したり聞いたりすることに慣れない。家でどんな様子か話すと保育園の姿とは全然違ったようで驚かれる。家では意思が通らないと大声で泣きわめいたり怒って私を叩いてきたりすると言うと信じられないという感じだった。保育園では優しくて女の子に言い負かされているらしい。偏食について言おうとしたら先に向こうから「サイくんはよく食べますよね」と言われてぎょっとする。「いや、全然食べないですよ」と言うと「豆以外は何でも残さず食べますよ」と言われる。たった30分間で深い話もできず、家と保育園の相違をお互いに確認して終わった感じだった。もう慣れたがサイについて本気で話せる人が私にはいない。面談後、サイの教室に迎えに行くとちょうど昼寝から起きたところだった。せっかくなのでおやつを見学させてもらってから帰ることにした。

私が教室に入った瞬間、何人も子どもたちが集まってきて「ねえねえサイくんのおかあさん、ぼくのズボンはサイくんとおなじなんだよ、でもきょうはちがうけどね」「〇〇ちゃんのコップはプリキュアでね」「〇〇くんはトミカシンカリオンがね…」「サイくんのおかあさん!なんでいるの?」などと人生最大のモテ期かと思うほど次々に話しかけてくる。片手間でサイの話を聞くことに慣れている私でもさすがに4、5人の話を同時に聞くことは困難だった。これは聖徳太子でも難しいと思う。4歳児の話すことは脈略がなく、話す相手に対して今これを言うと相手はどう感じるか大人のように話す前に考えない。躊躇いがない。剥きだしの思考が至近距離から直球でぶつかってくるのが私には気持ち良い。私は自分が子どもだからか子どもと話している時が一番うまく話ができる気がする。「へぇ同じズボン持っているだね」「あ、でもこのコップにはルールーとえみるいないね」「いっぱい持ってるんだね」「今日はね、早く来れたんだ」などとこちらも何も考えず応えられる。それが十何人でしかも食事や着替えの様子も見るなんて保育士さんは本当に大変だなと思うが、話すだけなら私にもできる気がする。そんな甘くないと思うが子どもと話す仕事があればしたいな。大人よりよほど話が通じる。サイは決められた席に座り女子に囲まれてふざけながらおやつを食べていた。こういう子、クラスにいたなと思った。家とは違う姿だった。

おやつを食べ終えると出航する人のように他の子に手を振って見送られながらサイと保育園を出た。自転車の電池切れだったので歩いて駅まで行き、電車に乗ってなんとなく谷中に行ってみた。日暮里駅でサイが集めているキン肉マンのスタンプをした後、ゆうやけだんだんの方に歩いて行く。休日は人が多かったが平日なので人がほとんどいなかった。気になる雑貨屋をサイとのぞく。店で商品を触ろうとしてしまうが、前ほど落ち着きなく騒いだりしなくなった。友達にお土産を買った。自分にも買った。だんだん日が暮れてきて、途中のお惣菜屋さんで唐揚げを買いまた駅まで戻る。サイが漏らしてしまって着替えがなく色々大変だったけどたくさん歩いた。夜から歯が痛くなってサイの相手をあまりできなかった。ズキズキ脈打ってる感じ。


1月23日(水)
週に一度の仲の良い先輩と外ランチの日。ハンバーガー屋さんでハムとアボガドのサンドイッチを食べた。ずっと仮面ライダーの話をした。
歯が痛みが治まらず仕事にも集中できないので歯医者に予約の電話を入れる。

お迎えに行って「ママ歯が痛いから今から歯医者行かなきゃいけない」と言うと保育園の友達に「いまからはいしゃいくよ!」と絶叫していて恥ずかしかった。遅い時間の予約しか取れなかったため、ファミレスでサイだけ食べさせる。私は飲み物だけ。サイは私が食事していないことで具合が悪いと感じ取ったらしくいつも残しがちなお子様ランチを野菜もひとつ残さず綺麗に平らげた。食べ方もいつもと違った。「どうしたの?」と聞くと「ママないちゃうから」と言った。子どもなりに考えたのかもしれない。食べ終えるとアイスが食べたいと言うので全部食べられたし時間もまだあったので頼む。アイスも美味しそうに完食した。レジ横に売っていたゲイツの弓矢を欲しがるも「今日は歯医者行くからお金置いとかなきゃいけないんだ」と言うと「サイくんがまんするからね、がまんしたらあしたかうよ」と言う。いつも欲しいものは買えるわけじゃなく我慢しなきゃいけないと言い聞かせているのでそういうことを言ったらしい。

検索して口コミできれいで先生が優しいと書いてある歯医者にした。予約時間より早めに着くと受付の人は冷たくて感じが悪かった。入口のテレビでカーズが流れていたが終わってメニューモードになっていた。再生してとは言いにくいけどサイは一人で何もなく待っているのかわいそうだなと思っていたら先生が来て再生してくれる。サイが「おとならないね」と言ったのも聞き逃さず音を出してくれる。気が利くがやってやったぞ感もあり、親切なのに僅かに怖いものを感じた。そういう先生なのかもしれない。

個室なので診てもらっている間サイは受付のソファに一人で待っていた。レントゲンの前後にサイに「大丈夫?」と聞いたら「うん」と言うものの不安そうにしていた。レントゲンを撮り終えて個室に戻るとまたDVD(処置室でも観れる)が止まっていたので「すみませんがつけてください」と言った。結局、親不知の虫歯ということが判明。来週抜くことに。歯に薬を詰めてもらっている間「お口頑張ってあけようね~」「もうちょっと舌ひっこめてね~」と4歳児に言うように言われて、複雑な気持ちになった。でも痛いか頻繁に聞いてくれたり(これまた子どもに言うように)腕は良さそうで安心した。痛くないのが一番なので、性格はこの際どうでもいい。抜歯の予約を取る時に「一時間くらいかかるけど息子さん待っておけるかな」と言われる。連れて来るなと言われているような気持ちにもなったが預けられる人もいないので仕方がない。不安な顔をしていたからか「大丈夫ですよ、スタッフがみたりできますので」と言われる。

スーパーで買い物して帰宅。私だけ冷凍パスタを食べようとしたらサイもお腹が空いたと言いおにぎりと蒸しパン。よく食べるなぁ。我慢していて疲れたのか寝る前にちょっとしたことがきっかけで大泣きする。今日頑張ったねと抱きしめる。いつもより早めに倒れるように眠った。ありがとうサイ。どっと疲れたが歯は薬のおかげで痛くなかった。


1月24日(木)
帰りながら鎧武のテーマソングを歌っていたら「そういうのじゃない!」とキレられる。サイは音楽的才能が私より圧倒的に優れているので私が適当に歌って音程や歌詞を外すといつも嫌がる。

サイと鎧武を二話観てから寝た。少しずつ観ているが街を支配するユグドラシルという会社の本当の目的がはっきり明かされなかったり組織内で裏切りや抗争があり非常に面白い。単に悪と戦って終わりではなく「人間は力を手にすると化け物になるのか」など台詞も良い。他のシリーズも気になる。仮面ライダーを知らずに生きていたなんて人生損していた気がする。サイはお腹の調子が悪かったようで大量の汚れた洗濯物がリュックに詰め込まれていた。見たらそんなに汚れていない。ズボンとトレーナーが三組以上。大量の洗濯物を干してから就寝。


1月25日(金)
やっと金曜日。金曜恒例、ピザ食べながらドラえもんとしんちゃん。サイのお腹のことを忘れてピザを食べさせてしまったが大丈夫だった。しんちゃん観る度に、みさえは最高の女性だなと感じる。しんちゃんにボロクソ言われてるが子ども二人も産んでいるとは思えないくらいかわいいしスタイルがいい。


1月26日(土)
サイがライドウォッチを買いたいというので昼前、電車に乗ってイトーヨーカードーへ行った。まず最上階のうどん屋に行った。地元のジャスコにも入っているうどん屋で、小学生くらいの時に母とよく行ったなぁと思い出す。その店に親になった自分とサイがいるなんて不思議だなと思いながらうどんをすすった。サイはよく食べた。その後玩具・文具売り場へ。目当てのはなかったが別の欲しかったライドウォッチが売っていて大喜び。会計前にサイの靴下も見ておこうと靴下コーナーに行き後ろを振り返ったらサイがいない。あれまたどこか行ったかなと探すも姿が見当たらない。棚をひとつひとつ覗いてみるもいない。声もしない。少し焦る。もしサイが誰かに連れ去られていたら。ぐるぐるまわっていたら、靴下コーナーの近くに大粒の涙で頬を濡らしたサイが世界の終わりを見たような顔で立っていた。「ごめんね」と抱きしめる。何事もなくてよかったが、ちゃんと手をつないでおかないとなと反省した。サイは少し怒っていた。

それからゲームコーナーに行き、仮面ライダーの、ブットバソウルというメダルのゲームとガンバライジングカードというカードのゲームをする。一回百円。カードのゲームは何組も並んでいて人気だった。前にいる小学生くらいの子どもはカード入れのようなものに束になったカードを入れていた。サイは初めてなので持っていない。サイは得意気にゲームする小学生の横で悔しさと憧れが混ざった表情をしていた。サイの番がきて、出て来たカードを一枚だけ置いてゲームを始めると横で「初心者だ」と馬鹿にしたように小学生が言った。私は苛立ち「(熟練した君とは違って)まだ子どもだからね、初めてやるんだよ」とその子に言った。あっそという顔をされた。なんだか悔しかった。三枚のカードを組み合わせて戦うゲームなのに一枚しか持っていなかったのですぐに負けた。サイも横で小学生に馬鹿にされて悔しそうにしていたのでゲーム機から退散して玩具売り場でそのゲームのカードが三枚入ったものを買った。サイの悔しさが紛れたようで満足そうにカードを眺めていた。「これであのゲームできるね」と嬉しそうだった。「そうだね、次は三枚並べられるね」とサイとの間に小学生に見下された悔しさを晴らす同盟のような気持ちが芽生えた。街や公園でサイが少し年上の子に馬鹿にされて不安になると私も同じ気持ちになる。苦手だったクラスメイトに勝てなかったような気持ちになる。サイと一心同体なんて思っていないが、時々サイは私だし、私はサイだ。サイの眼球を通した世界が見える。

地下のスーパーで買い物をし、疲れたので横にある持ち込み可能なイートインコーナーでひとつ買ったアイスをサイと二人で食べた。夕方のイートインコーナーはペットボトルの飲料を机に置き一人で放心している中年男性、子どもがこれから塾なのかかつ丼を食べさながら親はエクレアを食べている親子、昼ごはんにしては遅く夜ごはんにしては早い大きなピザとナスの天ぷらを食べている年老いた母親と中年くらいの歳の娘、女子高校生グループなど、色んな人がいた。場全体に活気がなく皆疲れたようで楽しそうな表情の人は一人もいなかった。このイートインコーナーで買った総菜やおやつを食べることに浮足立っている人など一人もいないのだということを肌で感じた。私たちもその一員だ。ピザと天ぷらを食べている親子の娘が買った天ぷらをレンジで温めすぎたのかパックが歪み湯気が出ていて熱そうだなと私は眺めていた。そしてこの人たちはどういう暮らしをしていてこれまでどういう人生を辿ってきたのだろうかと想像した。私とサイは静かにアイスを食べ終えるとこの世界の端っこのような独特の空気に耐え切れず退散した。サイも空気を読んだのか騒ぐことはなかった。

それからユニクロに寄る。サイは子ども服のチュールスカートを欲しがった。買ってあげたかったが金銭的に余裕がなく「いいね、かわいいね」と言った。以前スカートが欲しいと言っていたが保育園に行くうちに恥ずかしいと思うようになったらしく最近は言わなくなった。でも、まだ忘れていなかったようで嬉しかった。いつか買ってあげたいな。外に出ると冷たい風が吹き荒れていた。風が嬉しかったのかサイのテンションは高かった。電車に乗って帰宅。買った鮭を南蛮風に焼いたら美味しかった。


1月27日(日)
Hug!っとプリキュア最終回。ハナが出産するシーンがわりと凄まじい感じでリアルで、さすがプリキュアだなと感じた。色々と深い意味がありそうで理解できないところもあった。プリキュア達が武器も使わず体当たりで戦う姿がいつも好きだった。あんな風にかわいくて強くなりたい、いつもそう思ってきた。最終回では、未来は定められたものではなく自分自身の選択や周囲にいる人によって過去はいかようにも変えられるというメッセージが込められているように感じた。次のトゥインクルプリキュアも楽しみ。ジオウ、ルパパトも面白かった。ルパパトはいよいよ最終回に向けて佳境に入ってきた感じ。来週会えるかと思うとドキドキした。洗濯、掃除。

サイがおにぎりを食べたいというので昼ごはんは簡単に家で済ます。それから約束していた通り、近所の公園へ。途中でサイが最近お気に入りのお菓子屋さんでそれぞれ食べたい焼き菓子を買い、ドトールでコーヒーをテイクアウトした。寒かったが天気が良くて気持ちよかった。公園についてコーヒーを飲み始めると保育園で同じクラスのIちゃんが公園にいるのを見つけた。サイが「あれIちゃん…?」と私に聞いてきたがよく見えず「そうじゃないかな、見てきたら?」と言うも恥ずかしがって動こうとしない。結局Iちゃんが先に気づいてこちらに来てくれ、それでようやく「ああやっぱりIちゃんだったんだ」と二人で気づいた。私たち親子はいつもこう積極性に欠ける。離れたところにIちゃんのお母さんが立っていた。Iちゃんのお母さんは明るく誰とでも話すタイプではなく、何を考えているのかよくわからない人だ。私とサイに気づいているようだったが遠くから見ていた。コーヒーを持ったまま近づくのも変かなと思い、私は飲んでいたコーヒーを急いで飲み干し食べかけのレモンケーキを喉に押し込んだ。近づいて挨拶すると軽く目を合わせただけだった。別に機嫌が悪いわけではなくそういう人なのだ。私も陽気に挨拶できるタイプではないのでわかる。Iちゃんはサイが持っていた変身ベルトに夢中だった。サイは得意気だった。それから二人で鳩(敵?)を追いかけていたが、Iちゃんは途中で疲れたのか戻ってきて座っていた。サイは仮面ライダーになりきり。相変わらず鳩を追いかけまわしていた。

Iちゃん親子と別れ、サイと普段行かないスーパーに行ってみた。生鮮が充実していた。肉が食べたいなと思って、オージービーフを一枚買った。それからお気に入りのケーキ屋さんで好きなケーキをひとつずつ買った。夜は私だけ肉を焼いて食べた。塩コショウして焼いただけなのに最高に美味しかった。焼く前に切り込みをちゃんと入れることと、常温にしておくことがポイントだとわかった。サイは肉は要らないと言ったのでスーパーで買った冷凍のチキンカツ。それから二つのケーキにろうそくを立てて部屋を真っ暗にしたらサイがハッピーバースデーを独唱して一日早い誕生日を祝ってくれた。動画を必死で撮った。二人きりだけど、ぬいぐるみ達がたくさんお祝いにかけつけてくれた(らしくテーブルが渋滞していた)。ここ数年、誕生日に何の喜びも見出さなくなってきた。死に近づいているだけだ。めでたくもなんでもない。でもこうやって必死にろうそくを吹き消して一緒にケーキを食べてくれるサイがいることが嬉しい。ありがとう。

もっと強くなりたい。もっと強くてかっこよくなって仮面ライダーみたいに戦いたい。「ママ、仮面ライダーになれるかな」と言うとサイはいつも「ももになりたいの?」と聞く。桃は鎧武に出てくる女ライダー、仮面ライダーマリカのモチーフ。鎧武の中で唯一の女ライダーで、歴代仮面ライダーシリーズの中でも数少ない女ライダー。マリカは悪の組織の秘書をしている。いつもミニスカートにヒール。とんでもない美脚の持ち主でとんでもなく強い。性格が悪いが信頼していた上司に裏切られると急に気弱になったり、敵であるはずの別のライダーにときめいたりかわいい一面もある。あんな風になりたい。

オットセイは今日も暗闇のなか階段を下っているだろうか

1月13日(日)晴れ
サイと友達と三人ですみだ水族館に行った。設備は新しくて洗練されていたが思ったより小さい水族館だった。屋外の場所がなく、すべての生き物が屋内にいた。ペンギンも水族館の中心部にある陽の当らない大きな水槽にたくさん泳いでいた。太陽のもとで気持ちよさそうだった葛西臨海水族園のペンギンたちをつい思い出し、一年中LEDに照らされたこの子達は日光浴したいだろうか、とついペンギンの気持ちになってしまった。陽の光がない暗いところに長時間いると閉じ込められて二度とここから出られないような窒息感を覚え具合が悪くなる。

ぼんやり館内をまわっていたらさっき自分が下りたばかりの階段からいきなり飼育員に付き添われたオットセイがびちゃびちゃと降りて来た。暗くてよく見えなかったが下まで降りると暗闇で立ち止まりこちらをじっと見つめ、また水を滴らせながら階段を上って帰って行った。オットセイは特にスポットライトを浴びるわけでもなく飼育員による説明もさほどなかったので、いきなりオットセイが水槽を抜け出して私たち人間がいる側に現れて頭が混乱した。見ている側と見られている側の境界が曖昧に混ざり合い、これは自分だけが見ている夢なのではと思ったが周りにいた人も同じような反応をしていたしサイが怯えていたのでそうでもなさそうだった。あれが何だったのかいまだに分からない。

サイは次第に空腹で機嫌が悪くなったので昼過ぎに水族館を出てソラマチのフードコートお昼ごはんを食べた。サイのラーメンを買うのに並びながらビール飲みたいなぁと考えていたら別の店で友達が何も言わず買ってくれていて、なんとまあ気が利く。私は普段食べられない海鮮丼を食べた。美味しかった。昼食後サイがトミカプラレールショップ(隣接やめてくれ…)をはしごして長居してなかなか離れてくれなかったためだんだん気分が悪くなった。ようやく外に出ると空は晴れていて気持ちよかった。水族館のペンギンの気持ち。スカイツリー近くの公園で日が暮れる前までのんびりした後、浅草に移動しもんじゃを食べて帰った。隣の席の真面目そうな若い男の子二人組がどうやったら好きな子にモテるか、一人がもう一人にアドバイスして真剣に考えていたが2時間飲み放題の時間がきてしまい追い出されるように店を出た。その後来た若いカップルは作り方が分からないからと言って店員さんに作ってもらっていたのが微笑ましかった。「インスタで見て」とカマンベールチーズがまるごと入ったもんじゃを発注していた。もんじゃ屋さんに行く前に仲見世を通ったら提灯の明かりがきれいだった。夜の仲見世はぞくぞくする。通りがかった店で何となく買った甘酒があったかくて美味しかった。楽しい一日だった。


1月14日(月)晴れ
昨日のルパパト・ジオウを観つつ、朝から大量の洗濯を二回。昼過ぎ、昨日会った友達とまた一緒に屋上。ブリトーとビール。サイはおにぎりと蒟蒻ゼリー。我々は常日頃からチーム偏食。チームの活動主旨は食べたいものを食べたい時に食べる。それからデパートでライドウォッチ。ガイムが欲しかったが既に持っているダブルが当たり落ち込むサイ。でも二回はやらなかった。おかいものくまちゃんがいて一緒に写真を撮ったらどんぐりをくれた。友達と別れ、デパ地下のスーパーで魚でも買って帰ろうかと思ったら高すぎて辞める。ぶり一切れ1500円とか、誰が買うんや。近所の魚屋さんの方がずっと新鮮で安い。魚が買えなかったし魚屋に行く自転車もなかったので、近所のスーパーでカレーの材料を買う。

退屈そうなサイに「一緒にカレー作ってみる?」と聞くと目を輝かせてサイが乗る椅子を台所に持って来た。肉や野菜を炒めるのをやってもらう。肉の色が変わったり、野菜が柔らかくなるのが不思議だったようで「いろがかわった!」と驚いていた。ぐつぐつ煮ていたらバーモンドの箱を持ちいつルーを入れるのかと何度も聞かれていても立ってもいられない感じだった。サイがルーを入れて完成。ごはんが炊き上がったので一緒に混ぜた。私がトイレに行っている間にサイは自分でお皿を出して私の分のごはんとカレーをよそってテーブルに置いてくれていた。それから自分の分も入れようとしていた。カレーが入りそうなお皿をちゃんと選んだところとか、一生懸命盛ってくれたごはんの量が少ないところとかちょっとルーが飛び散っているところとか全部かわいくて涙がこみあげてきた。私が喜んでいるとサイも嬉しそうだった。二人でおいしいねって言い合いながら食べた。サイはおかわりしていた。やってあげるやってもらうじゃなくて、こうやって何でも一緒にすればいいのだなと思った。


1月15日(火)晴れ
昨日の残りのカレー。サイはカレーが熱いからと言って水を投入し薄まったカレーは恐ろしくまずそうだったがにこにこと残さず食べていた。「いる?」と聞かれたが断った。食後洗濯物を畳んだり昨日できなかったことをする。毎日少しずつやるしかない。


1月16日(水)晴れ時々曇り
昨日から休んでいる向かいの席の人がインフルエンザだったらしく菌が席順にまわっているので次は自分かと怯えている。お迎えに行くとサイは今日もブロックで作った作品を私に見せるために置いていてくれた。薬局で買い物して重い荷物を持っていたら階段で「(自分が遅いから)さきにいっていいよ」と言われる。いつからこんな風に気が利くようになったんだろか。三日目のカレー。目玉焼きの白いところ食べたいと言うので二つ焼いた目玉焼きの白身をサイの皿に、黄身を自分の皿に盛る。私が半熟の黄身をカレーの上で潰しているのを見て、「そういうのだったらすきだよ」と言うので黄身も一つあげる。「たまごのとろとろがカレーとまざるとおいしいね」とまた大人みたいなことを言う。そうやってどんどん成長する。

震災やその他のことを考えると不安が押し寄せて眠れなくなり、用もないのに友達に電話した。優しかった。そういえば昔付き合っていた人に「用もないのに電話しないでほしい」と言われて悲しかった。電話したいとき、大抵用なんてない。


1月17日(木)
震災から24年。サイはニュースで震災の映像を見ると悲しそうに「あーぐちゃぐちゃだ…」「なんでおうちこわれちゃってるの」と聞く。災害が人の命を奪うことを今はまだ理解できない。でも包み隠さず話すようにしている。24年も経ったなんて信じられない。あの時の小学生だった気持ちのまま何も変わってないことがたくさんある。

カレーもなくなったし作るのが面倒で安い中華屋さんで食べて帰った。そこしか空いてなかったので広い8人がけぐらいのテーブルにサイと向かい合って座ってサイはお子様ラーメンセット、私はビールと枝豆。あとサイが食べたいと言ったので唐揚げを頼んで2個ずつ食べた。向かい合っていると大人同士みたいだった。頼んだものが運ばれてくる間、以前だったら愚図ったりしていたが今では大人しく静かに待っている。そういう時私たちは今日あったことを話したり、仮面ライダーの話をしたり、ただにやにや見つめ合ったりしている。当たり前だがサイが生まれた時から一緒なので細かいことを確認し合わなくてもお互い何を考えているかだいだいわかる。サイが考えていることはもちろん、サイも私の感情をとっさに読み取る。私が疲れているから今日は良い子にしてようと感じさせている時があるなと思う時がある。「サイくんまめきらいなんだよ」と私が枝豆を食べる姿を見る度に言う。「そうだよね」と答える。ラーメンセットについてきゼリーをお姉ちゃんにあげるから持って帰ると言う。サイは最近架空の姉の話をする。お姉ちゃんは小学生らしい。寂しさから生まれたのだろうか。少し胸が痛む。帰ってサイはみかん。サイはみかんが大好き。


1月18日(金)
やっと金曜日。ドラえもんとしんちゃんだけを楽しみに一日過ごした。いつも晩御飯の時にテレビはつけないが、金曜日はピザ(スーパーで売ってる焼くだけのやつ)と冷凍パスタを食べながらテレビを観ることが習慣になっている。フライパンを使わなくていいし洗う食器も少なくて済む。お酒を飲みながらドラえもんやしんちゃんを観るのが至福。今日のドラえもんジャイアンが作った地獄のようにまずいシチューを他の三人がジャイアン家に呼ばれて食べに行くという話。ドラえもんが出してくれた「ふりかければ何でもごちそうになるパウダー」をのび太が持っていくのを忘れて届けにきたドラえもんがウィルス感染防止のような顔面マスクと防菌服という出で立ちで笑ってしまった。しんちゃんは相変わらず面白かった。前半は憎愛劇作家ねねちゃんの新作、「床暖房殺人事件」が最高だったし、後半の、秘境で出会った不思議な女の子が餅を焼く間に野原家各々の夢が膨らんでそれが混ざり合って混沌とする幻想的な話がよかった。親になってからしんちゃんの面白さが分かるようになった。大人達を斜めから見るしんちゃんや子ども達がまっとうで愛おしいし、みさえは最高の母親だ。細かいギャグや言い回しが好きだ。映画観たいな。


1月19日(土)
遅めに起きて朝ごはん、のち大量の洗濯。先日百均で買ったごはんに色をつけられるふりかけを試してみたいとお昼になる前から言うので久々に新幹線プレートを出してお子様ランチっぽいものを作ったら喜んでくれた。作っている最中にサイがにやにや覗き込んできたので「お楽しみだからまだ見ちゃだめだよ」と言うも横でにやにやしていた。黄色の粉を入れたごはんとハムで作ったひよこのおにぎりは食べてくれなくて結局私が食べた。

午後から巣鴨。元々用があり行く予定だったが知り合いがたまたま巣鴨に遊びに来ていたらしく合流した。いきなり来て突然混ざっても誰も何も言わず優しいなぁと思った。目的もなく商店街をぶらぶら歩いたり年配者が好みそうなもの(時代が止まってしまったようなものがたくさん売っていて外国みたいだった)で溢れたお店をのぞいたり、知人が赤いパンツを迷いながら買うのを横で見ていたりした。なぜか昔から人の買い物に着いて行くのが好きだ。傍観者でいられるし、自分が買い物する時の使命感みたいなものがなく気楽で自分じゃ行かないような場所に行けて楽しい。サイは初め緊張して固まっていたがふとしたきっかけで自我を開放していた。大人に対していつもそうだ。コンビニで人数分買ったチロルチョコを恥ずかしそうに配っていた。コンビニで値下げしていて買うか迷って辞めたお菓子を友達が買っていて「あ、それ私も買おうと思ったけどやめたよ」と何気なく言うと「あげるよ」と一つくれて泣きそうになった。こういうことを私はきっと一生忘れない。その優しさが必ず報われますように。

みんなと別れた後スーパーで買い物して帰る。恵方巻の顔出しパネルを見つけると自ら顔をはめに行って写真を撮るように指示される。前は恥ずかしがっていたのに最近顔出しパネルが好きらしい。撮った写真を見たら死ぬほどかわいかった。

教えてもらった美味しいケーキ屋さんで買ったケーキをサイが寝た後ワインと一緒に食べたらあまりの美味しさに感動した。また買いに行こう。ケーキを食べながら、中学時代誰も話が通じる人がいなくて、その状態が一生続くのかと思っていたが大人になったら今日みたいにちゃんと話せる人がいるんだなと考えた。あの時の自分に大丈夫って言ってあげたい。友達が誕生日なのでおめでとうの絵を描いて送ってから寝た。


1月20日(日)
朝ごはん、プリキュア、ジオウ、ルパパト。寝坊してプリキュアは後半から。ジオウはゲイツのパジャマ姿にぐっときた。話がどんどん複雑に。ルパパトはゴーシュがいなくなり寂しい。ゴーシュはボスのドグラニオから寵愛を受けていることでやや傲慢になっていたところもあるがドグラニオはゴーシュがつまらなく感じいきなり突き放しコレクションを回収。コレクションの力なしでは弱かったゴーシュは動揺し自爆して散る。泣ける。次はいよいよ最終回。

午後から面会。待ち合わせに遅れられたのになぜかこちらが責められて憂鬱が募る。サイと別れて電車に乗って美容院。気分が落ちていたので美容師さんと最初うまく話せなかった。それで最初黙っていたら切り始めて「さあ、年が明けましたね…」と独り言のようにぼそっと言われたのであぁありがとう…と思った。相変わらず優しい。話しかけてくるタイミングや間の取り方全てが心地良い。容姿もすばらしいし(すばらしいというかタイプ…痩せているのに大きめの服を着ているところとか最高…凝視できない)、この人は絶対モテるだろうなと思わせるものがある。さすがに何か感情を抱くことはないが、勝手に疑似恋愛気分に浸らせてもらっている。それで髪も切ってもらって数千円なんて安い。時間があったからかシャンプーもしてくれたが緊張するので女の人に代わってほしい。前に日記を書いている話をしたら教えてほしいと言われたがこんなことを書いているので絶対教えられない。美容師さんも毎日書いているらしい。聞いたお店の名前が覚えられないと言うと「じゃあ今もう一度言うのはやめときますね」と言い最後の最後に教えてくれたところとか、あぁもう好き…となった。おすすめしてもらった体に良さそうな薬膳スープ屋さんに行ったら美味しかったけど物足りなかった。とんかつ屋かラーメン屋行けばよかった。それから地図を頼りに美容師さんに聞いた名前が覚えられない雑貨屋に歩いて行ったがおしゃれすぎて買うものがなかった。時間がなくなり電車に乗ってサイを迎えに行く。

サイと児童館に行ってみるも閉まっていたので一旦帰宅しおやつを食べて布団でだらけた後気合いで起き上がり、サイは自転車、私は徒歩で近所のスーパーまで買い物。サイは意気揚々と自転車を漕いで買った折り紙を前かごに入れていた。大根と手羽中の煮物。肉がとろとろになって嬉しかった。大森さんのラインライブを観てから寝る。サイは画面の中の大森さんに話しかけていた。